そこに線路があるかぎり

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【スイス】世界遺産ラヴォー地区の葡萄畑 レマン湖を見下ろし小さな村をつなぐ ワインの里の絶景の道を歩く(2013年)

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スイス南西部のレマン湖の湖畔、ローザンヌからモントルーあたりにかけての丘陵地帯に広がる葡萄畑は「ラヴォー地区の葡萄畑」として世界遺産に登録されています。湖畔からつづく急な傾斜地一面に広がる葡萄畑と湖、そして湖を囲む山並みと、とても美しい景色が広がるラヴォー地区を、2013年4月に歩いてみました。あいにくの天気ではありましたが、湖を見下ろす絶景の葡萄畑の景観はもちろん、通りすぎるいくつものかわいらしい村の風景がとても印象的でした。

世界遺産 ラヴォー地区の葡萄畑

スイス、ラヴォー地区の葡萄畑は、2007年に世界文化遺産に登録されました。
スイス南西部にあるラヴォー地区とは、国際オリンピック委員会IOC)の本部があることでも知られるローザンヌ近郊から、東に30㎞ほどのところにあるモントルー郊外のシオン城まで、レマン湖の北岸のエリアのことで、地域によってドイツ語、フランス語、イタリア語の3言語が主要な使用言語となっているスイスの中で、フランス語圏にあたります。
このあたりではローマ時代からワインの生産が始まっていたとされ、11世紀にこの地域を支配した修道院により組織的な生産を開始、14世紀には現在みられるような石垣による段々畑が作られていたのだそうです。この地区は現在でもスイス屈指のワイン生産地となっており、何世紀にも渡って受け継がれてきた葡萄栽培とワイン生産は、長い間変わらず受け継がれてきた文化として価値のあるものだと言えるでしょう。

なお、ワイン生産地としてラヴォー地区は、ローザンヌからモントルー郊外(シヨン城近辺)までのエリアのことを言いますが、世界遺産に申請登録したのはこのエリアに所在する自治体のうち、以下の14自治体(村)なのだそうです。

・リュットリLutry
・ヴィレットVillette
・グランヴォーGrandvaux
・キュリーCully
・リエRiex
・エペスEpesses
・ピュイドゥーPuidoux
・シェーブルChexbres
・リヴァRivaz
・サン=サフォランSaint-Saphorin
・シャルドンヌChardonne
・コルソーCorseaux
・コルシエ=シュル=ヴヴェイCorsier-sur-Vevey
・ジョンニーJongny

ラヴォー地区の葡萄畑 | スイス政府観光局 (myswitzerland.com)

ラヴォー地区へのアクセス

ラヴォー地区は東西30㎞ほどの広いエリアですが、そこへのアクセスの拠点となる都市のひとつがローザンヌです。ローザンヌには空港がなく、最寄りの国際空港はジュネーブで、ジュネーブ空港からローザンヌまでは特急列車でおよそ1時間といったところ。
ジュネーブには日本からの直行便は飛んでいないため、日本からの直行便がある都市としてはチューリッヒだと、ローザンヌまで特急列車で2時間半ほどで行くことができます。また、スイス以外にも、フランスのパリから高速列車のTGVで4時間ほど、イタリアのミラノから特急列車で3時間半ほどと、周辺国からの列車アクセスも良いところです。
列車の時刻は、スイス国内はもちろん、パリやミラノからのアクセスでも、スイス鉄道(ドイツ語略称:SBB  フランス語略称:CFF  イタリア語略称:FSS)のサイトで発駅と着駅、乗車日時を入力することで調べることができます。
The SBB online portal for trains and public transport | SBB

なお、ミラノ方面からの列車だと、東端のモントルーからラヴォー地区を横切ってローザンヌに至るので、ローザンヌよりも手前で降りてローカル列車に乗り換え、ラヴォー地区にアクセスするといったことも可能です。

ラヴォー地区のまんなかあたり シェーブル Chexbres に宿泊

この時の旅では、シェーブル(Chexbres)に宿をとり、ラヴォー地区を散策しました。宿泊地にシェーブルを選んだ理由は、比較的小さな町で景観が良さそうなところに泊まりたかったこと、そして、ミシュランにお値打ちレストランがあるとして紹介されていたホテルが、駅からそれほど遠くなさそうなところにあったためです。

