フィンランドは言わずと知れたサウナの本場として知られる国で、そもそも「サウナ」という語もフィンランド語です。サウナ以外にも、サンタクロースやムーミン、マリメッコやキシリトールなどもフィンランドのものですし、オーロラや白夜、森と湖などの自然が豊かな国としても有名です。そして、アメリカの調査会社によって全世界の世論調査をもとに決定された「世界幸福度ランキング」では2022年時点で5年連続の1位に輝いていて、フィンランドは大変魅力的な国です。
また、JALが加盟するワンワールドアライアンスのメンバーであるフィンランドの航空会社フィンエアーが、首都ヘルシンキを拠点にヨーロッパ諸国へ充実した路線網を持つことから、日本からヨーロッパへ向かう際の経由地としてもメジャーな存在となっています。
2014年にハンガリーを訪れた際もヘルシンキ経由のフライトでしたが、せっかくなので乗り継ぎのヘルシンキにも1日滞在することにして、名物のサウナと市内観光を楽しんでみました。
ヘルシンキ最古の公衆サウナ
日本の銭湯のように、フィンランドには公衆サウナがあって市民の社交場となっています。首都ヘルシンキにもいくつか公衆サウナがあるそうですが、中でもいちばん歴史が古く、今日主流となっている電気式ストーブではなく、昔ながらの薪式ストーブが残っているというコティハルユサウナに行ってみようと思います。
コティハルユンサウナがあるのはヘルシンキの市街地の中。中央駅から地下鉄に乗り、3駅目のSornainenで降りて歩くこと5分ほど、目的のサウナが見えてきました。
坂の中腹に建つビルの1階にあるこのサウナ、入口の前では裸の男たちが腰巻タオル姿で缶ビールのようなものを飲んでいます。
この街角クールダウンの光景は、このサウナの名物のひとつ。
入場料12ユーロ、タオルレンタル3ユーロ、計15ユーロ(2014年5月当時の価格)を、狭い入り口の番台に座るおばちゃんに支払い、いざ中へ。
歴史を感じる木製のロッカーが並ぶ脱衣所で服を脱ぎ、銭湯の洗い場のようなシャワー室でシャワーを浴びたら、サウナ室に入ります。
サウナ室は薄暗く、思ったよりも狭いところでした。入ってすぐのところにあるストーブの熱気を受けつつ奥に進むとコンクリートの段が並んでいます。ところどころ、ちょっと臭うな…というスポットはありますが、臭いのないポジションを選んで座り、汗を流していると、時折入浴客のおじさんんがストーブ直結と思しき水道の蛇口をひねり、シュゴー!という音をたてて室内に熱気を補充しています。私が座っているところにもムワッとした熱い空気が襲ってきますが、ここが日本男児の根性の見せ所と、ひるまず、表情ひとつ変えず、平然を装って熱気を全身に受けます。
そしてひとしきり熱さに耐えた後は、火照った体を冷やしに路上へ。特にそういう人ようの短絡通路などがあるわけではなく、シャワー室、脱衣所、番台の前と、さきほど通った逆ルートを辿って外に出ると、ひんやりとした空気が最高に気持ちがいいクールダウンタイムの始まりです!5月と言えどまだ冬のような寒さで、ここへ来るときに見かけた街頭温度計では気温6度となっていました。当然、街行く人も冬の装いで、ダウンジャケットを着て犬の散歩をする家族連れなどが歩いています。そのすぐ横で、腰巻タオル1枚で体から湯気をあげ、全身の肌でヘルシンキの風を感じ、足の裏でヘルシンキのアスファルトを感じる経験は、ここならでは!(いちおう座る場所の足元にはスノコがありましたが)
サウナと路上を2-3回行ったり来たりしてシャワーで汗を流し、ヘルシンキでのサウナデビューも終了。庶民的な銭湯のようなサウナを存分に楽しみました。(上がるときになって奇跡的に他のお客さんがひとりもいなくなったので、その隙に写真を撮ることができました)
外に出てあたりを少し歩いて戻って見ると、また新たなお客さんが路上クールダウンをしています。ここではこれが当たり前の風景なようです。
ヘルシンキ地下鉄は岩の中?
