そこに線路があるかぎり

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【ドイツ】開業は1901年 現役最古の実用モノレール ヴッパータール空中鉄道に乗る(2005年)

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一口にモノレールといっても2つの方式があり、軌道にまたがって走る跨座式(こざしき)と、軌道からぶら下がって走る懸垂式(けんすいしき)とに分類されます。2022年現在、日本では9つの事業者がモノレール(スカイレールを含む)を運行していますが、そのうち6事業者が跨座式を採用しており、跨座式のほうがメジャーであると言えますが、歴史的には懸垂式のほうが古くから商業運行されており、1957年(昭和32年)に日本で初めて地方鉄道法(当時)に基づいて開業したモノレールである東京都交通局上野懸垂線も、その路線名が示す通り懸垂式の路線でした。
こうした懸垂式モノレールのうち、現在も営業運転が続いている世界最古の路線がドイツのヴッパータールという町にあります。開業は1901年、なんと100年を越える長きにわたって市民の足として活躍するこのヴッパータール懸垂式モノレールに、2005年8月に乗車しました。

デュッセルドルフから快速列車で20分でヴッパータール

2005年8月、こちらに住む友人に会いにデュッセルドルフを訪れました。ドイツ西部の都市デュッセルドルフは日本人が多く住んでおり、ヨーロッパで唯一あんパンを製造販売しているパン屋さんがある町として、懐かしい日本の味覚が恋しい在ヨーロッパの日本人駐在員たちには広く知られていました。
私はわずか1泊の滞在予定でしたが、友人に「デュッセルドルフで何がしたい?」と聞かれ「ヴッパータールのモノレールに乗りたい、髪を切りたい、うまいドイツ料理が食べたい」と即答し、せっかくデュッセルドルフに来たのに市内観光の希望を出さなかったのは、デュッセルドルフに対して失礼なことだったと反省しました。ヴッパータールのモノレールは、かつて雑誌で見かけていつか乗ってみたいと思っていたところ、ヴッパータールデュッセルドルフのすぐ近くであることを知って迷わず希望リストの最初に入れたものです。髪を切るというのは、ちょうど髪が伸びてきて切っておきたいなと思っていたタイミングであり、ヨーロッパ人とアジア人は髪質が違うので、髪を切るならアジア人を切りなれているアジア人美容師さんのほうが良い、という話を聞いたことがあったところ、なんとデュッセルドルフには日本人美容師さんがいる美容室があると聞きこのチャンスを生かさねばと思ったからで、ドイツ料理の希望は、旅行中はその土地の食べ物を食べたいという当然の欲望によるものです。

デュッセルドルフ中央駅からドルトムント行きの快速列車に乗っておよそ20分、ヴッパータール中央駅に到着。

2階建て車両を、機関車が後ろから推す方式の列車でした。

ここまで乗ってきたDB(ドイツ鉄道)のヴッパータール中央駅を出て大通りを越えたところに、目指すモノレールのヴッパータール中央駅がありました。

ヴッパー川の上につくられたヴッパータール空中鉄道

ヴッパータールという町の名はヴッパー川の谷という意味だそうで、ヴッパータールのモノレールはほとんどの区間でこのヴッパー川の上に軌道が作られています。東京でも首都高速が川の上に造られている区間が多いことを考えると、都市がそれなりに発展してから新たな地上交通を造ろうとしたときに、川の上空というのは既存建物の立ち退きや工事期間中の道路交通規制などを少なくできるので、手ごろな場所なのでしょう。

まずは橋の上から、頭上を行き交うモノレールを眺めてみることにします。

ヴッパータールのモノレールは、公式サイトのドイツ語版には「Die Schwebebahn」と書かれており、英語版に切り替えると「The suspension monorail」となります。

The suspension monorail (schwebebahn.de)

Google翻訳でドイツ語の「Die Schwebebahn」を英訳すると「The suspension railway」となるので「ヴッパータール懸垂式鉄道」「ヴッパータール懸垂式モノレール」と和訳するのが適当かと思いますが、日本語では「ヴッパータール空中鉄道」と訳されることが多いようです。

このヴッパータール空中鉄道はフォービンケルVohwinkeからオーバーバルメンBf駅Oberbarmen Bahnhofまでヴッパータールの町を東西に走っていて、全長13.3㎞、全部で20の駅があり所要時間は30分ほど。全線にわたってDBの路線とほぼ並行しており、東側の終端駅オーバーバルメンBf (BfはBahnhof、駅の意)、中ほどにあるヴッパータールHbf(HbfはHauptbahnhof、中央駅の意)は駅名に「駅」が含まれていて、DBの乗換駅となっています。
13.3㎞の路線のうち、西側の終端駅フォービンケル付近の約3.3㎞は道路上に軌道がありますが、残りの10㎞はヴッパー川の上を走ります。

ヴッパータール中央駅からフォービンケル駅へ

中央駅からモノレールに乗車し、まずは西側の終端駅、フォービンケルに行ってみることにしました。ホームで待っていると、赤い広告ラッピングされた車両がやってきました。

車内は進行左側に前向きのシートが並んでいて、右側が通路になっていました。ドアは右側にしかありません。また、最後尾は車体幅いっぱいにシートが設置されていて、運転席はついていませんでした。つまりこれはこの列車が一方向にしか進まず、すべての駅のホームが進行右側にあること、また、終点はループ式になっていて、進行方向はそのままに、くるりと回って元の方向に戻って行くのであろうことが予想されます。(車内写真は別タイミングで撮影)

