オーストラリア、ケアンズとキュランダの間を走るキュランダ観光鉄道(Kuranda Scenic Rilway)は、世界遺産の熱帯雨林の中を走り、迫力ある滝や深く切れ込んだ谷の風景を車窓から楽しめる、風光明媚な観光路線です。2024年8月、この観光鉄道にキュランダからケアンズまで乗車しました。
キュランダ観光鉄道 Kuranda Scenic Railway について
キュランダ観光鉄道(Kuranda Scenic Railway。キュランダ鉄道、キュランダ高原鉄道などと呼ばれることもある)は、ケアンズとキュランダの間、およそ33㎞を結ぶ鉄道です。この路線は1891年に開通した100年以上の歴史を持つものですが、もともと行われていた貨物や旅客の輸送は衰退し、現在は観光列車が走るだけの完全な観光路線となっています。
キュランダ観光鉄道の駅
駅は、始発のケアンズ駅、終着のキュランダ駅のほか、中間にケアンズ寄りからフレッシュウォーター駅、バロン滝駅の2駅がありますが、バロン滝駅は列車利用者がいったん降りて滝を眺めるための展望スポットとしての駅で、降りた乗客は再び同じ列車に乗車して旅を続けます。従って、列車の旅を開始/終了できる途中駅は、フレッシュウォーター駅だけです。フレッシュウォーター駅は無料駐車場を備えると共に、キュランダへのもうひとつのメジャーなアクセス、スカイレールの始発駅とを結ぶシャトルバスが発着しており、自動車でここまで来てキュランダ観光鉄道に乗るか、自動車でここ、あるいはスカイレールの始発駅に駐車して、片道を観光鉄道、片道をスカイレール利用でキュランダに訪れる人をターゲットとした駅となっています。
キュランダ観光鉄道の運転時刻
列車は1日2往復で、2024年~2025年の時刻表では、下記の時刻で運転されています。
ケアンズ発 キュランダ行き
1便目 ケアンズ発 8:30 フレッシュウォーター発 8:55 キュランダ着 10:25
2便目 ケアンズ発 9:30 フレッシュウォーター発 9:55 キュランダ着 11:25
キュランダ発 ケアンズ行き
1便目 キュランダ発 14:00 フレッシュウォーター着 15:32 ケアンズ着 15:55
2便目 キュランダ発 15:30 フレッシュウォーター着 17:02 ケアンズ着 17:25
全列車とも、クリスマス、および、定められたメンテナンス日以外は毎日運転
キュランダ観光鉄道の運賃
キュランダ観光鉄道の列車には、Heritage ClassとGold Classの2クラスの車両があります。Heritage Classが普通車、Gold Classが上級クラスで、Gold Class は車内のシートが独立タイプのソファーであること、アルコールやナッツ、チーズ、ソフトドリンク、マンゴーシャーベットがサービスされることがHeritage Classとの違いです。
なお、Gold Classはキュランダ行き、ケアンズ行きともに2便目のみの連結となっており、1便目はヘリテージクラスだけの編成です。
各クラスの運賃は下記の通り。
ケアンズ/フレッシュウォーター~キュランダ
Heritage Class
大人 片道 $55.00 往復 $84.00
子供(4~14歳) 片道 $27.50 往復 $42.00
家族(大人2+子供2)片道 $137.50 往復 $210.00
Gold Class
大人 片道 $109.00 往復 $192.00
子供(4~14歳) 片道 $81.50 往復 $150.00
家族(大人2+子供2)片道 $353.50 往復 $642.00
このほか、片道をスカイレール利用、片道を観光鉄道利用とした往復券や、キュランダでのテーマパーク入園料がセットになった往復券など、さまざまな種類のチケットがあります。
Pages - Day tour packages (ksr.com.au)
キュランダからケアンズへ キュランダ観光鉄道に乗る
キュランダ15:30発のケアンズ行き2便目で、キュランダからケアンズまでキュランダ観光鉄道の旅を楽しみました。この日はケアンズからキュランダに日帰りで訪れており、行きはスカイレール利用、帰りは観光鉄道利用としました。
スカイレール(ロープウェイ)についてはこちらをご参照ください。
キュランダでの観光についてはこちらをご参照ください。
レトロな雰囲気が漂うキュランダ駅
キュランダの町から坂を下りてくると、キュランダ駅の入口がありました。どことなくどこかの遊園地のアトラクションのような雰囲気のゲートが駅の目印。
ゲートをくぐると跨線橋になっていて、すぐ下にこれから乗車する列車が停まっているのが見えました。
