いつか行ってみたいと思っていたインドに行く機会ができたのは2016年1月のこと。1週間ほどの滞在でデリーとチェンナイ、2都市を訪問しました。
搭乗していたJALの飛行機がデリーの空港に着陸すると、なにやら機内にはスモッグのような匂いが漂ってきて、早くもデリーの大気の状態がいかなるものであるかという洗礼を受けます。インド北部に位置するデリーの1月の夜は寒く、日本から着てきた冬の服装でちょうどいい感じでした。空港からホテルに向かう車の窓から見えたのは久しぶりに見る活気あるアジアの街角風景で、見ているだけでワクワクします。
デリーのインディラ・ガンディー国際空港はデリー市街から南西に15㎞ほどのところにありますが、この空港からさらに南西に15㎞ほど行くとグルガオンというデリーの衛星都市があり、今回はそこにあるホテルに滞在します。なお、訪れた3か月後の2016年4月、グルガオンはグルグラムという名前に改称したそうです。
デリーでの仕事を終えチェンナイに移動する日、夕方のフライトまで自由な時間が取れました。仕事先の方から「デリーは初めてか?車を仕立てるから、せっかくだからフライトまでの時間でデリーを観光してみないか?」とお誘いを頂くことに。もともと一人で街をぶらぶらしてみようと思っていたので、有難くお願いすることにしました。
野良豚が闊歩する街角
ホテルの部屋から見る朝もやの風景。グルガオンは急速な発展ゆえか、インドの中でも大気汚染が著しい街らしいので、朝もやと言っても風情のあるものではありません。
いままではホテル周辺を歩く時間もありませんでしたが、今日は朝の散歩に出てみます。
ホテルの目の前の広場では、クリケットだか何かのスポーツを楽しむ人々で賑わっていました。このあたりは商業エリアではないのか、道路を行き交う人もそれほど多くはありません。
インドの街角風景といえば、やっぱり牛。道端をわがもの顔で歩く牛を間近で見てみたい!と思っていたのですが、残念ながらこのあたりでは全くみかけません。どこの町でも、どこもかしこも牛がいるようなイメージを勝手に持っていたのですが、そういうわけではないようです。
牛は見かけませんが、道の向こうに何やら動物の影が。近寄ってみると、なんと野良豚でした。
豪快に毛が逆立っているのは豚というよりはイノシシっぽいです。豚とイノシシの見分け方はよくわかりませんが、豚とイノシシ両方がいるのかもしれません。
野良犬のように街に溶け込む豚/イノシシたち。なかなか珍しい、インドらしい街角風景を見ることができました。
朝の散歩(ほぼ豚見物)を終えてホテルに戻り、約束の時間に迎えに来てくれた車に乗って、デリー観光に出発。何か見たいものがあるか、と聞かれたので「牛」と即答すると、「牛なんてどこにでもいる、ほら、そこにも」と言われて窓の外を見ると、確かに道端に牛がいました。もっとたくさん牛がいるところを歩いてみたい、と言うと、だったらオールドデリーがいい、その道すがら寄れる観光地に立ち寄りながらオールドデリーに行ってあげよう、ということになりました。デリーの観光地についての予備知識はほぼなかったので、有難い話です。
イスラム遺跡と錆びない鉄柱 世界遺産クトゥブ・ミナール
まず連れて行っていただいたのがクトゥブ・ミナール。1993年に世界遺産に登録されたという、800年前の遺跡です。ミナールといえばイスラムのモスクにある塔のこと、現在ではヒンドゥー教がメジャーなインドですが、800年前には中央アジアから入ってきたイスラム王朝がここにあり、この王朝がヒンドゥーに勝利したことを記念して建てられたのがこのクトゥブ・ミナールなのだそう。
入場券を買ってゲートを入るとフォトスポットがあり、みんなここで写真を撮っています。イタリアのピサの斜塔では倒れてくる塔を手で押さえるポーズで写真を撮るのが定番ですが、クトゥブ・ミナールでは塔を上から押さえたり抱えたりというポーズが人気のようです。
塔の高さは72.5m、基部の直径は14.3mで先に行くほど細くなり、先端部の直径は2.75mとのこと。800年前と言えば、日本では、いい国つくろう鎌倉幕府、の頃というわけですが、そんな昔から建っている塔だと思うと、歴史の長さに改めて感動させられます。
ミナールが見下ろす細い柱が、「錆びない鉄柱」として有名な、チャンドラヴァルマンの鉄柱で、こちらはミナールよりもはるかに古く、4世紀ごろに鍛造されたものと言われているそうなので、その歴史はなんと1600年!