シェーブルはローザンヌの東10㎞ほどのところにあります。下の図はスイス鉄道の路線図ですが、Lausanne から東へ延びる2本の路線のうち、北側の路線に乗って Puidoux という駅で Vevey に向かうローカル線に乗り換えて3分で chexbres village という駅に着き、ここがシェーブルの入り口となります。

国際列車も発着するローザンヌ駅。東はイタリア、西はフランスにつながる東西を結ぶ幹線と、ベルン、チューリッヒといったスイス国内主要都市へ向かう幹線が分岐する主要駅です。

ローザンヌからベルン方面に向かう路線の普通列車に乗ると、列車はぐんぐん勾配を登って行きます。右側の車窓にはレマン湖、そして葡萄畑も見えてきました。このあたりがラヴォー地区の始まりでしょうか。

ローザンヌから10分ほど乗ったピュイドゥでヴヴェイ行きのローカル線に乗り換え、1駅3分でシェーブル Chexbres Village 駅に到着。片面ホームに線路が1本だけの小さな駅です。

ヴヴェイに向かって2両編成のローカル列車が走り去ると、シェーブルの村が姿を現しました。立体的に広がる家並みと新緑や花盛りの木々がとても美しいです。
ピュイドゥとヴヴェイの間はわずか15分ほどの距離で1時間に1本程度の列車が運転されていますが、この区間は2両編成のローカル列車が行ったり来たりしているようです。

宿泊したのはHotel Prealpina。駅から歩いて10分ほどでした。

チェックインし案内された部屋は、シンプルながら洗練されたデザインで、落ち着いて過ごせそうです。

窓を覗けば、葡萄畑ビューでレイクビュー、そしてトレインビュー。世界遺産の風景が広がる、最高の眺めです。天気が良ければ湖の向こうに雪をかぶった山々が見えるはずですが、あいにくこの日は対岸の山は雲の中。
目の前をヴヴェイ発ピュイドゥ行の列車が通り過ぎて行きました。葡萄畑の向こう側はレマン湖の湖面ですが、曇り空の下では、湖は薄もやのかかった灰色に。

シェーブル Chexbres の村を歩く

ホテルで少し休憩したら散歩に出発です。まず、さきほど列車を下りたシェーブル駅へ。駅へ向かう道すがら見下ろすシェーブルの村。斜面に沿ってスイスらしい家々が建ち並ぶ、とても素敵な町並みです。

レマン湖を見下ろす高台にあるシェーブル。

スイスでは街角によく泉があり、清冽な水が流れています。これらの泉はほとんどが飲用できる水らしく、歩き疲れたときにも喉を潤してくれます。山の斜面に位置するこのシェーブル、やはり泉の水源は湧水なのでしょうか。

かわいらしいピンクに塗られたシェーブル駅の駅舎。ワインの産地らしく、駅前には葡萄を絞る樽がモニュメントとしておかれています。

駅横にあった、線路を乗り越す道路を歩き、駅の反対側に行ってみます。とんがり屋根のシェーブル駅舎の右上に見えている、屋根に天窓のある背の高い建物が泊まっているホテルです。

駅の反対側に着くと、ピュイドゥー行きの列車がやってきました。

列車がホームに停車してドアが開くと、思いのほかたくさんのお客さんが降りてきました。1時間に1本の列車ながら、うまく利用されているようです。

ピュイドゥに向けてトンネルに入って行く列車。

世界遺産の葡萄畑を歩く

駅の裏手から湖のほうに歩くと、街並みが途切れ、葡萄畑の景観が広がっていました。

葡萄の木にはまだ葉っぱもありませんが、畑の地面にはタンポポが咲き乱れていてきれいです。

特に行先を決めてはいませんが、この斜面の下の湖畔には湖に沿ってスイス鉄道の幹線の線路が通っているため、その路線のどこかの駅にたどり着いて列車に乗れればいいかな、と考え、葡萄畑の中の道をきままに歩いてみることにしました。

ベンチに座ってゆっくりと景色を楽しめる場所もありました。この天気が残念でなりません・・・。

羊が草を食み、石垣は花で彩られ、葡萄畑と湖だけではない、のどかで美しい風景に心が洗われるようです。

見下ろしても見上げても、けっこうな急斜面に畑が拓かれていることがわかります。開拓はもちろん、維持の苦労もかなりあるのではないかと思いますが、しっかり畑として維持管理してくれている人がいるからこそこの景観が保たれているわけで、農家の方々の仕事に頭が下がります。

