「ばたでん」の愛称で親しまれる一畑電車は、島根県第二の都市、出雲市にある電鉄出雲市駅から、県庁所在地松江市の松江しんじ湖温泉駅までの北松江線と、途中の川跡(かわと)で分岐して出雲大社前駅に至る大社線の2路線からなる私鉄です。県内の2大都市と、多くの信仰を集め、国内有数の観光地である出雲大社を結ぶとあって、観光客の利用も多い一畑電車。そのメインの路線である北松江線は、宍道湖の湖畔を走り、車窓から湖の風景を満喫することができます。2024年5月、そんな北松江線の旅を楽しみました。
- 一畑電車 北松江線について
- JR松江駅から2㎞ほど離れたところにある松江しんじ湖温泉駅
- JR四国の車両そっくりな新造車両
- 車窓のお供は宍道湖
- スイッチバックの一畑口駅で進行方向が変わる
- 雲州平田には車庫が
- 川跡には3方向の列車が集結
一畑電車 北松江線について
一畑電車北松江線は、電鉄出雲市駅から松江しんじ湖温泉駅に至る33.9㎞の路線です。
一畑薬師(一畑寺)への参拝客輸送を目的として開業したことから「一畑」の名を冠しています。もともとは一畑電気鉄道という会社名でしたが、一畑電気鉄道は持ち株会社となり、鉄道部門は一畑電車株式会社という会社になっています。
一畑電車では列車の進む方面について「上り」「下り」という呼称は使われていないようですが、北松江線は電鉄出雲市から松江しんじ湖温泉へ向かう路線という位置づけになっています。各駅に振られている駅番号も、電鉄出雲市が1、松江しんじ湖温泉が22というように、実質的には電鉄出雲市から松江しんじ湖温泉に向かう列車が下り列車と考えてよいでしょう。通常であれば県庁所在地の都市から県第2の都市に向かうのが下り列車になりそうなものですが、電鉄出雲市側から路線が建設されたという歴史的経緯からか、県庁所在地に向かうのが下り列車のような扱いになっているのがおもしろいです。
JR松江駅から2㎞ほど離れたところにある松江しんじ湖温泉駅
さて、今回は松江しんじ湖温泉から電鉄出雲市に向けて北松江線に乗ってみたいと思います。
松江市は宍道湖の東端に位置し、西の宍道湖と東の中海を結ぶ大橋川の南北に市街地が広がっています。JR松江駅は大橋川の南側にあり、島根県庁や松江市役所、国宝松江城などは大橋川の北側にあります。一畑電車の松江しんじ湖温泉駅も北側にありますが、JR松江駅とは2㎞ほど離れており、乗り換えはバス利用が一般的です。今回は時間に余裕があったので松江駅から松江しんじ湖温泉駅まで歩いてみました。
松江市役所の裏手には温泉スタンドがありました。松江は県庁所在地に温泉がある都市として知られています。
100リットル汲んでも料金は100円。100リットルと言われてもピンときませんが、いわゆるドラム缶が水が200㎏入る大きさであることを考えると、家庭用のお風呂でもこの温泉で湯舟を満たそうとするならば300~400リットルは必要と思われます。そんな大量の温泉は、どのように運ぶのでしょうか。
温泉スタンドから少し歩くと松江しんじ湖温泉駅に到着。松江駅からは30分ほど、ちょうどよい距離の散歩でした。
駅前には足湯があり、無料で誰でも利用することができます。
ガラス張りでモダンなつくりの松江しんじ湖温泉駅。この駅舎は2001年に竣工しました。
駅舎からは電車の姿が見えますが、改札は発車時刻の少し前にならないと開始されないため、まだホームに入ることはできません。
列車は昼間は1時間に1本。おもしろいのが日中の列車が平日はすべて電鉄出雲市行き、休日はすべて川跡(かわと)行きというところ。川跡は出雲大社前への大社線の分岐駅ですが、平日は出雲市と松江が直通で、出雲大社へは川跡で乗り換えという運転系統、土休日は出雲市と出雲大社前が直通になっていて、松江へは川跡で乗り換えという運転系統になっているということです。やはり乗客の流動が平日と土休日ではぜんぜん違うのでしょう。
券売機は各種クレジットカードや電子マネー対応でした。また、駅前から出ている出雲空港行きのバスのチケットも発売しています。
JR四国の車両そっくりな新造車両
発車時刻が近くなり、改札が始まりました。松江しんじ湖温泉駅は線路2本にホームが2面というつくり。今度の電鉄出雲市行きは左の白い車両です。
駅の外れにはピンク色の車両が停まっていました。これは「ご縁電車しまねっこ号II」と名づけられたラッピング車両。この車両も、先ほど右に停まっていたオレンジの車両も、東急東横線から地下鉄日比谷線への乗り入れに使われていた東急の車両を譲り受けたもの。東急時代はステンレスに赤帯といういでたちでしたが、色でだいぶイメージが変わるものです。