川の上から道路の上を走るようになり、ほどなくして終点のフォービンケルに到着。フォービンケル駅も他の駅と同様、複線の外側である進行右側にホームがありましたが、複線の軌道はホームの部分で扇のように広がってゆき、終端部には案の定ループ線がありました。列車はくるりとまわって反対側のホームに入り、反対方向の列車として出発して行きます。

駅を出て、下の道路からモノレールを見上げてみます。細い道路の上を走る懸垂式モノレールは、湘南モノレールのようです。と思ったら、この後2018年に、ヴッパータール空中鉄道と湘南モノレールは姉妹協定を締結したそうです。

ヴッパータール姉妹提携 | 湘南モノレール (shonan-monorail.co.jp)

町並みを横切る無骨な鉄骨づくりの軌道は、以外と風景にマッチしていると思います。カラフルな広告ラッピング車も多いので、やってくる車両のそれぞれの色合いが、街角風景をまた違ったものに見せてくれます。

フォービンケルからオーバーバルメンBfへ

フォービンケルから再びモノレールに乗り、今度は反対側の終端駅、オーバーバルメンBfに行ってみようと思いますが、ヴッパータール空中鉄道と言えばやはり川の上を走るところを見たいと思い、数駅乗ったところで途中下車してみました。

フォービンケル側からレトロな風貌の車両がやって来ました。駅を通過していったので、観光用のイベント列車かと思われます。

今度はオーバーバルメンBf側を見てみると、軌道をまたぐ大きな石造りの橋が見えます。この橋の上にはDBの線路が遠いっています。空中を走るモノレールのさらに上を橋が越えて行くというのは、谷間の町らしい風景であると言えるでしょう。

オレンジと青の塗り分けが、ヴッパータール空中鉄道の標準色のようです。近鉄特急を思わせるカラーリングです。

車体の進行左側にあたる面には、ドアがひとつもありません。

橋の上を走るDBの列車とモノレールを同時に写真に収められないかと思いしばらく待ってみましたが、あいにくタイミングよく両方の列車がクロスする場面には遭遇できませんでした。再びモノレールに乗り、オーバーバルメンBfを目指します。
モノレールの軌道は川の流路を忠実にトレースするのでカーブが多く、また全線13.3㎞に20の駅があるので駅間距離も短いです。右に左にカーブを繰り返しながら、こまめに駅に停車し、やがてオーバーバルメンBfに到着しました。

オーバーバルメンBf駅はDBの駅のすぐ目の前にありました。下のGoogle Map航空写真では白い建物にピンが立っていますが、実際はその左の緑の軌道が<の形に広がる上下にあるグレーの屋根のところがモノレールのオーバーバルメンBf駅でした。

オーバーバルメンを発車し、フォービンケルに向かう列車。

オーバーバルメンBf駅の終端側は建屋に覆われていました。この中にループ線があり、右の入り口から入った列車はくるりと回って左から出てきます。留置されている車両も見えますので、ここは車庫にもなっているようです。

駅で乗客を降ろし、折り返し所に入って行く列車。2両編成というのか3両編成といいうのか、特徴的な面白い編成をしています。

オーバーバルメンBfからヴッパータールHbfに戻る

これでヴッパータール空中鉄道の全線に乗ることができました。これからデュッセルドルフに戻るので、オーバーバルメンからDBに乗ってもいいのですが、せっかくなのでスタート地点の中央駅まで空中鉄道を楽しんで、DBに乗り換えようと思います。
その道すがら、再度途中下車したのはDBの線路が見える駅。さきほどの途中下車では叶わなかった、空中鉄道とDBの競演に再度挑戦です。

モノレールは次々とやってきて、DBの列車も時々通り過ぎますが、やはりなかなか同じタイミングというわけにはいかないようです。

この駅のホームは木張りで、ウッドデッキのような味わいがありました。

オーバーバルメンBf行きのモノレールがホームを離れたその時、下のDBの線路にも列車が!

夕方、雨模様の天気なうえ、そもそも軌道が上にあって暗いところを走るという悪条件も重なりブレた写真になってしまいましたが、いちおう競演写真が撮れたので再びモノレールに乗って中央駅へ。
到着した中央駅では、オリジナル塗装同士が並びました。車両の前と後ろは一見同じように見えますが、おへそのところが赤ランプなのが後ろ、番号表示されているのが前で、また、窓に車内の横一文字の手すりが見えるのが後ろ、窓にワイパーがあるのが前、と、細かな違いがあります。

フォービンケルに向かって中央駅を発車するモノレール。

ヴッパータールからDBに乗ってデュッセルドルフに戻ります。

雨に濡れて鮮やかさを増した緑の中を走って行くデュッセルドルフのトラム。デュッセルドルフの町もいつかゆっくり見てみたいものです。

大都市デュッセルドルフから気軽に訪れることができるヴッパータール空中鉄道は、100年以上前の姿を今に伝えつつ、長きにわたって市民の足として愛され続けている素敵な鉄道でした。空中から町を見下ろす車窓は他ではあまり味わえないもので、乗っているだけで楽しい路線です。2022年現在では新しい車両も登場し、駅も近代的に改装されたりしているようなので、デュッセルドルフを訪れたらヴッパータールに足を延ばし、時代を越えて走る空中鉄道をぜひ体験をしてみることをお勧めします。

 

2005年8月