そこに線路があるかぎり

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【北海道】ダルマストーブに当たりながら 冬の釧路湿原と野生動物を車窓から満喫 「SL冬の湿原号」の旅 〔標茶~釧路/JR釧網本線〕(2019年)

冬はやっぱり雪が見たい、と出かけた1泊2日北海道旅行。
土曜日に飛行機で北海道入りしましたが、利用した羽田から根室中標津へのフライトは羽田12:15発 根室中標津13:55着の1日1便だけ。朝はゆっくりできますが、北海道に着いてからのその日の行動は限られてしまいます。根室中標津空港に到着してから近くの道立ゆめの森公園で少し遊び(空港からタクシーで5分の近さ、入場無料ながら小さい子供がかなり楽しめる、とても充実した施設でした)、予約制のひがし北海道エクスプレスバスの乗り合いバンで川湯温泉のホテルへ。ここは豊富な湯量と泉質に定評のある白濁の温泉ですが、酸性の湯なので幼児の肌に刺激が強すぎはしないか少々心配もありました。しかし結果としてわが子は湯舟に浸かっても全く問題なく、また上がり湯用に温泉ではない普通のお湯が張られた湯舟も用意されているという有難い配慮もあり、子供と一緒に雪の見える露天風呂で楽しく入浴することができました。

明けて日曜日、川湯温泉からバスに乗り屈斜路湖の浜辺で、朝の湖に憩う白鳥を手に触れるほどの近さで観察。この辺りは砂湯といって浜の砂を掘ると温泉が湧き出るところで、あたたかい砂浜に雪はなく、結氷している湖面も波打ち際近くだけには氷がありません。f:id:nikonikotrain:20190217092317j:plain

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白鳥を見た後はふたたびバスに乗り摩周駅へ行き、摩周からはJR釧網本線(せんもうほんせん)のルパン三世のラッピング列車(作者が釧路近くの浜中町のご出身だそうです)で再び川湯温泉に戻り、足湯に入ったり、雪の中での乗馬を楽しんだりした後、川湯温泉を11:56に出る釧路行き普通列車に乗って標茶(しべちゃ)に向かいます。2両編成の列車は観光客で満員で、とうとう12:39に標茶に着くまで座ることはできませんでした。標茶からはこの旅行の最大の目的である、SL冬の湿原号に乗車します。

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JR釧網本線と観光列車

JR釧網本線(せんもうほんせん)は網走から東釧路までを結ぶ全長166.2kmの路線です。沿線には知床や屈斜路湖摩周湖などの観光地の玄関となる駅があるほか、網走側にはオホーツク海に沿って走り、冬には流氷も見られる区間があったり、釧路側ではラムサール条約に登録されている日本最大の湿原、釧路湿原の中を走る区間があったり、沿線観光地や車窓の美しさにも恵まれています。とはいえ大幅な赤字を抱えており、2016年にJR北海道が発表した「当社単独では維持することが困難な線区」の1つに挙げられていて、2018年実績の管理費を含んだ営業係数は603、つまり、100円稼ぐために603円のコストがかかっているという状況です。

そのような赤字路線ではありますが、車窓から雄大な自然が楽しめるという利点を生かしていくつかの観光列車が運転されていて、釧路側の釧路湿原を走る区間では「くしろ湿原ノロッコ号」というトロッコ列車の運転が1989年から、冬にはその車両を使って網走側のオホーツク海沿い区間で車窓から流氷が眺められる「流氷ノロッコ号」の運転が1990年から始まりました。(ノロッコとは、ゆっくり走るトロッコ列車というような意味でしょう。冬季はトロッコ車には窓がはめられて運転されます)
ノロッコ号用のトロッコ車両は冬の間は網走側に行ってしまうので、その埋め合わせをということかどうかはわかりませんが、2000年からは冬の釧路側でも、釧路湿原観光列車として「SL冬の湿原号」の運転が始まりました。
その後、冬の間に除雪列車用の機関車が老朽化のため使用できなくなってしまったことを受け、流氷ノロッコ号をけん引している機関車を除雪用に使うことになりました。それにより機関車が不足し、流氷ノロッコ号の運転ができなくなったため、流氷ノロッコ号は2017年よりディーゼル車の「流氷物語号」に生まれ変わりましたが、釧路湿原観光の列車、くしろ湿原ノロッコ号とSL冬の湿原号は現在も変わらず運転されています。列車に乗りながらにして流氷観光と湿原観光ができることは釧網本線の大きな魅力であり、その観光のための列車は長きにわたって運転されていて、観光客の人気を集めていることをうかがい知ることができます。

