そこに線路があるかぎり

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【徳島県】名勝 大歩危小歩危の景観と四国随一の秘境駅 2016年に引退した「絶景!土讃線秘境トロッコ」の旅 〔大歩危~琴平/JR土讃線〕(2016年)

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四国三郎の異名を持ち、日本三大暴れ川として知られる吉野川中流に、大歩危小歩危(おおぼけ、こぼけ)と呼ばれる峡谷があります。香川県高知県を結ぶJR土讃線は車窓からこの峡谷の景観を眺めることができ、この区間の列車の旅の楽しみの1つにっています。2016年11月27日までは「絶景!土讃線秘境トロッコ号」というトロッコ列車も運転されていて、窓のない車両で峡谷の風を感じながら、大歩危小歩危の絶景を楽しめる列車として人気がありました。残念ながらこの列車は今ではもう走っていませんが、2016年10月、引退直前に乗ることができました。

絶景!土讃線秘境トロッコ号について

絶景!土讃線秘境トロッコ号は、2016年11月まで香川県の琴平と徳島県大歩危の間54.2㎞を春、秋の土休日を中心に1日1往復運転されていたトロッコ列車です。ルーツとなる大歩危ロッコ号(阿波池田大歩危)の運転開始が1997年とのことですから、2016年でちょうど20年目となり、長く運転され人気のある列車であったことがわかります。絶景!土讃線秘境トロッコ号という列車名で運転されているのは2015年3月からとのこと。

全車指定席の2両編成 でも発売されるのは1両分の座席だけ

絶景!土讃線秘境トロッコ号は2両編成で、1両が窓のないトロッコ車両、1両が窓のある一般車両です。全車指定席ですが、発売される指定券は一般車両の座席だけ。これはトロッコ車両を利用できるのが一部区間だけなので、その区間以外では乗客は全員一般車両に乗らなければならないためです。一般車両とトロッコ車両は座席の番号が同じになっているので、トロッコ車両が利用できる区間では、指定された座席と同じ番号のトロッコ車の座席に座ることができます。トロッコ車に乗らず、ずっと一般車両に乗っていてもOKです。なぜトロッコ車両に全区間乗れないかと言えば、おそらくトロッコ車に乗客が乗っているときは安全のためあまりスピードが出せず、全区間ノロノロ運転すると特急列車など他の列車の運転に支障を来すためと思われます。

運転時刻と停車駅

絶景!土讃線秘境トロッコ号の2016年の停車駅、運転時刻は下記の通り。

<下り>
琴平 9:59発 - 坪尻10:26着/10:39発 - 阿波池田11:03着/11:26発 - 大歩危12:02着
<上り>
大歩危 14:20発 - 阿波池田15:07着/15:26発 - 坪尻15:48着/15:58発 - 琴平16:28着

このうち、トロッコ車両に乗れるのは下り、上りとも坪尻大歩危だけです。
上記以外の駅は通過となりますが、時刻表を見るとこの列車の列車種別は特に何も書いていないので、普通列車ということになります。通過駅のある普通列車なので、快速列車なのではないかと思いますが、快速とも書いてありません。普通であっても快速であっても指定席料金は変わらず520円(2016年当時)です。

絶景!土讃線秘境トロッコ号の引退後

この列車は2016年11月27日に引退してしまいましたが、その後、この列車の走行区間を少し延長した多度津大歩危間を、特急「四国まんなか千年ものがたり」号が運転を開始しました。この列車はトロッコ列車ではなく、趣のある落ち着いた内装の車内で料理が楽しめる観光列車です。

香川・徳島の観光列車「四国まんなか千年ものがたり」JR四国 (jr-shikoku.co.jp)

また、トロッコ車両高知県の高知~窪川で2017年10月から運転が始まった「四国高知幕末維新号」として活躍しましたが、2019年9月、この列車もまた新しい観光列車、特急「四国土佐 時代の夜明けのものがたり」号にバトンを渡す形で引退となってしまいました。そして現在では職場を徳島県に移し、「藍よしのがわトロッコ」号として活躍を続けています。

観光列車<藍よしのがわトロッコ> - JR四国 | おすすめ列車/イベント情報 | JR四国 (jr-shikoku.co.jp)

指定券を購入 駅員さんに暴言を浴びせてしまう…?

