足立区の西新井駅から大師前(だいしまえ)までを結ぶ短い路線が、東武大師線です。全長わずか1.0㎞、全線単線で途中駅はなく、始発駅を出発したと思ったらすぐに終点に到着してしまうこの路線は、電車に乗る前に下車駅の改札口を出るという、なんとも面白い仕組みの乗車方法になっています。
そんな東武大師線に乗ってみました。
- 東京近郊にある2つの大師線
- 東武大師線の始発駅 西新井
- リバイバルカラーの車両が走る大師線
- スカイツリーラインのホームから大師線を見る
- 大師前駅の改札口は西新井駅に
- 広々とした高架駅の大師前は無人駅
- 西新井大師は大師前駅からすぐ
- 門前町の雰囲気も良い
- お昼に電車が入れ替わる大師線
東京近郊にある2つの大師線
東京近郊には「大師線」という路線が2つあります。
足立区にある東武大師線と、川崎市にある京急大師線です。どちらも、「大師」と呼ばれる寺院への参拝客輸送を担う路線で、東武大師線が「西新井大師」こと總持寺(そうじじ)、京急大師線が「川崎大師」こと平間寺(へいけんじ)への足となっていて、特に初詣の時期には参拝客で混雑します。
東武大師線の始発駅西新井は、東武スカイツリーラインのターミナル駅浅草から11.3㎞、京急大師線の始発駅京急川崎は、京急本線のターミナル駅品川から11.8㎞と、どちらも本線のターミナルからの距離は同じくらいのところにありますが、京急大師線が全長4.5㎞、起終点を含む7駅の路線で、その途中に川崎大師があるのに対し、東武大師線は全長1.0㎞で起終点駅のみの2駅、終着駅が西新井大師の門前に位置しているという違いがあります。
東武大師線の始発駅 西新井
東武大師線の始発駅は足立区の西新井。ここは東武スカイツリーラインの急行停車駅で、東京メトロ半蔵門線、日比谷線からの直通列車が発着し、都心方面へのアクセスが良い駅です。
西新井はスカイツリーラインの複々線区間にあり、外側に半蔵門線直通の急行線、内側に日比谷線直通の緩行線の線路があります。そのスカイツリーラインの下り急行線、3番線の隣に並ぶホームが大師線用の1番線、2番線です。
大師線は2両編成の列車で運転されています。西新井駅の大師線ホームも、大師前駅も、ホームは2両分の長さしかありません。
リバイバルカラーの車両が走る大師線
このときは大師線にはオレンジに黄色い帯を巻いた電車が運用されていました。これは昭和30年代の東武電車の標準色を復刻したリバイバルカラーの車両。標準色といっても、このカラーが標準色として使用されたのはわずか5-6年程度だったようです。
この塗装が施されている8000系は1963年(昭和38年)の登場であり、登場時の色はオレンジとベージュのツートンカラーでした。その後クリーム1色塗りを経て白地に青と水色の帯の現在の標準色に変わったため、この復刻塗装の標準色には塗られたことはないはずですが、8000系は今や東武でも最古参の車両であり、古い塗装が似合う車両でもあります。
なお、大師線に運用される8000系の塗装はもう2種類があり、下の写真の右側の黄色にオレンジ帯の車両、そして左側の白地に青帯の車両です。黄色にオレンジ帯は昔の試験塗装として塗られていたもののリバイバル、そして白地に青帯は、現代の8000系の標準色です。
リバイバルカラーにはもう1種類、緑地に白帯と言う車両もありましたが、残念ながら2024年3月に引退してしまいました。
スカイツリーラインのホームから大師線を見る
西新井のスカイツリーラインのホームから下り方を見ると、大師線が本線と分かれ、大師前方面へ向かっていくところが見えます。
複々線のスカイツリーラインと単線の大師線、西新井駅の下り方は5本の線路が並んでいます。
大師線が左に分かれたあと、スカイツリーラインは右に大きくカーブしていきます。
大師前駅の改札口は西新井駅に
大師線の発着を少し眺めたら、いよいよ大師線に乗ってみましょう。西新井は橋上駅舎です。スカイツリーラインのホームから乗り換え通路に上がると、大師線乗り場の1,2番線への通路には自動改札が設置されています。
案内には「大師前駅には改札がございません。きっぷはここで回収となります。」の表示が。つまり、西新井駅の大師線のりばへの通路に、大師前駅の改札口が設置されているということです。
大師線は1駅しかないので、大師線に乗る乗客は全員が大師前駅で降ります。したがって、乗り換えの西新井駅で大師前駅までのきっぷを回収してしまっても問題ないわけです。西新井駅に大師前駅の改札口機能を置くことで、大師前駅に改札機能を置く必要はなく、大師前駅を無人駅とすることができるというメリットがあります。