さすがに畑にできなかったと思われる硬く大きな岩が残っていて、景色に変化をつけてくれています。

春爛漫な風景。

ラヴォーの葡萄畑で列車ウォッチング

歩いていた小道は片側1車線の道路に合流しました。車もやって来ますが、湖側に歩道が整備されているので、安全に景色を楽しみながら散歩することができます。

ワイナリーの案内(と思われる)もよく見かけました。ワイナリーめぐりも楽しいだろうと思います。

道端にベンチも整備されていて、絶景を楽しみながらひとやすみすることができました。

斜面の中腹につづく道路。

眼下の線路に列車がやってきました。この路線はスイス南部を横断し、イタリア方面とフランス方面をつなぐ重要幹線です。この列車が向かっている方向がローザンヌジュネーブ方面で、その先もフランスへと線路が続いています。

向こうからローカル列車もやってきて、ちょうど目の前ですれ違いました。

少し歩くとまた別の列車が。近郊電車は先ほど見た列車と同じく、4両編成を2本つないだ8両編成。

こちらは2階建ての都市間列車。車両のバリエーションもいろいろあり、見ていて楽しいです。

このあたりは道路より上はかなり急な斜面になっています。

道沿いにはレストランなどもありました。

西行きの貨物列車がやって来ました。

今度は東行きの旅客列車。

そしてまた貨物列車。幹線路線だけあって列車本数も多いです。

ふと見上げれば、上部にも列車の姿が。こちらはベルン、チューリッヒなど、スイス国内の主要都市へ向かう幹線で、さきほどシェーブルに向かうときに乗った路線です。下に見えている路線とローザンヌで分かれ、片や湖岸を、片や斜面を上り、直線距離では近いものの大きく高低差をつけて並行してしています。ローザンヌから高さを稼いだ上の線路はこの付近から向きを変えて山の方に行ってしまいますが、私はいまローザンヌ方向に向かって歩いているので、これからは上下2つの幹線路線に挟まれたエリアを歩くことになり、上から、下からと、色々な角度から列車を見ることができ、楽しみが増えそうです。

湖岸スレスレを走っていた下の線路は、このあたりから少し内陸に入って行くようです。

エペス Epesses の村を歩く

さて、前方に家並みが見えてきました。エペスの村です。さきほどシェーブルの駅前でも見かけた葡萄絞り樽のモニュメントがここにもありました。

ここまで片側1車線の2車線があった道路も、村の中に入ると細い1車線の道になりました。沿道の家が迫っていて道幅を広げられなかったのだと思いますが、それだけにこの家々も道路も、車が多く走るようになるずっと前から変わらずあるのだろうなということが感じられます。

エペスの村の泉。街角にさりげなく水場がある風景は好きです。

階段や窓の格子がかわいらしく飾られています。こういうちょっとした飾り付けの積み重ねが、素敵な村の景観を作り出しているのだと思います。

細い路地を入ったところにはワイナリーが。中を覗いてみたいところですが、あいにく扉は閉ざされていました。

路地の先の広場にはまた別の泉がありました。このあたりは傾斜地ゆえに、水には恵まれた土地なのかもしれません。

家並みの間の細い道が続きます。カーブやアップダウンも多く、変化のある町並み風景が楽しめます。

車道をこんな車両が走って行きました。明らかに観光客向けの周遊トラクターと思われ、乗ってみたくもなりますが、やはりこういう素敵な場所は自分のペースで好きなように風景を見ながら歩くのが一番良いと感じます。

リエ Riex の村を歩く

エペスの家並みが途切れ、ふたたび葡萄畑の中の道を歩きます。下の線路がだいぶ近くに見えるようになってきました。

エペスを出て500mほどで、次の村、リエRiexに入ります。

飛び出し注意看板のテイストがたまりません。

曲がりくねった細い坂道や家の玄関の装飾、広場の木の下のベンチに清冽な水が流れる泉、リエもまたシェーブルやエペスと同様、スイスの村の美しさがギュッと詰まった素敵なところです。

リエの村を抜けたところにある交差点のロータリーには、葡萄の葉のオブジェが。

風景が美しいのでついつい歩き続けてしまい、気が付けば程よい疲れ…、いや、ガッツリとした疲れを感じるようになってきたので、このあたりで山を下りて、駅を目指すことにします。山を下りるとは言っても、すでにだいぶ低いところまで来ているので、あと少し下るだけです。
葡萄の葉のロータリから下り坂を下り、振り返ったリエの町並みがまた美しい…。

