ハンガリーの首都ブダペストは、ドナウ川の河畔に広がり「ドナウの真珠」「東欧のパリ」などの異名を持つたいへん美しい街です。ドナウ川の西岸の「ブダ」地区と東岸の「ペスト」地区が1873年に統合され、「ブダペスト」というひとつの街になりました。
この街はまた、古代ローマ時代から利用されていたという温泉があることでも知られており、現在でも市内にいくつもの温泉施設があります。
そんなブダペスト市内の温泉のひとつ、セーチェーニ温泉を2014年5月に訪れました。
- 世界で3番目に古い地下鉄は世界遺産に登録
- 銀座線を思わせるブダペスト地下鉄1号線
- 圧巻の広大な露天風呂
- 趣のある屋内の風呂
- くさり橋が結ぶ「ブダ」と「ペスト」
- 美しい景色と心地よい風 王宮の丘
- ブダペストの素晴らしい夜景
世界で3番目に古い地下鉄は世界遺産に登録
セーチェーニ温泉は、ブダペスト市民の憩いの場である市民公園の中にあります。最寄りのセーチェーニ温泉駅までは地下鉄1号線が通じており、市内中心部にある始発のヴェレシュマルティ広場駅からセーチェーニ温泉駅までは地下鉄でわずか11分という近さです。
このブダペスト地下鉄1号線は1896年に開業した路線で、ヨーロッパ大陸ではロンドン、イスタンブールに次いで3番目に古い地下鉄としても知られています。なお、ここでカウントされる「世界で2番目に古い」イスタンブールの地下鉄は勾配を走る地下ケーブルカーなので、これを地下鉄ではなくケーブルカーとみなし、ブダペスト地下鉄1号線を「世界で2番目に古い地下鉄」とすることもあるそうです。
このブダペスト1号線はなんと世界遺産にも登録されています。ブダペストの世界遺産は1987年に登録された「ブダペストのドナウ河岸とブダ城」がありましたが、2002年にその範囲を拡大して「およびアンドラーシ通りとその地下」が追加され、アンドラーシ通りの地下を走る地下鉄1号線も晴れて世界遺産の仲間入りをしたというわけです。
銀座線を思わせるブダペスト地下鉄1号線
始発のヴェレシュマルティ広場駅から地下鉄1号線に乗ってセーチェーニ温泉に向かいます。駅は浅く、ホームの天井を支える柱はリベットが並ぶ鉄骨、やってきた車両は小ぶりで黄色に塗られており、駅の雰囲気から車両の色まで、昔の地下鉄銀座線を思わせる雰囲気です。
ホームには警察官か警備員の方が1人立っていて、私のポーチのチャックが少し開いたままになっていたのを見つけると「スリがいるからチャックはきちんとしめておきなさい。楽しい旅を!」と注意してくれました。とても安心感のある地下鉄です。
この駅は乗車ホームと降車ホームが分かれていて、降車ホームで乗客を降ろした列車はいったん引き上げ線に入り、進行方向を変えて乗車ホームに入って来ます。昔の銀座線も始発の渋谷駅ではこのようにして折り返していたので、ますます銀座線っぽさを感じます。ただ、この路線は右側通行であり、そこは銀座線とは決定的に違うところです。
引き上げ線から乗車ホームに入ってくる地下鉄1号線の列車。
ドアは外吊り式で開口部は広く、開いたドア同士が密着するほど隣のドアが近いです。
車体裾の切り欠き具合を見るかぎり、2両の車両の間に1つの台車がある、連接車体のようです。
始発駅ですが引き上げ線で折り返してきたので停車時間は短く、ホームで待っていた乗客が乗り込むとすぐに発車して行きました。
次の列車に乗り込み、10分少々でセーチェーニ温泉駅に到着。駅から地上に出ると広い公園の中で、その公園内にある黄色い建物が目指すセーチェーニ温泉です。地下鉄の出口から近く、非常にアクセスが良いです。
圧巻の広大な露天風呂
入場料を払い水着に着替え、まずは露天風呂へ。大きな3つの湯舟がある露天風呂ゾーンはとても広大で圧巻。露天風呂は多くの人で賑わっていて市民プールかのような様相を呈していますが、ここはれっきとした温泉。2本の源泉から供給されるお湯の源泉温度は74℃と77℃とのことでかなり高温ですが、湯舟の温度は日本人の感覚からするとぬるめの適温です。ただ、5月の日差しは暑く、日なたで長い間湯に浸かっている気にはなりませんでした。