跨線橋の階段を下りて駅舎へ。エレベーターも完備されていました。
南国らしい雰囲気の駅舎の中には、これまた南国らしい雰囲気の窓口があります。
路線図が掲示されていました。濃い緑のラインがこれから乗る観光鉄道。コストや技術が要求される橋やトンネルなどをできるだけ減らすため、地形に逆らわないように建設されたからか、クネクネと曲がりくねっています。少し薄い緑がスカイレールのルートですが、さすがロープウェイ式のスカイレールは、まっすぐに路線が引かれいます。
キュランダの駅舎はホームの真ん中にあります。ホームを挟んで2本の乗降用の線路があり、列車が停まっているキュランダの町側が1番線ホーム、その反対側が2番線ホームで、2番線の向こうには2本の側線がありました。
駅への入口の階段を下りずにそのまま跨線橋を進むと、駅を越えた向こう側への降り口と、川が見えました。キュランダ観光鉄道の線路が沿って進む、バロン川です。キュランダ駅は、キュランダの町から川へと下る斜面の途中を平らにしたところに作られているのでした。
跨線橋を渡ったところからキュランダ駅を眺めます。緑の木々に囲まれた赤い屋根の駅舎が印象的な、素敵な駅です。
ホームの真ん中にはたくさんの木々が植えられていて、向こう側に停まっている列車はほとんど見えません。
ケアンズ方向を見たところ。側線に1両のディーゼルカーがポツンと止まっていたらそれもまた絵になりそうです。
線路の脇にはワイヤーが這っています。これはおそらく、腕木式信号機を操作するためのワイヤーではないかと思われるので、あとで信号機を探してみたいと思います。
再び跨線橋を渡り、駅の中に入りました。特に改札口などはない、海外らしいつくりの駅でした。
川側にある2番線ホームのケアンズ方向を見たところ。
生い茂る木々と強い日差しが南国を感じさせる、夕方のキュランダ駅ホーム。
ケアンズとは反対側のホーム端にやってきました。車両はホームからはみ出して停車しています。
予想通り、駅を出るところには腕木式信号機がありました。これは紅白に塗られた腕木が真横に延びていれば赤信号、下に下がっていれば青信号を示す古いタイプの信号機です。駅に備えられている、腰の高さほどもある大きなレバーを駅員さんが操作すると、ワイヤーでつながれている信号機が動くというアナログな仕組み。
側線用にも2つの信号機がありました。こちらはケアンズとは反対方向なので、この先は観光鉄道の運転はないはずですが、なぜ信号機が?古びて、今は使われていない信号機という雰囲気ではなく、それなりに整備されているように見えます。
キュランダ観光鉄道の車両
キュランダ15:30発の列車は、全部で15両もの客車が連なる長い編成でした。キュランダ寄りが1号車、ケアンズ寄りが15号車で、ケアンズ行きの場合は15号車の前に機関車がつきます。
客車は1900年代前半に製造された歴史のあるもの。基本的に同型の車両が連なっているようですが、特に古びた感じの車両も交じっていました。この579番の車両は1911年製だそうです。
ゴールドクラスは編成中ほどに3両連結されていました。車体腰部の塗装が、ヘリテージクラスは赤茶色なのに対し、ゴールドクラス車は黒っぽい色になっています。内装はヘリテージクラスと大きく違いますが、窓の配置など、車体自体は他の車両と同じように見えます。
ケアンズ方のホーム端部に来ました。こちらも、先頭の15号車の乗降ドアはホームにかかっていますが、その先はホームからはみ出して停まっています。
先頭の機関車と腕木式信号機。腕木が横を向いているので、まだ信号が赤ということです。
キュランダ観光鉄道 Heritage Class の車内
私たちは普通車であるHeritage Classを利用しました。
Heritage Class の車両は、片側に通路があり、長いシートのボックス席が並んでいます。日本人としてはなかなか珍しさを感じる座席配置ですが、欧米のコンパートメント車両では、片側が通路になっているのは一般的な車内配置です。
背もたれに座席番号が振られていました。座席番号の振り方を見ると片側4人が向かい合った8人1ボックスというのが定員のようですが、私たちのボックスは私たち家族4人と2人連れの欧米人、計6名で1ボックスがあてがわれており、他のボックスもざっと見る限り、1ボックス6人で利用されているようでした。
乗降ドアは車端部にありますが、こちら側の端は右側、反対側の端は左側、と言うように、点対称の位置にドアが配置されていて、1車両当たり片側1か所の乗降ドアという配置になっています。14と書かれた番号の下は貫通ドアで、通路が隣の車両に続いています。貫通ドアの左側にはウォーターサーバーがあり、ミネラルウォーターを無料で飲むことができました。