なお、大師前駅から来る乗客は逆に、切符を持たずに大師線に乗車し、この西新井の乗り換え改札前にある券売機で大師前からのきっぷを購入する仕組みになっています。もっとも、昨今はIC乗車券を使う人が多いと思いますので、西新井の乗り換え改札にIC乗車券をタッチするだけで、特にここが大師前駅の改札口の機能を持っていることなど気にも留めずに通過している人が大半でしょう。
乗り換えの跨線橋から見ると、下り特急スペーシアが通過していきました。
入れ替わりに、大師線の電車が入って来ます。
大師線の乗り場は2両分の短いホームで、どこかのんびりした雰囲気が漂います。
大師線はおおむ10分間隔での運転。基本的に1本の列車が行ったり来たりします。
スカイツリーラインも10分ヘッドの運転。スカイツリーラインの下り急行が到着して少しすると大師線が発車するというパターンになっています。
左の大師線用の信号が青になりました。出発です。
西新井を出て環七通りの下をくぐると、すぐに左にカーブしてスカイツリーラインと分かれます。
カーブの途中から高架への上り勾配が始まります。
家々の間を、高架に登って行きます。
登り勾配が終わり水平になるころには、もう前方に終点の大師前駅の信号が見えてきます。ちょうど線路左側の木に隠れたあたりに大師前駅があります。
横を見れば、住宅地が続いています。
ふたたび左カーブ。
カーブの先には丸屋根に覆われた大師前駅が見えます。
西新井から2分ほどで終点の大師前に到着しました。広いホームを持つ高架駅です。
大師前に到着した電車は、すぐに西新井行きとして折り返していきます。
広々とした高架駅の大師前は無人駅
大師前駅は1991年に高架化されました。広いホームを備えるのは、初詣などの多客期にも対応できるようにとのことでしょう。
駅ホームの窓からは西新井大師の境内が見えます。
出口へと向かってみましょう。
1階へ降りる途中の踊り場からは、西新井大師の参道が見えます。
大師前には2つの改札口があります。左側はバス乗り場、右側は西新井大師方面への出口です。改札口はありますが、大師前の改札機能は西新井の乗り換え改札に集約されていますので、ここには自動改札もICカードリーダーも、そして自動券売機もありません。
改札口はそのまま通り抜けられます。こちらがバス乗り場方面の出口。
そしてこちらが西新井方面への出口。
この駅ではきっぷは売っていないという案内があります。
引退した緑塗装の車両がデザインされた歓迎看板がありました。
大師前駅を外から見るとこんな感じです。
右の高架の丸い茶色い屋根が架かっているところがホーム、そして手前の3階建ての建物が駅舎。左側の奥に行くと西新井大師が、そして右側にはバス乗り場と、その奥にバスの車庫があります。
西新井大師は大師前駅からすぐ
大師前駅を出て参道を歩くと、すぐ西新井大師の境内です。右のガラス張りの建物が大師前駅、左が西新井大師の光明殿という建物。
光明殿のところから境内に入らず、そのまま参道を進み左に折れると、立派な門が見えてきました。奥にあるのが本堂につづく山門です。
迫力ある山門。
山門を入ると、すぐ右になにやら真っ白になったお地蔵様が。塩地蔵だそうです。
その先には延命水洗地蔵。
そして本堂。
藤棚には風鈴が。
藤棚の横には池があり、その向こうに鐘楼。
暑い日でも、目に耳に、涼し気に過ごすことができそうです。
門前町の雰囲気も良い
山門の前には、小さいながらも門前町の風情がある参道が続いています。
右側のセブンイレブンも茶色バージョン。
日暮里舎人ライナーの西新井大師西駅からもアクセスできますが、1180mあるようなので、歩いて15分から20分といったところでしょうか。
何とも味のある建物のおせんべい屋さんもありました。
お昼に電車が入れ替わる大師線
駅周辺を散策して駅に戻ると、やってきた電車はさきほどのオレンジの車両ではなく、東武の標準色の車両でした。バスの車庫の上を通り、大師前駅に入線します。
時刻表をみると、いっけん日中は完全10分ヘッドのように見えますが、12時だけ、6分、18分、26分…と、パターンが崩れています。おそらくここで車両交換があり、この前後で使用される車両が変わるのかと思います。
ホームに上がり、入線する列車を待ちます。色が違うと、だいぶイメージも変わります。
西新井駅上りホーム側にあった広告は、本堂の屋根と空、文字だけのシンプルなものでした。
短いながらもいろいろと特徴の詰まった東武大師線ででかける西新井大師は、休日のちょっとした出かけ先として楽しめるスポットです。
2024年7月