SL冬の湿原号の指定席券を買う

SL冬の湿原号は、例年2月を中心に運転されており、2019年は1/26,27,2/1-12,15-17,21-24 の計21日の運転がありました。運転区間は釧路~標茶(しべちゃ)の48.1㎞、午前中に釧路を出て夕方釧路に戻る1日1往復で、所要時間は標茶行きが1時間30分、釧路行きが1時間40分。客車5両をC11型機関車が牽引するフォーメーションで、釧路から標茶に向かう列車では機関車が前向きに連結されますが、標茶から釧路へ戻る列車では機関車が後ろ向きに連結されて客車を引っ張るのがユニークなところ。全席指定なので乗車するには乗車券のほか、指定席券が必要です。2019年当時は釧路~標茶の片道大人1人の乗車券が ¥1,070、指定席券が¥820(子供運賃、料金はそれぞれ大人の半額)でしたが、現在は少々値上がりしています。なお、 SL冬の湿原号の指定席券はJR東日本のネット予約、えきねっとでも取り扱っており、家にいながらにして予約できるので大変便利です。(その後えきねっと取り扱い駅で切符の引き取りが必要)

SL冬の湿原号に乗ろうと決め空席状況を見てみると、こういう臨時列車ではよくあることですが、釧路から標茶に行く朝の列車のほうが混雑していて、乗りたい日程の土曜日の釧路発はすでに満席でした。そこで日曜午後の釧路行きの空席を見てみるとまだ余裕があったので、こちらを予約することに。子供2人は未就学児なので大人と一緒であれば無料で乗車できますが、その場合座席を確保することはできず、大人のひざの上か、キツキツに詰めて隙間に座らせなければなりません。座席は4人掛けのボックス席なので、全席指定のこの列車では他の乗客の方と同じボックスに相席になる可能性もあり、そうすると非常に狭苦しいことになるので、ここは子供2人分も子供の指定席券を買って家族4人で1ボックスを使用することにしました。なお、未就学児が指定席を利用する場合、子供の指定席券だけでなく子供の乗車券も購入する必要があります。

標茶駅でSLとご対面

 普通列車標茶で降りると、線路の向こう側のホームにSL冬の湿原号が停車していました。私たちが乗った普通列車が到着する4分前に到着した、釧路発の列車です。向こうのホームもこちらのホームも、SLを撮影する人たちで賑わっていました。10分ほど経つと列車はSLが後ろから押す形で釧路方面に向かって走り出し、駅の入り口のポイントを過ぎたところで向きを変え、SLが先頭になって、今度はこちらのホームに入って来ました。

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目の前に入ってきた客車に取り付けられたサボ(行先などが書かれた看板)を見ると鶴があしらわれた素敵なデザインのものでした。驚いたことに年まで書かれているので、これは今年限定のものということなのだと思います。これはリピーターにとっても毎年乗る楽しみのひとつとなりそう。

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列車の入れ替えを見た後は跨線橋を渡っていったん改札口を出て駅の待合室へ。いまは13時、SLの出発は14時、あとちょうど1時間の待ちですが、おなかがすいたと主張する子供たちに、SL列車に乗ったらお弁当を食べようね、と言ったところで収まるはずもなく、ちょうど駅前にセブンイレブンがあったので軽食を買い、おなかを満たします。

SL冬の湿原号に乗車

標茶 14:00 ---> 釧路 15:40 釧網本線 SL冬の湿原号

13時40分ごろにSL冬の湿原号釧路行きの改札が始まり、ふたたびホームへ。すでに機関車は釧路寄りに付け替えられていますが、進行方向にお尻を向けた形で客車に連結されています。SLの向きを変えるにはSLを乗せてぐるりと回転する転車台という設備が必要ですが、限られた期間しか運転されないSLのためだけに転車台を整備するのも難しいのでしょう。ただ、この逆向きの連結は非常に印象的で面白く、この姿を見られるなら、むしろ転車台がなくてよかったとすら思えます。

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白い大地に黒いSL、これこそ冬の北海道のSL列車!f:id:nikonikotrain:20190217134437j:plain

客車内にはダルマストーブ

 客車内は2人掛けシートが向かい合った4人掛けのボックスシートで、各ボックスには大きなテーブルが備え付けてあります。私たちのボックスの通路を挟んだ向かい側には座席はなく、その代わりに石炭炊きのダルマストーブがありました。シベリア鉄道では万一の停電や機械の故障があったりするとあまりの寒さに命の危険すらあるので、機械式のストーブではなく、電気がなくても使用できて安心な、アナログの石炭ストーブを使用していると聞いたことがありますが、このダルマストーブもシベリア鉄道のように極寒地ゆえのフェイルセーフのためでしょうか? 
車内販売でスルメを買えばこのストーブの上で炙って食べることができます。f:id:nikonikotrain:20190217134840j:plain

