秋田県北部、北秋田市の鷹巣(たかのす)から南下し、仙北市の角館(かくのだて)までを結ぶ秋田内陸縦貫鉄道は、その名の通り、秋田の内陸部を縦貫する鉄道路線です。全長94.2㎞という長い路線ですが、沿線に大きな都市はなく、のどかな里や山の風景を存分に楽しめます。その秋田内陸縦貫鉄道に2005年の冬に乗車し、雪景色のローカル線の旅を楽しみました。
国鉄から転換された第三セクター路線
秋田内陸縦貫鉄道の路線は、秋田内陸線という1路線です。鷹巣でJR奥羽本線と、角館ではJR秋田新幹線・田沢湖線と接続しているほかは接続路線はありません。
もともとは国鉄鷹角(ようかく)線として計画され、国鉄時代には北の鷹ノ巣から比立内までの阿仁合線、南の角館から松葉までの角館線という2つの行き止まり路線となっていました。1986年に両線は国鉄から第三セクター化され、その後1989年に比立内と松葉の間が開業したことで、鷹巣から角館が1本の路線で結ばる現在の形の路線になりました。
なお、鷹巣駅は、JRが「鷹ノ巣」、秋田内陸縦貫鉄道が「鷹巣」という風に、書き方が違いますが、読み方はどちらも「たかのす」です。もともとの町の名前は「鷹巣」ですが、国鉄駅では「鷹ノ巣」という表記を採用していたため、内陸線の駅になった時に地名に忠実な書き方に戻したようです。国鉄駅ではしばしばこのように地名と微妙に違う駅名が見られ、岩手県の一関市にある一ノ関駅(読みはいずれも「いちのせき」)や、福島県原町(はらまち)市の原ノ町(はらのまち)駅、北海道は旭川(あさひかわ)市の旭川(あさひがわ)駅など、ちょっとした雑学クイズのネタになるような状況でした。
武家屋敷や桜並木が有名な角館
秋田内陸線には南の角館から乗ることにしました。角館は武家屋敷や桜並木が有名な観光地です。秋田新幹線「こまち」も停車するので、東京から乗り換えなしでアクセスできます。
雪に覆われた角館の古い町並みは白と黒の世界。
武家屋敷の近くを流れる桧木内川も雪の中。この川の堤が有名な桜並木になっていて、春には多くの花見客で賑わいます。
角館から急行「もりよし」に乗る
角館駅から秋田内陸線の急行「もりよし」に乗って終点の鷹巣に向かいます。急行「もりよし」は秋田内陸線で運転されている急行列車で、乗車するには乗車券のほかに急行券が必要です。愛称の由来は、沿線の森吉山から。
「もりよし」はこの当時は急行用のAN8900形という車両が使われていて、1日に全線運転の列車が1往復、一部区間のみ運転の列車が片道1本運転されていました。
「もりよし」は2両編成で、鷹巣方が緑、角館方が赤の派手な塗装。
隣のホームから東京行きの秋田新幹線「こまち」が発車していきました。E3系のこまちも、今見ると懐かしい感じがします。
「もりよし」の車内は中央部にラウンジ風のシートが設けられていました。ここで地元の乗客の人たちがお国言葉で世間話に花を咲かせている光景が目に浮かびます。
雪景色の秋田内陸線を走る
雪晴れの角館駅。
角館を出ると、少しの間、秋田新幹線と並走します。秋田新幹線といっても、ここは新幹線が在来線の田沢湖線に乗り入れている区間。
雪原の中に二条のレールだけが続いています。
松葉駅を過ぎると、1989年に開通した新線区間になります。線路が見えていれば、レールや枕木、路盤や構造物が新しく、一目見て新線区間に入ったことがわかるはずですが、雪に覆われていてはそれもわかりません。
対向列車と行き違い。おそらく上桧木内駅だと思われます。
秋田内陸線の一般車両は、車両によって異なる色に塗られています。これは紫の車両でした。
どんどん山の中に入って行きます。鉄橋のトラスの上にもたっぷり雪が積もっていました。線路の路盤が見えない中、この鉄橋のトラスだけが新しいものであることを感じさせます。
鉄橋を渡り、杉の木立の中を走ります。雪が積もった針葉樹、その中を走る線路、
沿線の中心駅である阿仁合(あにあい)を過ぎ、山をくだっていきます。
鷹巣までで最後の交換可能駅、合川で赤い車両の普通列車と行き違い。鮮やかな原色の車両はモノトーンの雪景色に映えます。
鷹巣駅は大館能代空港(あきた北空港)に近く、ここから飛行機に乗れば羽田までひとっとびです。南で秋田新幹線、北で航空便に乗り継げる秋田内陸線は、意外と東京から日帰りでも乗りに行きやすい、便利な立地にあります。
秋田ののどかな風景の中を走る秋田内陸線。東京からは少し遠いですが、新幹線や飛行機でのアクセスは良いところにあります。週末にふらっと、角館の観光などとあわせて、四季折々の風景の中を走る秋田内陸線の旅を楽しんでみるのも良いかもしれません。
2005年12月