そこに線路があるかぎり

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【スイス】雪景色のアルプス 標高2000m超えの絶景車窓を楽しむ レーティッシュ鉄道ベルニナ線からマッターホルン・ゴッダルド鉄道の旅 (2005年)

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北イタリアのティラノから国境を越えてスイスに入り、アルプスの山岳リゾートとして有名なサンモリッツまで、ベルニナ線という路線があります。ここにはベルニナ急行と呼ばれる観光列車が走っており、また、サンモリッツからマッターホルンの麓にあるツェルマットまでは、氷河急行という列車が走っていて、これらの列車は沿線の景色が美しいことから、世界中の観光客に人気があります。
ベルニナ急行や氷河急行が走る路線には地元の方々の足となるローカル列車も走っており、これに乗ればその土地の普段着の姿を見ながらの鉄道旅行をすることも可能です。
2005年の冬、ローカル列車に乗ってベルニナ急行~氷河急行ルートの一部を通り、雪のアルプスの風景を楽しみました。

ベルニナ線の始発駅ティラノへはミラノからのアクセスが便利

ベルニナ線の始発駅ティラノは、北イタリアの経済の中心地、ミラノの北東110㎞ほどのところにあります。ミラノ中央駅から直通の列車も出ていて、所要時間はおよそ2時間半から3時間と言ったところ。この時の旅もミラノからの1泊2日の小旅行でした。

ミラノ中央駅から、ソンドリオ行きの快速列車で出発。この時は、ちょうど利用する時間帯の列車がティラノまでの直通ではなく、ソンドリオでの乗り換えが必要な便でした。ソンドリオは、ティラノの手前25㎞ほどのところにある地方都市です。

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アルプスの麓のソンドリオで、丸っこい車体の旧型の電車に乗り換えです。ヨーロッパでは、客車には動力がなく、機関車が牽引したり後押ししたりする動力集中方式の列車が多いですが、ソンドリオから乗り継いだ列車は客車にモーターがついている電車方式で、走り出すと床下から昔ながらの釣り掛け式モーターの音が響いてきました。

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ティラノ駅でスイスに入国 赤い列車で雪のアルプスへ

ミラノから乗ってきたイタリア鉄道のティラノ駅舎を出ると、左手にもうひとつの駅舎があり、そこがベルニナ線のティラノ駅でした。スイスはEUには入っていませんが、協定加盟国相互の国境審査がないシェンゲン条約に入っており、現在ではイタリアとスイスの国境通過の際にパスポートコントロールはないはずですが、2005年当時はまだスイスはシェンゲンに入っておらず、ベルニナ線のティラノ駅のきっぷ売場からホームに出るところで国境審査が行われていました。
ホームに出ると赤く塗られた小ぶりな客車が発車を待っていました。左に見える白い客車はイタリア鉄道ティラノ駅に停まっている車両で、数本の線路と、貨物用ホームのようなところを挟んですぐ隣り合ってはいますが、こちらのホームはパスポートコントロールを越えてスイスに入国した状態なので、すぐ目の前に見える2本の列車の間には国境という目に見えない壁があるわけです。

ティラノから乗るのは、サンモリッツ行の普通列車。ホームの発車案内はアナログで、柱に設置された行先表示とその右下にある発車時刻を示す時計を、毎回手で変えているようでした。屋根から下がっている時計が現在時刻です。

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ベルニナ線はレーティッシュ鉄道という私鉄の路線ですが、このレーティシュ鉄道の車両は通常のヨーロッパの列車に比べて小ぶりで、線路幅もメーターゲージという通常よりも狭いものが採用されています。

ティラノ駅を発車した列車は、ティラノの町の中の道路の端を、路面電車のように走って行きます。

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列車の利用者は便宜上ティラノ駅で国境審査が行われていましたが、本当の国境はティラノから2~3㎞進んだあたりです。列車も特に速度を緩めたりするわけではなく、何事もないように走り続けるので、特に気にしていなければ、いつ国境を越えたのか気づく人も少ないと思います。もっとも、乗車しているのは普段使いのローカル普通列車ですので、国境を気にするような乗客もいないかもしれませんが。