3つある露天風呂のうち、まんなかのひとつは、がっつり泳ぐ用のプールになっています。このプールだけはスイミングキャップの着用が必要です。
黄色い壁が特徴的なヨーロッパの宮殿ふうの重厚な建物を見ながら入る温泉もまた格別です。銅像の下からは噴水のようにお湯が噴き出していて打たせ湯のよう。
みなさん思い思いに入浴しています。人気の壁際はかなり混雑。
この温泉の紹介ではよく見かける、風呂フェッショナルな棋士たちが打つ、温泉チェスの風景。湯温と気温でのぼせそうですが、お湯の中だけに、熱い戦いが繰り広げられています。
趣のある屋内の風呂
屋内には15個の湯舟があります。趣のある部屋にしつらえられた浴槽は、露天風呂に比べれば小さなものですが、隣の部屋にはどんな風呂があるのだろう、とわくわくしながら、部屋から部屋へ風呂巡りができます。
流れるプールのようにぐるぐるとお湯が流れている浴槽もありました。
ドーム状の高い天井と、窓から差し込む外の光がつくる陰影が美しい入浴空間を演出。
大混雑の露天に比べ人口密度の小さい浴槽もあり、じりじりと照りつける日差しもない屋内風呂はなかなか落ちつけてよかったです。
たっぷり2時間ほど入浴を楽しみ、再び地下鉄に乗ってヴェレシュマルティ広場駅へ戻りました。
くさり橋が結ぶ「ブダ」と「ペスト」
ドナウ川西岸の「ブダ」と東岸の「ペスト」の両地区を結ぶ「くさり橋」は、1849年に完成したブダペストのドナウ川で初めて架かった恒常的な橋です。正式には「セーチェーニ鎖橋」と言う名前で、さきほど入ったセーチェーニ温泉のすぐ近くにあるかのようにも思ってしまいますが、両者は3㎞少々離れたところにあります。セーチェーニとは19世紀に活躍したハンガリーの政治家、セーチェーニ・イシュトヴァーンのことで、この人物にちなんで橋も温泉も、セーチェーニと名付けられたそうです。
地下鉄1号線のヴェレシュマルティ広場駅は、くさり橋のペスト側のたもとの近くにあります。ペストから見たブダは丘になっていて、王宮の丘とも呼ばれるこの丘には、ブダ城や漁夫の砦、マーチャーシュ聖堂などの観光名所や、大統領官邸などの政府機関もあります。
くさり橋のブダ側のたもと近くには、この王宮の丘に登るケーブルカーが見えました。川沿いにはトラムが走っているのも見えます。
くさり橋は片側1車線という幅の狭い橋です。この橋は吊り橋で、重厚な石造りの主塔や何本ものワイヤーが美しいです。
丘がたちはだかるブダ方面の眺め。
平坦な土地にビルが連なるペスト方面の眺め。
くさり橋の上から見た、美しき青きドナウ。右側に見える尖塔と丸屋根が印象的な建物は国会議事堂。
美しい景色と心地よい風 王宮の丘
くさり橋のブダ側のたもとの風景。丘の下をくぐるトンネルと、丘を登るケーブルカーが並んでいます。
丘の上へと続く道からは丘の上の教会の塔や漁夫の砦などが見えます。
漁夫の砦へと続く石段を登り、丘の上へ。
丘の上からはドナウ川と、ペスト側の街並みが一望できます。
右に見える橋がくさり橋です。
ブダペストの素晴らしい夜景
ブダペストでは、この王宮の丘の上にあるヒルトンブダペストに宿泊しました。
夕食後に散歩に出かけると、そこに広がっていたブダペストの夜景はため息が出るほどの美しさ。
昼間よりだいぶ観光客の少なくなった王宮の丘をゆっくり散歩できるのは、王宮の丘に宿泊する最大のメリットだと思います。
丘の上からは全体像が見えないくさり橋も、たもとまで来ればきれいにライトアップされた姿を見ることができます。本当に美しい橋です。
昼間の暑さが嘘のように、夜はガクンと気温が下がります。寒いくらいの空気がまた、夜景をより美しく瞬かせているようにも感じられます。
石段の踊り場では、バイオリンを弾く人が。
ホテルのすぐ近くでこんなに美しい夜景が楽しめるとは。景色に圧倒されつつ、ただただ歩いてしまう幸せな夜の散歩。
良い温泉に美しい街並み、ブダペストは何日でも居たくなってしまう、とても魅力的な町です。またいつかゆっくりと再訪し、温泉を街歩きを、ゆっくり楽しんでみたいと思います。
2014年5月