そこに線路があるかぎり

鉄道旅も、そのほかの旅も。子供と出かけた休日のこと、まち歩き、山歩き、グルメ、温泉、観光情報。国内・海外 紀行ブログ。

【ベトナム】2大都市を結ぶ幹線鉄道は首都の中央駅を出て路地裏へ 独特の風情がたまらないハノイの線路風景 (2012年)

スポンサーリンク

ベトナムの首都ハノイにあるハノイ駅は、ベトナム南部の大都市ホーチミンへ向かう列車や、北に向かった中国国境の町への列車、また、ベトナム北部最大の港湾都市ハイフォンへ向かう列車などが乗り入れるターミナル駅です。2012年にハノイを訪れた際、街をぶらぶら歩きながらこのハノイ駅に行ってみると、主要路線が集まる一大ターミナル駅というイメージとは全く違うのんびりとした駅の風景が広がっていました。そしてその駅から続く幹線路線であるはずの線路は、街角の路地裏のような風景の中に延びていて、その独特の風情にすっかり魅了されました。

ハノイB駅から駅構内を見る

泊っていたホテルからタクシーで孔子が祀られた文廟を訪れて見学したあと、ハノイの町をぶらぶら歩きながらハノイ駅を目指します。

緑が濃いハノイの町。

編み笠をかぶって天秤棒を担ぎ荷物を運ぶ人、狭い路地の軒下のカフェなど、ベトナムらしい街の風景を眺めながらの散歩は楽しいものです。

文廟から15分ほど歩いてハノイ駅に着きました。ベトナム語でGAが駅の意で、フランス語で駅を意味する GARE から来た言葉とか。19世紀後半から20世紀中盤にかけて、ハノイはフランスの統治下にありました。
駅舎は思いのほか小さく、駅の周辺も下町のような賑わいで、一国の首都のターミナル駅とは思えない佇まいですが、ここはハノイ駅はハノイ駅でもハノイB駅と通称される駅舎で、線路を挟んだ反対側にあるメインの駅舎に対し駅の裏側の入り口と言った位置づけの場所なのでした。ハノイ駅では列車の目的地によって駅の入口が違い、ハノイから南へ向かう列車に乗るときは表口のハノイ駅、北に向かう列車に乗るときは裏口のハノイB駅から駅に入るようになっているそうです。

駅舎の中のきっぷ売場も待合室も閑散としていました。

待合室の案内はベトナム語、英語、フランス語の3か国語表記。

ハノイB駅側は駅の裏口らしく、貨物取扱が行われていました。

駅の様子を覗いてみると、屋根も跨線橋もない広々とした場所に、たくさんの列車が並んでいました。左側に見えるのが表口のメイン駅舎です。乗る列車によって利用する駅舎が違うとのことですが、駅舎を入ってしまえば駅構内では特に何か仕切りなどがあるわけでもなく、ひとつの駅になっているようです。

ホームは低く、線路にはコンクリートブロックが並べられて路面電車の線路のようになっています。隣のホームに行くのに線路の上を歩いて渡っていいよ、という事なのでしょうが、そういうことができるのは、首都のターミナル駅ながら列車の本数が非常に少ないからなのでしょう。

ホームには誰もおらず、閑散としていました。駅の外の町の喧騒が嘘のように、駅の中は静けさに包まれています。停車している列車の編成は長く、丸い屋根の寝台車両のような車両も見えるので、夜に出発する夜行列車かもしれません。

なお、2022年現在、Google Map の航空写真を見ると、ホームには屋根が掛けられ、ホーム同士を結ぶ跨線橋も何本か設置されていました。10年のあいだにハノイ駅はすっかり様変わりし、のどかな時代のハノイ駅とは同じ駅と思えないほどになっているようです。なお、私が写真を撮ったハノイB駅は下の航空写真では駅の左上あたりに位置します。