絶景!土讃線秘境トロッコ号の指定券は全国のJRのみどりの窓口で販売しているので、私は東京都内の駅で購入しました。指定券申込書に記入して「お願いします」と窓口に差し出すと、受け取った若い駅員さんが「すみません、これはなんて読むのですか?」と「大歩危」を指さしています。難読駅名としても知られている大歩危、確かに普通は読めません。私が「ああ、おおぼけですね」と答えると「…あ、ああ、ありがとうございます」と駅員さんは機械を操作して希望通りの指定券を発券してくれましたが、私が答えた後に一瞬の間があったような気がしたのが引っ掛かりました。後から考えてみると、「おおぼけですね」という私の答えが、「駅名を読めないなんて大ボケですね」と言ったものだと一瞬勘違いされたのでは…と思えて冷や汗が出ました。人を「大ボケ」呼ばわりするとは何たる暴言、失礼な話ですが、古典落語にありそうなこうした勘違いから生まれる笑い話が現実に起こってしまうような、おもしろい駅名ではあります。

絶景!土讃線秘境トロッコ号に乗る

大歩危 14:20 - 琴平16:28

始発の大歩危駅は、吉野川に沿った谷間にある駅です。駅舎も小さく、駅前も狭いですが、一大観光地、大歩危峡や祖谷渓の玄関口とあって、すべての特急列車が停車する土讃線の主要駅のひとつです。
ここは徳島県最後の駅で、隣は土佐岩原駅、土佐とついていることからもわかるとおり高知県です。反対の隣駅は小歩危

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山に抱かれた大歩危駅

大歩危駅には2本のホームと3つの乗り場があります。絶景!土讃線秘境トロッコ号は駅舎から一番遠い片面ホームから発車します。
隣のホームには高知方面と岡山を結ぶ特急「南風」(なんぷう)号が並びました。南風号は2021年にすべての列車が新型車両に置き換わり、この水色のラインの入った2000系車両の南風号も思い出となってしまいました。

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2000系南風号と並んだ、絶景!土讃線秘境トロッコ

岡山を目指して南風号が走り去って行きました。こちら側の先頭車は運転席寄りの半分がグリーン車で、前方の景色が楽しめるように、大きな前面窓になっていました。
土讃線は単線ですが、大歩危駅の線路は駅を出てもすぐには1本に収束せず、少し先まで3本の線路が並んでいます。

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大歩危駅は山深いところにあります。駅の上には赤い道路橋がかかっていて、駅と吉野川を一跨ぎにして駅前と対岸の国道を結んでいます。

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絶景!土讃線秘境トロッコ号のヘッドマーク

上り列車の先頭(琴平寄り)が一般車両です。この車両は国鉄最末期に製造された特急用キハ185系。乗車券のほかに指定券を買う必要はありますが、普通列車なのに特急用車両に乗れるのはうれしいです。

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後ろの車両(大歩危寄り)が開放的なトロッコ車両

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2億年の時を経て作られた絶景 大歩危小歩危

列車が大歩危を出るとまもなく、左側に吉野川の流れが岩々を洗う渓谷が見えてきます。大歩危の渓谷です。
大歩危小歩危吉野川が2億年の時を経てつくった約8㎞にわたる渓谷で、大歩危峡、小歩危峡とも呼ばれます。大歩危は国の天然記念物に、そして大歩危小歩危で国の名勝に指定されていて、その名の由来は断崖を意味する古語「ほき(ほけ)」から付けられたという説と、「大股で歩くと危ないから大歩危」、「小股で歩いても危ないから小歩危」という説があるそうですが、大股小股の話は、じゃあ結局歩けないじゃないか、という話になってしまうわけで、後から作られた話のような気もします。

列車は鉄橋を渡り、いままで左側に見えていた川が右側になりました。この鉄橋のあたりが大歩危小歩危の境目らしく、ここから先(下流側)が小歩危とのことですが、景色を見ても何かが大きく変化したということもなく、迫力のある渓谷美が続きます。

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大歩危の激流は、観光遊覧船の船下りや、ラフティングでも楽しむことができます。暑い季節に水しぶきを浴び、迫力ある岩肌を見ながら川を下ったら、さぞ楽しいでしょう。

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小歩危を抜け、すこし川幅が広がって、水の流れがなくなったかなと思うところで再び鉄橋を渡り、吉野川が左側に戻って来ました。水が流れていないのは、この先、池田の町にダムがあるから。

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阿波池田でおよそ20分の停車。ここは高校野球の強豪校として知られる池田高校があるところです。

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列車名が長いので、発車案内票にも入り切りません。

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阿波池田を出て次の佃を通過すると、3たび吉野川を渡ります。このあたりはもうだいぶ川幅も広く穏やかな流れで、さきほどまでの激流が嘘のよう。

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この鉄橋を渡ると四国山地の山中に分け入り、次は秘境駅として知られる坪尻に停車します。

四国に2つあるスイッチバック駅の1つ、秘境駅 坪尻

阿波池田からゆっくり走って22分、坪尻駅に到着。線路では阿波池田からは11.8㎞のところにありますが、直線距離ではわずか3.6㎞ほど。これは大きく迂回しながら勾配を克服し山を登ってきたからですが、ここ坪尻駅も勾配がきつい区間の駅の設置方法である、スイッチバック式になっています。