乗車する7000系は、中古車両を導入することがおおい地方私鉄には珍しい、新造車両。2016年から導入されています。
新造車両といっても、設計はJR四国の7000系のものを流用しており、色こそ違いますが、印象は似た感じです。
車内にはマスコットのしまねっこが。
車内はこのようにクロスシートとロングシートが組み合わさったレイアウト。(写真は電鉄出雲市で撮影)
車窓のお供は宍道湖
松江しんじ湖温泉駅を発車。
松江の市街地を抜けると、進行左側に宍道湖が見えてきます。
松江しんじ湖温泉を出て5駅目、松江フォーゲルパーク。同名の施設がすぐ目の前にあります。ここは花鳥園ともいうべき施設で、花と鳥たちを楽しむことができます。
湖畔や緑の中を走って行きます。
津ノ森で松江しんじ湖温泉行きと位置違い。
この車両は元京王5000系。一時期は一畑電鉄の主力として活躍しましたが、老朽化とともに最近は数を減らしています。
新緑に包まれた線路。
スイッチバックの一畑口駅で進行方向が変わる
一畑口に近づくと、左に線路が近づいてきました。ここはスイッチバック駅で、ここから列車の進行方向がかわります。
山岳線区での勾配克服のために用いられることが多いスイッチバックですが、ここは平坦な路線。なぜこんなところにスイッチバックがつくられたのかというと、もともと出雲市から一畑薬師の玄関口である一畑駅までの線路がつくられ、その後松江方面に延伸するときに、一畑口駅から戻る形で松江方面の線路がつくられたため。いまではここ一畑口駅の先に線路はありませんが、かつてはこの先の一畑駅まで線路が続いていました。一畑口から一畑までの路線が廃止されたのは1960年のこと。その前の1944年から戦時の鉄材供出のために路線休止になっていたそうなので、もう80年も昔に、この先一畑までの列車はなくなっていたということです。
一畑口を後に、出雲市を目指します。ここからは後方展望にです。
一畑口を出てからも宍道湖が見えますが、一畑口の次の園駅を出たあたりで、宍道湖の景色も見納めに。
古い待合室が残る園。
園の次の湖遊館新駅は、湖遊館というスケート場の最寄り駅。「湖遊館新駅」と、「駅」までが駅名のため、呼び名に駅をつけると「湖遊館新駅駅」になります。
田園地帯の直線区間を快走。
雲州平田には車庫が
雲州平田は、かつては平田市という駅名でしたが、平田市が出雲市と合併したことにともない、雲州平田と改称されました。
ここには車庫があり、休んでいるいろいろな車両が見えます。
青と白と紺の車両は「しまねの木」号。車内は木材が使われたセミコンパートメント風の席が並んでいます。特別な列車ではなく、普通列車に使用されるので、乗れたらラッキーなのですが、今日は車庫でお休みのようです。
右側に見えるオレンジの車両は、最近まで活躍した旧型車両です。いまは引退していますが、なんとここではこの車両の体験運転ができます。体験運転は講習の受講なども必要な本格的なもの。
デハニ50形体験運転|はたでん【一畑電車】 (ichibata.co.jp)
今乗車しているのと同型の7000系も停まっていました。
広い構内の雲州平田駅。
「たぶし」「みだみ」と、難読駅が続きます。このほか、大社線の「遥堪」も難読駅。「ようかん」と読みます。
川跡には3方向の列車が集結
出雲大社方面が分岐する川跡に到着。この駅では出雲市方面、松江方面、出雲大社方面の3方向の列車が一度に会し、乗り継ぎの便を図っています。
右が出雲大社行き、その隣が松江しんじ湖温泉行き。
松江しんじ湖温泉行き電車の行先表示は「松江温泉」。かつては松江しんじ湖温泉駅は松江温泉という駅名でした。
川跡の次は「たけし」という、人の名前のような駅。
出雲科学館パークタウン前駅付近で高架に。
窓をかすめて特急やくもが発車していくのが見えたら、電鉄出雲市に到着です。
電鉄出雲市駅はホーム1面の両側に線路がありますが、片方だけは短いです。
高架下の電鉄出雲市駅は改札口も1つでこじんまりした印象。
右側がJRの高架です。
窓いっぱいに広がる宍道湖や里の風景、味のある駅やカラフルな車両を楽しんでいると、およそ1時間の列車の旅もあっと言う間です。沿線観光地も多く、風景も楽しめる一畑電車は、出雲観光の心強い味方です。
2024年5月
一畑電車でめぐる出雲、松江観光はこちらの記事もどうぞ。