列車は街道に沿って谷間を進みます。ぐるりと一周まわって高度を上げるループ線や急カーブの線路を走り、ティラノから30分ほどで列車はポスキアーヴォ湖のほとりにさしかかりました。

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ティラノの町は雪もなかったのですが、標高が上がり、このあたりでは日陰に雪が残っていました。

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アルプスをぐんぐん登り 天空の白い湖へ

ポスキアーヴォ湖を過ぎると、このあたりでは少し大きな町であるポスキアーヴォがあり、その先でベルニナ線はいよいよ本格的に山登りの様相を呈してきます。いままで右側に見えていた谷が左側にみえるようになり、また右側、そして左側と、線路はヘアピンカーブのつづら折りの坂道を登り、みるみるうちに高さが上がってきました。
ちょうど日陰になっていてわかりにくいですが、ポスキアーヴォ湖の湖面、ポスキアーヴォの町を車窓から見下ろすことができ、もうこんなに登って来たのか、と驚かされます。

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列車はさらに高度を上げて行きます。

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どんどん山を登り、標高2,091mのアルプ・グリュム駅に到着。さきほど通り過ぎたポスキアーヴォから、線路としては約16㎞ほどの道のりでしたが、直線距離では約6㎞ほどしか離れていません。これは勾配を克服するために10か所ものヘアピンカーブがあったからであり、その甲斐あって、ポスキアーヴォとアルプ・グリュムの標高差は1,077mもあります。

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アルプ・グリュムからも、まだまだ山を登ります。

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やがて森林限界を超え、木々もなくなりました。

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トンネルを抜け、列車はラーゴ・ビアンコのほとりを走ります。イタリア語でラーゴは湖、ビアンコは白。白い湖という名のこの湖は、もともとあった自然の湖に堰を築き貯水量を増やしたダム湖です。湖面は凍結し雪が積もっていて、まさに白い湖という姿になっています。

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ラーゴ・ビアンコのほとりにある、オスピツィオ・ベルニナ駅は、ベルニナ線の最高所駅で、標高は2,253m。ここはケーブルや歯車式のラックレールなどの特別な設備を使わず、車輪とレールの摩擦だけで坂を登る路線としてはヨーロッパ最高所にある駅です。
始発のティラノ駅は標高429mなので、この列車は実に1,824mも登って来たことになります。

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峠を越えた線路は下り坂に変わり、列車の足取りも軽やかに。

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この列車は先頭の2両が強力なモーターのついた電車で、その後ろにモーターのない客車が連なる編成です。

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カーブを繰り返しながら、山を下りて行きます。

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乗り継いだアルブラ線は氷河急行も走るルート

終点のサンモリッツまで5.8㎞のところにあるポントレジーナ駅でベルニナ線の列車を降り、クール行きの列車に乗り換えます。
隣のホームに停車していた車両には、「箱根」の文字が。
日本の箱根登山鉄道は、急勾配路線を建設するにあたってこのベルニナ線を参考にしたと言われ、その縁からレーティッシュ鉄道箱根登山鉄道は姉妹鉄道の協定が結ばれています。箱根登山鉄道にも「ベルニナ号」という愛称が付けられた車両があります。

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ポントレジーナから乗車するクール行きは、機関車牽引の客車列車でした。

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ポントレジーナを出て10分ほどのところにあるサメダンという駅で、サンモリッツからやって来た線路が合流します。この辺りは路線が三角形になっていて、列車の向きを変えることなく、ティラノから来る列車もクールから来る列車もサンモリッツまで行くことができますし、クール方面とティラノ方面を直通することもできます。
氷河急行はサンモリッツから出ており、ベルニナ急行もクール行があるので、サメダンからクールの区間は、ベルニナ急行も氷河急行も走る路線ということになります。