ふと駅近くの旅行会社の看板を見ると、描かれている鉄道車両に見覚えが。何やら文字が勝手に足されてはいますが、これはどう見ても京成スカイライナーAE100形!この車両は2016年に全社が引退しましたが、当時は全車両が上野と成田の間の京成線を走っていました。もちろんベトナムで活躍したことなどまったくありませんが、かっこいい電車代表として看板に採用されたということでしょうか…。

町に溶け込むハノイ駅北側の線路

ハノイB駅を訪れたあとは、線路を挟んで反対側にあるハノイ駅にも行ってみることに。道路を歩いて北側から駅を回り込みます。

バイクが沢山走る大通りの風景ですが、よく見ると右の進入禁止標識の少し向こうに赤いXの踏切標識が。あのあたりを左右に線路が横切っていて、ハノイ駅を出て最初の踏切があります。

ハノイ駅方向の線路は門扉で閉じられていました。門の隙間から覗くと、先ほど見たハノイ駅構内が見えました。

駅の反対方向を見ると、街並みの中にカーブした線路が続いています。アジアらしい幾重にも絡み合った電線が線路の上を横切っているのがちょっと心配にもなりますが、ここの線路は非電化、通る列車はディーゼル車なので、架線が上空にある電化路線とは違ってあまり頭の上のことは気にしないでもいいのかもしれません。

線路敷はすっかり道のように使われていて、バイクも行き交っています。

1つ隣の踏切にやって来ました。パラソルの下に盛り沢山のフルーツを並べた露店が線路ぎりぎりのところに出ています。列車が来たらパラソルがあたってしまいそうなきわどさですが、向こう側に線路のど真ん中になにやら看板が置かれていますし、そもそも駅に入る門がしっかりと閉ざされていたことからも、しばらく列車が来ないだろうことが予想できます。

ハノイ駅のメインターミナル

ハノイ駅北の踏切から今度は町を南下して、ハノイ駅のメイン駅舎にやって来ました。さきほど訪れたハノイB駅は駅の西側に位置する建物だったのに対し、このメインターミナルは駅の東側に位置します。
1902年の開業だという歴史ある駅は、フランス植民地時代に建設されたルネッサンス様式の駅舎ですが、中央部は1972年のベトナム戦争で爆撃されてしまったものを、当時の北ベトナムと関係の深かったソ連の様式で再建したため、その部分だけがソ連的なデザインになっているという、ベトナムの歴史を感じさせる駅舎です。

待合室はB駅よりも活気がありました。

ホールから右に見えるドアを出るとホームがありますが、ドアは施錠されていて出入りはできませんでした。

発車案内らしき表示がありますが、ちょっと意味はわかりません。

窓からホームを覗くと、発車案内と編成表のようなものがホワイトボードに描かれていました。

ここから列車に乗って旅がしてみたくなります。

家々の隙間に続くハノイ駅南側の線路

さて、今度は駅の南側の線路を見に行きたいと思います。ハノイ駅を出て大通りを右に進んで駅の南側の踏切にやって来ました。北側と同じく線路には門扉が設置されていますが、こちらの門は開いていました。南のほうが列車本数が多いため常時開放しているのか、列車がやってくる時刻が近いのかもしれません。

踏切から駅とは反対側、南方向の線路を見ると、家々が建ち並ぶ路地のような風景の中に線路が続いていました。

建物が並ぶ路地っぽい風景の中を貫く単線の線路。とても印象的です。

ここは国の2大都市を結ぶ幹線路線が、首都の中央駅を出てわずか数百メートルほどのところ。日本で言えば、東京から大阪に向かう東海道本線が東京駅を出て、国際フォーラムを見ながらカーブして有楽町駅にさしかかろうかというあたりです。そう考えると、目の前に広がる光景とのギャップがまた面白く感じられます。

枕木の隣にはコンクリートブロックが並べられていて、家の軒先にはバイクが停まっていて、ここも完全に線路が道路として使われているようです。
生活感があふれすぎるこの線路を、都市間連絡の長編成の列車が走っているところを見てみたいものですが、あいにく列車がくる気配はまったくありません。