昔のSLは勾配に弱く、上り坂の途中で停まってしまうと再び動き出せなくなってしまうこともありました。そこで勾配区間に駅を設けるときは、勾配の本線から平らな引き込み線を作り、そこに停車するスイッチバック式の駅が作られました。スイッチバック式の駅の線路は行き止まりになっているので、停車した列車は後ろ向きに進んで平坦な引き上げ線に入り、そこで再び進行方向を変えて、勢いをつけて勾配の本線に戻る(またはその逆に、本線から引き上げ線に入り、バックして駅に停まる)という動きをしなければならず、進行方向を変える手間と、行ったり来たりする時間がかかってしまうので、近年の勾配に強い列車が増えてくるとともに勾配のある本線上に駅を移設したりして、スイッチバック式の駅も数を減らしていきました。いまや珍しい存在になったスイッチバック駅ですが、四国にはこの坪尻駅と高知県の新改駅の2駅があり、いずれも土讃線の駅です。土讃線がいかに険しい山を越えているかということがわかります。特にここ坪尻は周囲に人家もなく、駅を出てからの道も登山道のような細い未舗装の道のため車で行くこともできないという秘境駅として知られています。

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坪尻では10分間の停車。ホームを散策したり、列車の前で記念写真を撮ったりすることができます。

列車が停車している線路は行き止まり、その横で勾配を上る本線の線路がトンネルに消えて行きます。

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トロッコ車両に乗車できるのはこの駅まで。ここから先は一般車両に乗車します。

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トロッコ車両への乗車が終わったからか、坪尻を出ると列車のスピードも上がりました。特急列車そのものの一般列車の車内では景品が当たるジャンケン大会が開催され、楽しいトロッコ列車の旅を楽しく締めくくりました。

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琴平から特急列車に乗り継いで渡った瀬戸大橋では、ちょうど夕日が瀬戸内海に沈むところを見ることができました。

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素晴らしい景色と渓谷の風が楽しめるトロッコ列車の旅、いまはこの区間に走っていないのは残念ですが、いつかまた復活してくれることを祈っています。

ケーブルカーとボンネットバスが魅力 新祖谷温泉ホテルかずら橋

さて、絶景!土讃線秘境トロッコ号に乗車する前は、大歩危駅から車で15分のところにある新祖谷温泉 ホテルかずら橋に宿泊しました。祖谷は「いや」と読み、大歩危から山を越えたところにある、祖谷川の谷に沿った山深いところです。ここには温泉が湧いていてそのお湯を楽しめる宿泊施設がいくつかあり、中でもホテル祖谷温泉は谷底にある浴室までホテル専用のケーブルカーで降りて行くことで有名です。ケーブルカーに乗って風呂に行くというのは珍しいですが、祖谷ではホテル祖谷温泉だけでなく、新祖谷温泉のホテルかずら橋でも体験することができます。祖谷温泉ホテルではケーブルカーで谷底に降りて入浴するスタイルであるのに対し、ホテルかずら橋ではお風呂が山の上にあり、ケーブルカーの乗って山を登って入浴するスタイルです。

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ホテルの建物の横には昔懐かしボンネットバスが停まっていました。このホテルの自家用の車両です。

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そしてお風呂に向かうケーブルカーがこちら。ケーブルカーと聞いて誰もがイメージするものとは大きくかけ離れたこの姿は、動く小屋といった風情でとてもユーモラス。乗り方はエレベーターのようで、搬器の中のボタンを押せば動き出します。搬器が乗り場にいないときは、ボタンを押せばやがてやって来ます。

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夜には宿泊者を対象とした、かずら橋ライトアップ鑑賞ツアーがあり、これに参加するとボンネットバスに乗ることができました。

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レトロな車内にエンジンの大きな音とスピーカーからの観光案内が響き渡ります。スピーカーの音質が悪いのもまた味のあるもの。昭和30年代くらいの観光バスはこんな感じだったのかなあと、古き良き昔に思いを馳せることができるひととき。

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ライトアップされたかずら橋が闇に浮かびあがり、幻想的です。

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日本三奇橋の1つ 祖谷のかずら橋を渡る

祖谷のかずら橋は祖谷川にかかる吊り橋で、長さは45m、水面からの高さは14mです。シラクチカズラという植物のつるを6トンも使って作られていて、3年ごとに架け替えされるそう。ワイルドな昔ながらの吊り橋の姿を現代にとどめる人気の観光スポットで、国指定重要有形民俗文化財に指定されています。

夜のライトアップ鑑賞ツアーのときは営業していなかったため渡ることができなかったので、翌日改めて訪れてみました。
通行は一方通行で、対岸に着いたあと、再びこの橋を渡って元の岸に戻ることはできません。渡り口のたもとで料金を支払い橋を近くで見ると、太く巻きつけられたツルが力強く、たくましさを感じます。

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踏板は意外に細く、板同士の間隔も開いているため橋の下の水面がよく見えます。なかなかのスリルで、そろり、そろりと慎重に渡ります。

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長さ45mなのでスイスイ渡ってしまえばあっという間ですが、必然的にゆっくり渡ることとなり、かずら橋を満喫できました。

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山の暮らしを支えた昔ながらの吊り橋を渡ったり、ボンネットバスに乗ったり、祖谷での宿泊は自然だけではなく、時代も感じることができた、素晴らしい一夜になりました。


2016年10月