車内にはトイレもありました。古さも感じますが、よく清掃されていて気持ちよく使えそうです。
トイレの横の貫通ドアを開けてみると、車両同士のつなぎ目の通路には幌はありませんでした。
なお、車内写真は、走行中や、終点到着時に撮ったものです。
キュランダを出発 車窓のみどころは左側に集中
15:30、列車はゆっくりとキュランダ駅のホームを離れました。
キュランダ観光鉄道は、バロン側の右岸に沿って走るので、キュランダ行きは進行右側、ケアンズ行きは進行左側が谷側となり、眺望が良いです。ヘリテージクラスのボックス席も谷側に配置されています。
我々は行きはスカイレール、帰りは観光鉄道利用の往復チケットを利用したのですが、帰りの観光鉄道の座席は行きにスカイレールに乗る前に往復分のチケットを受け取った際にすでに指定されており、座席の選択はできないとのことでした。私たちのボックスでは、窓側の席は私たち家族が1席、相席の方が1席と、それぞれのグループに1席ずつ割り当てられていたので、我が家は子供を窓側に座らせましたが、1ボックスに2つある窓は小さく、窓側以外に座ると外の景色は見にくいです。
列車はゆっくりと熱帯雨林の中を走って行きます。
ほどなくして、小さなダムが見えてきました。この近くに1935年に完成したオーストラリア初の地下式水力発電所があるので、その取水用ダムかもしれません。
バロン滝駅では10分停車 ホームの展望台から滝を眺める
ダムを過ぎて少し走ると、列車はバロン滝駅に着きます。キュランダを出発してまだ7、8分ですので、あっと言う間の到着でした。
車窓からホーム越しにバロン滝が見えました。
ここでは10分の停車時間があり、ホームに降りて滝を見学できます。
なにしろ列車は15両と言う長編成、ホームでも滝が見えるスポットは限られているので、乗車している車両によっては滝を見るためにホームを長い距離歩く必要があります。
すでに滝の部分は影になってしまっていました。乾季の水が少ない時期ではありますが、この岩肌を流れ落ちる白い滝は美しいです。
ホームにつくられた展望スポットは、ちょうどゴールドクラス車両の停車位置の近くにあります。
ホームのケアンズ寄りには、上へと続くウッドデッキが。
デッキの途中から眺めた機関車。キュランダでは気がつきませんでしたが、機関車が2両連結された、重連運転のようです。
ウッドデッキの先には展望台がありました。
ここからも滝がきれいに見えます。
この展望台の良いところは、滝と列車が一度に見えるということですが、あいにく滝も列車も山影に入ってしまっています。光線を考えると、キュランダ発は14:00の便に乗ったほうが、景色は良く見えるのかもしれません。
列車の汽笛が鳴ると、まもなく発車と言う合図です。ホームで景色を眺めていた乗客たちが次々に列車に戻っていきます。
発車予告の警笛が鳴ってから3分ほどで列車はバロン滝駅を出発。行きのスカイレールからこの観光鉄道のバロン滝駅付近の線路が見えたので、今度は観光鉄道からスカイレールを探してみると、はるか対岸の山の上に、小さくスカイレールを見ることができました。
少しすると、窓側に座っていた子供が寝はじめました。1日を楽しんで疲れたのでしょう。とはいえ、せっかくの窓側席で寝かすのももったいないので、を抱きかかえて座る位置を替わりました。車窓が良く見えるようになりました。やはり窓側かそうでないかで、車窓の見え方がぜんぜん違います。
木々の間から時折見下ろす谷は深いです。
このあたりでもまだわずかにスカイレールが見えました。
谷の奥まで見通せるスポットもありました。
対岸に滝が。
深い谷底にはもう陽の光は届いていません。
谷が終わり、バロン川が平地へ飛び出す絶景スポット。海まで見えます。
川は平地に出ましたが、こちらの列車はまだまだ山の高いところにいます。この急斜面をいっきに降りるわけにもいかず、ここから列車は右に大きくカーブして、支流の谷筋をたどりながら徐々に高度を下げていきます。
右に大きく谷を遡り、谷が細くなったところで対岸に渡って、いま対岸に見えている山肌へと線路が続いていきます。
山側には岩肌。
うっそうとした森の中、ゆっくりと勾配を下って行きます。
滝のすぐ前で鉄橋を渡る 有名車窓スポットで一時停車
前方に滝と、その前に架かる鉄橋が見えてきました。ちょうど山の陰に入って暗くなってしまっているのが残念ですが、ここはキュランダ観光鉄道で最も有名な車窓スポット、Stoney Creek Falls です。これからこの列車はあの鉄橋を渡ります。
滝が近づいてきました。
ここがこの谷の最奥部で、列車はカーブした鉄橋を対岸へと渡って行きます。
