そこに線路があるかぎり

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【愛媛県】「マッチ箱のような汽車」に乗って道後温泉へ あの有名小説の時代が体験できる 「坊っちゃん列車」の旅 〔松山市駅~道後温泉/伊予鉄道市内電車〕(2021年)

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夏目漱石の小説「坊っちゃん」の舞台、愛媛県松山市には「いよてつ」の愛称で知られる伊予鉄道という私鉄があり、松山市駅を中心に3方向に向かう郊外電車と、松山市内の路面電車を運行しています。「坊っちゃん」で描かれている「マッチ箱のような汽車」とはこの伊予鉄道の列車の大昔の姿で、当然ながら現在では当時の車両はとっくに引退をしていますが、2001年に復刻版の坊っちゃん列車が新製され、松山の一大観光地である道後温泉に向かう市内電車路線で運行が開始されました。運転されていないときは道後温泉駅前に展示されているようで、道後温泉を訪れた観光客の格好の記念撮影スポットになっていましたが、この列車が実際に線路を走り、乗ることができることを知らない人も多いのではないかと思います。
2021年10月、この坊っちゃん列車に乗ってみました。

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道後温泉駅前に展示されている坊っちゃん列車

伊予鉄道 坊っちゃん列車とは

現在乗ることができる伊予鉄道坊っちゃん列車は、伊予鉄道の路線のうち、松山市街地を走る路面電車、通称「市内電車」の路線のうち、松山市道後温泉、古町~道後温泉に運転されている観光列車です。2001年に新製された、かつての坊っちゃん列車を模したレトロなデザインの列車で、乗務する乗務員の方も昔のデザインの制服を着用されており、かつての坊っちゃん列車をしのぶことができるレトロな列車になっています。

SL型ディーゼル機関車が2両の客車を牽く 1列車の乗客はわずか18名

坊っちゃん列車はSL型機関車が2両の客車を牽くスタイル。機関車はSLの形をしていますが中身はディーゼル機関車で、水蒸気によるダミーの煙が出る仕掛けもあり、SLらしさを演出しています。
客車は「マッチ箱のような」小型車両で、1両の車両の幅は約2m、長さ約4m。2両あわせた乗客数は18名しかありません。車内は木造で木のベンチが向かいあって並んでいて、1両の座席定員は12名とのことなので、片側のベンチには6名が座れるということになりますが、現在は2両で18名しか乗れないことになっているので、1両の片側のベンチに4~5人座る計算です。4~5人でも全員がベンチに座ればスペースの余裕はないくらい、狭い車内です。
このSL1両と客車2両の製造費はおよそ2億5千万円というので驚きです。いったいどこにそんなにお金がかかっているのか不思議になりますが、オーダーメイドの特殊車両ということでコストがかかってしまうのでしょう。それにしても、ちょっと高すぎるのでは、という印象です。

2編成が在籍 でも現在動いているのは1編成だけ

坊っちゃん列車は、2001年に登場した小型客車2両をSL型機関車牽く編成と、少し大型の車両1両をSL型機関車が牽く編成の2編成がありますが、1両客車の編成は調子が悪いらしく、現在稼働しているのは2両客車の編成だけだそうです。1両客車は2両客車より大型で長さが約6.1mあり、座席数は22席とのこと。2編成が稼働すれば、坊っちゃん列車の運転本数を増やすことができるので、調子が悪く走れないというのはもったいないです。

市内電車でアクセスできる道後温泉

松山市は、小高い山の上に築かれた松山城を中心に、城の南側に大街道(おおかいどう)や松山市駅といった繁華街、県庁、市役所などの官公庁、西側にJR松山駅松山空港などの交通拠点、そして東側に道後温泉があります。道後温泉は日本三古湯のひとつにも数えられ、日本最古の温泉とも言われる歴史のあるところですが、その立地は県庁所在地の市街地の外れというものでアクセスも良く、JR松山駅から道後温泉までは市内電車で約25分で行くことができます。坊っちゃん列車も、この道後温泉を目指して運転されています。

坊っちゃん列車の運転日、運転時刻

2021年11月現在、2022年3月までの運転予定日が発表されていますが、土日祝日のみの運転となっています。
calendar.pdf (iyotetsu.co.jp)