ここに建っているのが当時からのもので、1600年経っても錆びていないので「錆びない鉄柱」なのだそうですが、錆びない理由は99.72%という純度の高い鉄だから、と言われています。純度が高いと錆びないのかどうかは知りませんが、見た感じでは表面は黒っぽいような茶色っぽいような古い錆のようになっているので、表面がなんらかの被膜に覆われ、中の鉄が錆から守られた状態なのかもしれません。昨今の建築物でも、あえて表面に錆びを発生させることで内部を腐食から守り、塗装が省略しても大丈夫という茶色い鉄橋なども見たことがあります。
ミナールやさびない鉄柱の周辺にある崩れかけた遺跡群もまた味わい深いもの。
クトゥブ・ミナールより高い塔と建てようとしたものの、財政難のため土台部分を造っただけで工事がストップしてしまったというアライー・ミナールは、まるで巨大なカヌレ。
蓮の花を模した建築が美しいロータステンプル
次に訪れたのはロータステンプルと呼ばれる寺院。ここはバハーイーという宗教の礼拝所だそうですが、宗教は関係なく誰でも見学することができます。きれいに整備された庭園の中の通路を通り、純白の蓮の花の形をした本堂に近づいていきます。途中で靴を脱いで預け、さらに進んでたどり着いた広い本堂の中には教会のように椅子が並んでいて、みんな静かに祈りをささげていました。
本堂の足元には池があり、青い池と白い屋根のコントラストがきれいです。行ったことはありませんが、シドニーのオペラハウスのようにも見えます。
この寺院は1986年に建立されたとのことなので築30年ほどですが、その歴史を感じさせない、よく手入れされた美しい建物でした。
ロータステンプルを出てデリー市内に向かう道では、渋滞に巻き込まれてしまいました。身動きのとれない車の間を縫って、いろいろなものの移動販売員がやってきます。車の日除けやお菓子などの販売は、意外と需要があるかもしれません。積み上げた雑誌のようなものの上に紙でできた家が乗っているのは、紙工作の本を売っているのかもしれませんが、これは見るからに重くて大変そうです。
スモッグにかすむインド門と大統領官邸
第一次世界大戦の戦没者を悼み建造され1931年に完成したというインド門は、政府機関の集まるニューデリーの中心部にありますが、周囲は広場になっていて高い建物もないので存在感が際立ち、とても印象的な建物です。この時は何らかの規制なのか、近くまで入ることができなかったので、車の中からの見学だけになりました。
インド門からまっすぐ続く道の先には大統領官邸があります。ここから振り返れば、一直線の道の向こうにインド門が見えるはずですが、モヤに霞み、おぼろげになんとなく形がわかる、という状況です。デリーの大気汚染は深刻だと聞きますが、これがすべてスモッグなのだとしたらなかなかのもの。ここで暮らす人たちの健康も心配になります。
途中の渋滞に思った以上に時間を食ってしまい、この先も渋滞が心配されることから、フライトにはまだ早いもののここで観光を終え、空港に行くことになりました。残念ながら楽しみにしていたオールドデリーは、いつになるかわからない次の機会におあずけです。
空港近くの食堂でカレーを食べ、搭乗した飛行機で機内食を食べ、一路チェンナイへ。
インドの喧騒や牛を感じながらの街歩きはできませんでしたが、短いながらも効率的にデリーの名所を見せて頂くことができたのは、大変ありがたく、楽しいひとときでした。またいつか、デリーの街をゆっくり歩いてみたいものです。
2016年1月