ヘルシンキの地下鉄には少しの区間だけ乗車しましたが、岩盤を掘って表面を固めただけかのような、ゴツゴツしたトンネル壁が印象的でした。
プラットフォームも、線路と反対側は素掘り感のある天井と壁になっています。ヘルシンキの地盤が固い岩盤であることからこのようになっているのかと思われますが、ホームに柱もないので広々としていますし、ゴツゴツした壁が洞窟のような雰囲気も醸しています。照明の設置された部分の天井やサイン類は近代的ですが、天然の岩肌感のある部分ともマッチしていて、オレンジ色の車両とともに、センスのいい空間に仕上がっていると思います。さすが北欧デザインです。
岩をくりぬいて作られたテンペリアウキオ教会
1969年に完成したというテンペリアウキオ教会は、岩の教会として知られ、ヘルシンキのひとつの観光スポットになっています。
中に入ると、スリット状に設けられた天井の窓から天然の光が注ぎ、空間をやわらかく照らしていました。
掘ったそのままと思われる岩肌と銅色に鈍く輝く天井、岩と近代的な人口物が融合した空間デザインは素晴らしく、地下鉄駅のデザインにも通じるものがあって、これがヘルシンキらしさ、フィンランドのデザイン力といえるのかもしれません。
外から見ると、天井部分のドームだけが見え、UFOが着陸したかのよう。
教会の上をズカズカと歩くのはなんだか罰当たりな気もしますが、教会のある岩山の上は歩くことができます。それなりの高さがあるしっかりとした岩山で、周りの街の景色とのギャップが、またおもしろい風景を作っています。
ヘルシンキ大聖堂と生神女就寝大聖堂
港の近くにはヘルシンキ大聖堂と生神女就寝大聖堂の2つの教会があります。
白亜の教会がフィンランド福音ルター派のヘルシンキ大聖堂。ドイツ人のカール・ルートヴィヒ・エンゲルによって設計され、1852年に完成したそうです。
教会前の広場にはトラムが走っています。
一段高くなったところに建てられている大聖堂の前に立つと、銅像のある広場、トラム、そして奥の左側には港に停泊するフェリーまでが一望できます。
大聖堂から500mほどのところに建つのは、正教会の生神女就寝大聖堂。岩山の上に建っています。先ほどの大聖堂のフィンランド福音ルター派教会と、こちらのフィンランド正教会は、いずれもフィンランドの国教と位置付けられていて、ルター派教会はフィンランド国民の約80%が、正教会はフィンランド国民の約1%が信徒だそうです。
正教会らしいデザインの教会。なんとなく、東京の御茶ノ水にあるニコライ堂を思い出してしまいました。
港に停泊する大型フェリー。おそらく、ヘルシンキと、エストニアのタリンを結ぶ船なのではないかと思います。タリンはヘルシンキの対岸、80㎞ほどの距離のところにあります。いつかこれに乗ってエストニアにも訪れてみたい。
フィンランド料理を楽しむ
夕食にはフィンランド料理を食べたいと思い、大聖堂前の広場に面したところにあるレストラン、SAVOTTAへ。
玄関ドアは中庭のようなところにありました。
店内はかなり暗く、せっかくの料理が、写真撮影のライトで照らさないとあまり見えないのが残念でしたが、フィンランドらしい、おいしい料理を楽しむことができました。
ヘルシンキ中央駅で列車を眺める
フィンランドにはどんな車両が走っているのかが見たくてやってきた、ヘルシンキ中央駅。
フィンランドの鉄道は、線路を国が所有し、列車の運行は別の会社が行う、上下分離方式とのこと。VRというのが運行会社ですが、株式会社でありながら全株式をフィンランド政府が持っているそうなので、実質的には国鉄と言えそうです。
VRのイメージカラーは黄緑のようです。色合い的にも、北の国というイメージ的にも、JR北海道を思い起こさせます。
左に停車しているアレグロ号は、ロシアのサンクトペテルブルクとヘルシンキを結ぶ国際列車。ロシア国旗をイメージさせるカラーリングです。カーブでも高速で走れる振り子装置を備えたペンドリーノ車両が使用されています。
アレグロ号と形が似ているものの、VRカラーの黄緑のラインが入っているこちらの車両は、おそらく国内用のペンドリーノ車両かと思います。
モスクワ行きの列車はロシア国鉄の車両でした。
駅構内では農産物を販売するテントも出ていました。
乗り継ぎを利用した短期の滞在ながら、地元のサウナを堪能し、市内観光やフィンランド料理も楽しんだヘルシンキ滞在は、フィンランドをもっと巡ってみたいと思わせる、素敵な時間でした。
2014年5月