ポントレジーナからクールまでの乗車時間は2時間ほど。サメダンでサンモリッツからの線路を合流し、また、シュクオルという温泉のあるリゾート地へ行く路線を分け、列車はアルブラ線という区間に入って山を下って行きます。窓から見える下り坂の道では、そりを楽しむ人たちの姿がありました。
さて、この列車には食堂車が連結されていたので、ちょうどおなかも空いていることですし、利用してみることにしました。温かい料理を食べながら美しい車窓を楽しんでいると、あっという間に夕暮れのクール駅に到着しました。
なお、さきほど乗ったベルニナ線とこのアルブラ線は、この後2008年に「レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」として世界遺産に登録されました。

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クールからライン川に沿ってディセンティス/ミュンスターへ 

クールで1泊し、翌朝は町を散策しながらクール駅に戻ります。

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山を背に建つとんがり屋根の時計塔やパステルカラーの建物が、とても素敵な雰囲気を出しています。

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クール駅から乗車するのはディセンティス/ミュンスター行きの急行列車。

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線路はライン川の上流部の谷に敷かれています。車窓からも川の景色が楽しめます。

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単線の路線なので、ところどころで反対方向の列車との行き違いがあります。行き違った列車が雪原を走り去って行くのが見えました。

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クールから約1時間15分ほどで終点のディセンティス/ミュンスターに到着。

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マッターホルン・ゴッタルド鉄道に乗り継ぎ

ディセンティス/ミュンスターからはマッターホルン・ゴッタルド鉄道(MGB)という会社の路線に変わります。線路の幅も同じなので、氷河急行は直通運転していますが、ローカル列車はここで系統が分離されていて列車を乗り換える必要があります。
ここまでのレーティッシュ鉄道も、マッターホルン・ゴッタルド鉄道も赤を基調とした塗装なので、あまり会社が変わったことを意識させませんが、マッターホルン・ゴッタルド鉄道は急勾配区間にラックレールが採用されているのが大きな違いです。

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ディセンティスを出て、雪の高原を走って行きます。

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雪に覆われた家々を見下ろして走っていると、停車した小さな駅からはたくさんのスキーヤーが乗ってきて、このあたりがスキーリゾートであることが感じられます。

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駅ですれ違った対向列車が去ったあとの線路には、2本のレールのあいだに歯車式の線路が敷かれているのが見えました。これがラックレールで、車両側に設置された歯車と噛み合わせ、急勾配を上り下りする方式です。

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ディセンティスから乗車した列車はオーバーアルプ駅が終点。この先に行く列車は、次は2時間後。この駅はスキーリゾートの中心のようで、駅のすぐ上にレストハウスがあったので、そこでゆっくりと昼食を食べながら次の列車を待つことにしました。

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レストハウスからは駅が見下ろせます。ここまで乗ってきた列車と、ディセンティス方面に行く列車、そして車を積んだ貨物列車が一堂に会し、小さな駅が少し賑わいます。

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やがてホームに列車を待つ人の姿が見え始め、私も駅へ戻りました。

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ここからアンデルマットに向かいます。

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アンデルマットは、アルプスを南北に貫き、ミラノとチューリッヒを結ぶスイス鉄道の幹線が通るゴッタルドトンネルの上にあたるところ。ここからゴッタルドトンネルの入り口にあるゲシェネンまでを走る短い支線に乗り換えます。

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アンデルマットから急坂をゆっくりと降りることおよそ15分、スイス鉄道ゲシェネン駅舎前の路面電車の乗り場のような場所にあるMGBゲシェネン駅に到着。1泊2日のスイスアルプスの列車の旅もこれで終わりです。
ここからはスイス鉄道に乗り換え、ミラノに戻ります。

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ミラノから1泊2日で出かけた旅は、変化にとんだ美しい車窓が思う存分楽しめる、最高の冬の鉄道旅となりました。

 

2005年1月