運転区間、運転時刻は下記のとおりです。

道後温泉 9:19 --> 大街道9:30 --> 松山市駅 9:39
松山市駅 10:02 --> 大街道 10:10 --> 道後温泉 10:22
道後温泉 10:47 --> 大街道 10:59 --> JR松山駅前 11:12 --> 古町(こまち)11:16
古町 11:47 --> JR松山駅前 11:55 --> 大街道 12:08 --> 道後温泉 12:20
道後温泉 13:19--> 大街道 13:30 --> 松山市駅 13:39
松山市駅 14:02 --> 大街道 14:10 --> 道後温泉 14:22
道後温泉 14:59 --> 大街道 15:10 --> 松山市駅 15:19
松山市駅 15:42 --> 大街道 15:50 --> 道後温泉 16:02

道後温泉松山市駅の間を3往復、道後温泉と古町の間を1往復、計1日4往復が運転されています。松山市道後温泉で20分ほど、より長い運転となる古町~道後温泉でも30分ほどの乗車時間です。
下の地図は市内電車の運転系統ですが、坊っちゃん列車は赤のライン(松山市駅道後温泉)を中心に、青のライン(JR松山駅前~道後温泉)のJR松山駅前~古町を延長した区間で運転されているということです。坊っちゃん列車に乗降ができるのは起終点駅と大街道だけ、そして降車のみ可能なのが南堀端と上一万で、その他の停留所は通過となります。

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坊っちゃん列車の乗車料金

坊っちゃん列車に乗るには、坊っちゃん列車専用の乗車券が必要です。市内電車の1日乗車券などでは坊っちゃん列車には乗ることはできず、あくまで坊っちゃん列車乗車券を買わなくてはなりません。
坊っちゃん列車乗車券は、2021年11月30日までは大人1000円、子供 500円で、2021年12月1日からは大人1300円、子供650円に改定されます。乗車券は1乗車あたりの金額なので、途中で降りても、途中で乗っても、始発から終点まで乗りとおしても同じ金額です。大人1000円になったのは2020年10月1日からで、それ以前は大人800円だったそうなので、近年値上げが続いているようです。
坊っちゃん列車の乗車と松山城のロープウェイ・リフトの往復と天守観覧、二之丸史跡庭園入場がセットになった「松山城らくトクセット券」もあり、こちらは2021年11月30日まで 大人1900円、子供840円、12月1日から大人2200円、子供1020円です。

坊っちゃん列車乗車券は乗車当日車掌さんから購入 予約は不可

坊っちゃん列車の乗車券は当日乗車前に車掌さんから購入します。予約はできず、当日先着順での発売になります。満席の場合は乗車することはできないので、少し早めに停留所に行っていたほうがよさそうです。
なお、道後温泉発の便(1日4便)は朝8:30~10:00に道後チケットカウンターにて当日分の整理券が配布され、その整理券を持っている人から乗車券が発売されるとのことなので、道後温泉発に乗る場合は注意してください。

観覧車に無料で乗れる特典も

坊っちゃん列車の乗車券、松山城らくトクセット券を提示すれば、松山市駅いよてつ高島屋にある大観覧車「くるりん」の通常ゴンドラに無料で乗ることができます。(ゴンドラにはシースルータイプもあるそうですが、こちらには乗れません)
通常ゴンドラに乗る料金は700円なので、坊っちゃん列車と観覧車が乗れるセット券と思えば、坊っちゃん列車乗車券もそれほど割高感を感じません。
なお、観覧車に乗るのは坊っちゃん列車に乗った日である必要はなく、翌日でも翌月でも、いつでもいいのだそうです。今回は観覧車に乗る時間がなかった、という方でも、次回いつか松山を訪れたときに観覧車に乗れるよう、坊っちゃん列車の乗車券はなくさないようにとっておきましょう。

坊っちゃん列車に乗る

松山市 15:42 ==> 道後温泉 16:02

松山市街地を走る路面電車は、市営ではなく伊予鉄道という私鉄が運営する路線なので、「市電」とは言わず、「市内電車」と呼ばれています。使用される車両は新しいものから古いものまでありますが、たまたま乗車した古い車両は車内が床から窓枠に至るまで木造で、木のぬくもりと歴史を感じる、たいへん味のある車両でした。

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さて、坊っちゃん列車に乗るために松山市駅にやってきました。JRが発着する松山駅に対し、伊予鉄道のターミナルとなっているのが松山市駅で、両駅のあいだは市内電車で10分ほどかかります。
松山市駅に着いたのは坊っちゃん列車発車の15分ほど前。路面電車の乗り場に、特徴的なレトロな風貌の小さな列車がちょこんと停まっています。路面電車と並ぶと、車体がひとまわり小さいことがわかります。