人気駅弁、摩周の豚丼を食べる

さきほど駅で待つ間に小腹は満たしましたが、SLに乗ったらお弁当を食べようね、のフレーズは子供たちの耳に残っていたようで、乗車するとさっそく「お弁当が食べたい」と言い出しました。座席の前にある大きなテーブルで紐を解くのは人気駅弁「摩周の豚丼」。これはさきほど標茶に来る普通列車に乗車中、途中の摩周駅で仕入れたものです。摩周駅での停車時間はわずかでしたが、事前に電話予約すれば乗車している列車のドアのところまでお弁当を届けてくださるサービスを行っているので、川湯温泉駅で普通列車に乗車するときに摩周駅の駅弁屋さんに電話して頼んでおいたのでした。おつりのないように用意したお金を握りしめ、摩周駅でいったんホームに降りて受け取ったお弁当はできたてで温かく、今すぐ食べたいという衝動にかられましたがなんとか我慢し、こうしてSL列車の中で名物駅弁を食べるという旅らしいイベントをすることができました。
待ちに待った摩周の豚丼を食べてみると、さめてもやわらかい、香ばしく焼かれた豚肉に甘辛ダレが絡み、ご飯が進む、大変おいしいお弁当です。甘辛は子供が大好きな味付け、ふりかかっているコショウをよけつつ、子供たちも旺盛な食欲を見せています。

お弁当を食べていると汽笛がなり、列車はゆっくりと標茶を出発しました。

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駅に着くと雪原に戯れるタンチョウが目の前に 

標茶から20分少々で最初の停車駅、茅沼に着きます。ここはタンチョウが集まる駅として有名で、右側の車窓には雪原に遊ぶタンチョウたちの姿が間近に見えました。
もともとは駅の職員の方が餌付けをしたのが始まりだそうで、駅が無人化した現在は、地元の方が餌をやっているようです。餌付けしているとはいえ、これだけたくさんの野生の鶴を列車の窓から見ることができるというのは貴重な体験です。子供も楽しそうに鶴を眺めています。 

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タンチョウたちに別れを告げて茅沼を出発。原野や林のなかを進んで行きます。 

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客車の最前部に行くと、貫通扉の窓からこちらに顔を向けたSLが煙を吐きながら上に下にゆれているのが見えました。走っているSLの顔を正面から観察できるのも、SLが逆向きに連結されているこの列車ならでは。

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野生のシカも見えた!釧路湿原の中を走る

茅沼の次の塘路では反対列車との行き違いのためおよそ10分ほどの停車時間がありました。構内の踏切を渡って反対ホームに行くと列車の頭からお尻までが見渡せ、カメラを持ったたくさんの人たちがここで写真を撮っています。広々とした感じの北海道らしいローカル駅で、遠くに来たなあという気分になります。

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黒いSLに赤いヘッドマークが映えます。背景の冬の原野も北海道らしいもの。

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 塘路を出て、釧路川に沿って釧路湿原の中を走ります。釧路川は今朝訪れた屈斜路湖を源とする川で、摩周のあたりから車窓の友として姿を見せたり隠れたりしています。SL冬の湿原号は終着釧路の少し手前でこの川を渡りますが、それまではずっと進行右側に流れているので、釧路行きに乗る場合は右側の席をとったほうが川がよく見えます。この川ではカヌーもできるそうなので、ぜひ今度はカヌーを漕ぎに来てみたいものです。

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f:id:nikonikotrain:20190217150611j:plain川を眺めていたら、向こう岸に野生のシカの群れが!しばらく行くとまた別の群れを見ることができました。タンチョウにシカ、SL冬の湿原号は野生動物を探す楽しみ、見る楽しみがある列車です。f:id:nikonikotrain:20190217150635j:plain

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 やがて湿原を抜け徐々に家並みが増えて行き釧路の市街地に入ります。最後の停車駅、東釧路釧網本線の終点ですが、あくまでもそれは線路の戸籍の話であり、すべての列車はここで合流する根室本線に乗り入れてターミナルの釧路駅に直通します。塘路のあたりから東釧路の手前までは釧路町という自治体、その先が釧路市という自治体になりますが、おなじ名前の町と市が別にあり、しかもそれが隣り合って存在しているとは、なかなか紛らわしいことだと思います。
すっかり街中の川らしくなり川幅も広がった釧路川を渡ると15:40、終点の釧路に到着。標茶から1時間40分のSLの旅も終了です。この列車にはカフェカーも連結されていたので、そこでコーヒーでも飲もうかとも思っていたのですが、移り変わる車窓に釘付けになっているうちにすっかりそんなことも忘れ、訪れる機会を逸してしまいました。。
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車庫に向けて引き上げて行くSL冬の湿原号をお見送り。日も落ちて、ホームには冷たい風が吹きつけています。

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野生動物と自然の景観、白い雪原を進む黒いSL、この時期にここに来たからこそ見られる美しい車窓が魅力のSL冬の湿原号の旅は、旅行の素晴らしい思い出となりました。

SL冬の湿原号
SL冬の湿原号|JR北海道- Hokkaido Railway Company

 

帰りの飛行機で頂いたキャンディーの詰め合わせ。CAさん手描きのこの顔、これだけで子供のテンションも大いに上がり、最後まで楽しい旅にしていただけたことに感謝です。

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2019年2月