ゴールのキュリー Cully でおみやげローカルワインを

リエから1㎞ほど坂を下った湖岸に位置するキュリーにはスイス鉄道の駅があります。そこをゴールに決め、最後にキュリーの町を散策。湖岸の比較的平坦なところにあり、幹線道路や幹線鉄道が通っているからか、いままでの村よりも活気がある気がします。

食料品店を覗いてみると、この時期のヨーロッパの味覚、ホワイトアスパラが売っていました。

せっかくなのでラヴォー産のワインを買いたいと思います。いままで通ってきた村にワイナリーはたくさんありましたが、パッと見た感じでは気軽に訪れてワインが買えるようなところは開いておらず、もとより、もし売っていたとしてもまだまだ歩くつもりの段階で重いワインを買うという選択肢は頭の中にはありませんでした。
おみやげワインはゴールの村で、と決めていたのでキュリーの食料品店を覗くと、棚にいくつかの地元ワインが並んでいるのを発見。その中からリエ Riex のワインを購入しました。ラベルに Riex と書かれたこのワインは、リエさんという名前の人への贈り物としても良さそうですが、おそらく流通量はかなり少なく、入手困難なのではないかと思われます。

この日歩いたコースを Google Mapで見てみると、スタートの Chexbres 駅からゴールの Cully駅まではおよそ5㎞、徒歩での所要時間は1時間とのこと。実際には写真を撮りながらゆっくり歩いたので、すでにChexbresを出てから2時間半以上が経っていました。
ただ、小規模なアップダウンこそあったものの、コースは基本的にずっと下り坂なので、その点では距離の割に疲労も少ないコースどりができたかと思います。

CullyからはVevey経由でChexbresに戻る

キュリー駅からの列車はシェーブルに直通していないので、シェーブルに行くにはローザンヌとピュイドゥで2回乗り換えるか、ヴヴェイで1回乗り換えるかのルートになります。時刻を調べると、このタイミングではヴヴェイ経由のほうが早くシェーブルに行けたので、そのルートで戻ることにしました。

キュリーからヴヴェイまでは普通列車で10分ほど。さきほど歩きながら見えた、湖畔を走る路線です。車内で先ほど買った Riex ワインを撮影。

ヴヴェイを発車するキュリーから乗った普通列車。ここでピュイドゥ行のローカル線に乗り換えますが、ピュイドゥ行の列車は向いのホームからの出発で、便利な乗り換えでした。
ヴヴェイはネスレの本社がある町としても知られています。

ピュイドゥ行が停まるホームの向こうにも短いホームが1つあり、また別のローカル線が発着しているよう。こういう路線を見ると乗ってみたくなってしまいます。

ヴヴェイを出たピュイドゥ行はすぐに上り坂を上り始め、レマン湖の水面がぐんぐん眼下に遠ざかって行きます。

湖の向こうにうっすらと雪をかぶった山並みも見えてきました。晴れていれば…。

シェーブルの町並みを走る列車を見て ホテルのディナーを楽しむ

ヴヴェイからは10分ほどでシェーブルに到着。数時間前に出発したピンク色の駅舎がなつかしく思えます。
もうすでに時刻は19時をまわっていますが、まだまだ明るいです。

シェーブル駅近くには寿司店も。

シェーブルからも湖の向こうの山並みが見えました。はあ、晴れていれば…

ホテルに戻る道から一望したシェーブルの町。

ピュイドゥで折り返してきたヴヴェイ行きの列車がシェーブル駅に到着しました。

ヴヴェイに向けて下って行きます。

さて、ディナーはホテルのレストランで。コースに春巻きがあったのは驚きました。食事のお供はもちろんラヴォーのワイン。ワインも料理もとてもおいしく、歩いて消耗した体力もしっかり回復しました。

ノープランで歩き始めたラヴォーの葡萄畑散歩でしたが、天気が悪くてもなお美しい春の葡萄畑の風景と村の風情がとても魅力的な、最高の時間を過ごすことができました。
エリア内に駅がいくつもあるので、駅から駅への散歩が気軽にできること、舗装された道路なので歩きやすいこと、上から下に歩けば疲労も軽減できることなど、散策するには最高のラヴォーの葡萄畑。できればまた天候や季節が違うときに何度でも歩いてみたい、素敵な場所でした。



2013年4月