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列車の前にいらっしゃった乗務員さんから坊っちゃん列車乗車券を購入して車内に入ると、こじんまりとした空間が広がっていました。座席は自由席ですので、先着順に好きなところに座れます。
座席に荷物を置いて機関車の前で記念撮影をしていると、子供が運転士さんに運転席に招かれ、なんと運転席に入って写真を撮らせて頂けることに。子供も大喜びで、坊っちゃん列車の旅が始まる前からいい思い出ができました。

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松山市駅の駅ビルは高島屋。駅ビルの前に佇む小さくレトロな列車のミスマッチぶりが面白いです。

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客車はオープンデッキから扉を開けて客室に入る構造。このデッキに立って乗れたら楽しいと思うのですが、聞いてみるとやはりそれはできず、乗客は客室に入っていなければならないそうです。f:id:nikonikotrain:20211031155538j:plain

車内に戻ると、小さな客室の座席はすっかり乗客でいっぱいになっていました。といっても、この車両に乗っていたのは子供も含めて10名。前の車両も座席は埋まっているようで、発車数分前にして列車定員の18名に達したようです。
車内は一面ニス塗りで、白熱灯色の電灯が暖かみを醸しています。窓が小さいので、少しくらいかなという印象です。空調はなく、この日はまだ暑かったので窓が開けられていました。

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汽笛がなり、いよいよ出発です。ごつごつした乗り心地と、なかなか騒がしい走行音が現代の列車にはない楽しさを演出してくれます。

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松山の町の道路の上を、他の路面電車とすれ違いながらゴトゴト走って行きます。

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松山市駅の次の停留所、南堀端から市役所前停留所の先までは松山城のお濠沿いを走り、山の上の松山城内の何かの建物を見ることもできます。道後温泉行きの場合、進行方向左側が松山城です。

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信号待ちで停車したときなどに車掌さんが隣の車両から渡ってきて、扉のところで車窓の案内などをしてくれますが、走行音が大きいので、遠い席に座っていると聞きづらいかもしれません。ひととおり説明を終えると、また信号待ちのときに前の車両に乗り移って行き、なかなか忙しそうです。

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列車は松山の町の中を進んで行きます。窓が小さいので座っていると景色は少々見づらく、景色を眺めたければ、立って横の窓や後ろの窓から見るのがよさそうです。

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終点の道後温泉に到着しました。松山市駅から20分、あっと言う間に旅が終わってしまった気がしますが、程よい乗車時間だったと思います。

 

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列車は乗客を降ろすとすぐに駅の先にある引き上げ線に引き上げていきます。

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引き上げ線で客車を切り離すと、機関車だけがさらに先に進み停車。

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機関車の車体がやや浮き上がったと思うと、くるりと回転。

 

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ふつう、機関車の向きを変えるのには、機関車が載ったレールごとぐるりと回す転車台という設備が使われますが、転車台のない伊予鉄道では、機関車の中心から地面に向けて足が出て、車体を持ち上げ、車体ごとクルリと回す仕組みになっているのでした。

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向きが変わった機関車はポイントを渡って隣の線路に移ります。

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すると乗務員さんによって人力で押された客車がポイントの先へ移動。

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隣の線路から機関車が戻ってきて客車に連結。

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これで来た時と向きが変わり、反対方向に走ることができようになりました。

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坊っちゃん列車の本日の運行はもうありませんので、車両は道後温泉駅前広場にある坊っちゃん列車展示用の線路へ。ここで次の運転まで休むようです。

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こうして展示線路に収まると、よく観光地の駅前にある、かつて活躍していた古い車両の展示といった風情で、人力車の乗客や浴衣姿の観光客などが記念撮影をしています。まさかこの列車が路面電車として線路を走り、乗ることができるとは思わない人もいるのではないかと思います。

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レトロな雰囲気の道後温泉駅舎にはスターバックスが入っていました。

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古いお城や現代の街並みを見ながら歴史ある温泉地に向かう、レトロで小さな坊っちゃん列車の旅は、短いながらもとても素敵なものでした。他の列車とは違う独特な雰囲気の車内に小さな子供も楽しめますし、小説 坊っちゃんを読んだあとに、小説が書かれた時代に思いを馳せながら乗ってみるものまた面白そうです。松山を訪れた際は、ぜひ坊っちゃん列車に乗ってみることをおすすめします。


2021年10月