わずか数百メートルですが、とても印象的だった風景の線路を後に、またまち歩きを始めました。
池の上に張り出す木の枝に座るのは気持ちがよさそうですが、万一ポケットから財布や携帯電話がポロっといってしまうと、気持ちが一気に絶望の淵へと突き落とされそうなので気をつけたほうがいいでしょう。

鳥かごに入った小鳥はよく見かけました。小鳥を飼うのが人気なのかもしれません。

西洋的な大聖堂があったり、アジア的な鬱蒼とした木々の下の賑やかな道があったり、ハノイの街角風景は変化があって楽しいです。その反面、そうした景観が作られるに至った歴史には暗い部分も少なからずあるわけで、複雑な気分にもなります。

また旅行会社の看板に見覚えのある列車が…。ラインとか文字が勝手に足されていますが、完全に東海道・山陽新幹線300系です。

歴史ある大鉄橋 ロンビエン橋に隣接する小さなロンビエン駅

町をぶらぶら歩きながら、ハノイ駅を北に行った隣の駅、ロンビエン駅にやってきました。この先で線路は長い鉄橋で紅河を渡ります。

カラフルな花が溢れる路地などを眺めて歩いていると、小さな上り階段が。看板を見るとロンビエン駅と書いてあります。

階段を登って行くと、ロンビエン駅が見えました。線路1本にホームが1本の小さな駅です。駅はアーチの石積みの築堤の上にありました。

階段を登り切り振り返ると、出口の看板にはフランス語で出口を意味する「SORTIE」とも書いてありました。駅構内はハノイ駅同様、線路の上にコンクリートブロックが並べられ路面電車の線路のようになっています。

駅を出た線路はすぐに古びた長いトラス橋に吸い込まれていきます。

ホームに続いてしっかりとした駅舎がありました。有人駅で、窓口に駅員さんがいたので次の列車の時刻を聞いてみると、残念ながら何時間かしないと列車は来ないとのこと。
写真の駅舎の左のほうから坂を上がってきた道は、駅舎の前で線路にぶつかり手前に90度曲がって橋のほうに続いています。

 

 

 

駅にあったフランスパン屋さん。

駅から続くトラス橋を見に行きました。銘板には1899と1902という数字と、DAYDE a PILLE PARISの文字が。1899年に造り始めて1902年に完成したということでしょうか。DAYDE a PILLE はフランスの建設会社の名前だそうです。
駅の出口看板のフランス語、駅前のフランスパン、橋の銘板のフランス語、ベトナム鉄道にはフランスを感じさせる要素がたくさんあります。

鉄橋の両側には道路が併設されていました。幅は狭く車は通れなそうで、バイクと歩行者用のようです。

この鉄橋は長さが1700mもあり、こちらから渡り始めても初めは町の上を通るだけでなかなか川が見えてきません。すでにたくさん町を歩いて疲れていたので、川が見えるところまでは行かずに、少し歩いただけで引き返すことにしました。眼下にはパイナップルを満載したトラックがみえました。
橋はトラスがずっと続いているように見えましたが、川を渡るあたりでは戦争中に破壊されたためトラスがないそうです。先にそれを知っていれば体力を振り絞って見に行っていたのですが…

ロンビエン駅に戻ると、線路の上では着飾った男女が写真撮影をしていました。結婚式の記念写真でしょうか。ロンビエン橋は撮影スポットとしても市民に愛されているようです。

橋が跨ぐ道路から見たロンビエン橋。左側がロンビエン駅で、右に紅河があります。橋脚の径間が長くなる川を渡る部分に向けて、橋のトラスもぐっと大きなものになっています。

さまざまな表情を見せてくれるハノイの線路風景は、どこもとても魅力的で印象深いものでした。いつかここを走る列車が見てみたい、そしてここを走る列車に乗ってみたいと、夢がふくらみます。

 

2012年7月