絶景スポットなので、列車も最徐行で、ゆっくりゆっくり進みます。
鉄橋の上からは、はるか向こうに海まで見渡すことができました。
列車は鉄橋上で一時停車しました。バロン滝とはちがい、ここでは列車から降りることはできません。
山側はすぐ目の前に滝が。山側(ケアンズ行きの右側)の車窓の数少ない(唯一の?)絶景ポイントです。
列車の編成が長すぎるので、停車した列車はしばらくすると少し前に進み、再び停車しました。これで後ろのほうの車両に乗っている人も滝をじっくり眺めることができます。
しばらくの滝見停車ののち、列車はふたたびケアンズに向けて走り始めました。向こう側の山肌に、さきほど走ってきた線路が見えます。
森の中を走って行きます。
時折、木々の間から眺望が楽しめます。
だいぶ高度を下げ、平地が近くに見えるようになりました。住宅も多く建ち並んでいます。
Jungaraのカーブに差し掛かりました。地図を見ると、さきほどの滝の前の鉄橋と、このJungaraで線路は大きく左カーブを描いています。
編成が長いので、後ろの方の車両までよく見えます。
Jungaraのカーブを過ぎると勾配もゆるくなり、列車のスピードも上がりました。
郊外の広い敷地の住宅が建ち並ぶ中を、軽快に走って行きます。
昔使われていたヤードの跡のようなところがありました。ここで貨物の積み下ろしなどをしていたのでしょうか。
交通量の多い道路の踏切もあり、すっかり山岳鉄道から郊外鉄道に変身した感じです。
またヤードの跡地らしき空き地がありました。
家並みが途切れると、サトウキビ畑が広がっていました。
フレッシュウォーター駅
平地部を軽快に走り、列車はフレッシュウォーター駅に到着しました。フレッシュウォーターはホーム1面に線路1本だけの駅。ホームはケアンズ行きでは進行右側にあります。
駅の外にバスが待機しているのが見えました。これがスカイレールの駅とを結ぶシャトルバスでしょうか。
ホームの反対側にはのどかな風景が広がります。
フレッシュウォーター駅を発車。フレッシュウォーター駅のホームと、車内に備えられたフレッシュウォーターのサーバーのツーショット写真が撮れました。
だんだんと車窓が町らしくなっていきます。
ヤードがあり、使われなくなったと思しき車両が、落書きまみれで置かれていました。
あたりはすっかりきれいな住宅街になってきました。終点のケアンズはもうすぐです。
ケアンズ駅が見てきました。
踏切を渡り、ケアンズ駅に入線。
屋根に覆われて薄暗いケアンズ駅。
地下駅のような雰囲気ですが、地上駅です。
ケアンズ駅の薄暗いホームに到着。楽しいキュランダ観光鉄道の旅も終わってしまいました。
さすがにケアンズ駅でも機関車はホームからはみ出して停まっており、ついぞ機関車を前から見ることは叶いませんでした。
しばらくすると、列車は車庫へと引き上げていきました。
初めて客車の最後尾が見えましたが、窓ひとつない非常にシンプルな妻面でした。
列車がいなくなったケアンズ駅。なんとホームは2面2線しかなく、地域の拠点としてそれなりの規模の駅かと思っていたところ、拍子抜けです。
ホームにいた係員さんに聞くと、このケアンズ駅を発着するのは、キュランダ観光鉄道が1日2往復と、週に4-5本あるブリスベンとケアンズを結ぶ長距離列車、そしてキュランダ観光鉄道とは別の観光列車が週1往復だけだそう。この週1往復の観光列車は320㎞もの距離を走り、キュランダを通り越してさらにもっと先まで行くそうです。キュランダ駅にあった信号機が現役だったのは、この列車があるからだったのでしょう。それにしても、キュランダよりずっと先まで行けるとは、いつかこの列車にも乗ってみたくなりました。
到着したホームにあった駅舎はごく簡素なものでした。
ケアンズ駅はケアンズセントラルという大型モールに隣接していて、駅から市街地へはそのモールの中を抜けて行くのが近道です。到着したホームからモール側へは跨線橋を渡るのですが、跨線橋に登るとそこは大型モールの屋上駐車場の風景。跨線橋と言うよりも、駐車場の中の通路です。
跨線橋を渡って反対のホームに降りる階段がある建屋から、そのまま駐車場の中の通路を進むと、向こうにケアンズセントラルの入り口があります。
ケアンズセントラルの入り口前から振り返ると、ケアンズ駅の駅舎が見えますが、すっかりモールの駐車場に飲み込まれた感じでした。
モールに入るとすぐにフードコートがあるので、キュランダ観光鉄道の旅を終えて空腹になったお腹を満たすことができます。
熱帯雨林の中をゆっくりと走るキュランダ観光鉄道は、迫力ある滝や、深く切れ込んだ谷、そして山の上からの眺望といった自然の景観を大いに楽しめる、素晴らしい鉄道でした。
2024年8月