そこに線路があるかぎり

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【東京都】桜と新緑と西武線が彩る多摩湖の春 狭山公園お花見散歩(2019年)

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有名な東村山音頭にも歌われている多摩湖は、東京の西部、東大和市に広がる人造の湖です。このあたりの丘陵地帯は「となりのトトロ」の舞台とも言われる狭山丘陵で、都心から30㎞ほどの距離ながら里山の風景、武蔵野の面影が残り、都会から気軽に訪れて自然を感じることができる貴重なエリアです。
その多摩湖のほとりにある狭山公園は桜のお花見スポットとして知られています。2019年4月、この狭山公園を訪れました。

狭山丘陵の3つの貯水池

狭山丘陵には多摩湖狭山湖という2つの湖がありますが、この名称は愛称で、正式には多摩湖は村山貯水池、狭山湖は山口貯水池と言います。これらの貯水池は、丘陵地帯に堤体を築いて作られた人造の湖ですが、村山貯水池は中央部にも堤体があり2段式になっていて、上貯水池、下貯水池に分かれています。つまり、このエリアには3つの貯水池があるということです。

東京都水道局のウェブサイトによれば、東京の水道水の水源はほとんどが河川水で、80パーセントが利根川および荒川水系、17パーセントが多摩川水系からの水だそうです。このうち多摩川からの取水は、羽村市の小作取水堰と羽村取水堰から行われており、小作からの水は山口貯水池(狭山湖)へ、羽村からの水は村山貯水池(多摩湖)へと送られています。山口貯水池と村山貯水池の間にも導水管があり、水が融通できるようになっているそうです。
村山・山口貯水池の水は東村山浄水場(一部はさらに朝霞や境の浄水場)に送られ、東京の水道水となります。

村山貯水池の歴史は100年

多摩川水系の水源用貯水池は、奥多摩にある小河内ダム奥多摩湖)と狭山丘陵の3貯水池の計4か所がありますが、各貯水池の規模は下表のとおりです。(東京都水道局ウェブサイトより引用)

名称 有効貯水容量
(万m³)
型式 堤高
(m)
堤頂長
(m)
完成
年度
所在地
小河内貯水池
奥多摩湖
18,540 重力式コンクリートダム 149 353 昭和32 東京都西多摩郡奥多摩町山梨県北都留郡小菅村丹波山村
山口貯水池
狭山湖
1,953 アースダム 35 691 昭和8 東京都武蔵村山市・瑞穂町、埼玉県所沢市入間市
村山
多摩湖
上貯水池 298 24 318 大正12 東京都東大和市武蔵村山市
下貯水池 1,184 33 587 昭和元 東京都東大和市東村山市

村山・山口貯水池は、小河内ダムよりもだいぶ小規模ながら、およそ100年前という、とても古い時代に造られた、歴史ある貯水池です。丘陵地に堤をつくってできた器に導水管で水を注いでいる貯水池なので、川を堰き止めたダムとは違い上流から大量に流れてくる土砂の堆積に悩まされることもなく、いまだに健全な貯水機能を保っているのだとか。

湖畔は古くから人気のレジャーエリア

村山貯水池の多摩湖、山口貯水池の狭山湖の周囲には、西武球場西武園ゆうえんち狭山スキー場や西武園ゴルフ場などがあり、西武系のレジャー施設が集まる観光スポットとなっています。上水道の水源となっている貯水池ゆえか、遊覧船やボートなどはなく、水辺へのアクセスも困難で湖水に触ることすらできませんが、湖が作り出す美しい景観だけでリゾート地として充分魅力的であり、古くから人気を集めていたようです。この2湖(3貯水池)の近くには西武の路線が多くひしめいており、西所沢から狭山湖畔の西武球場前までの狭山線、東村山から多摩湖に近い西武園までを結ぶ西武園線国分寺から多摩湖畔の多摩湖までを結ぶ多摩湖線、そして多摩湖西武球場前を結ぶ山口線と、狭いエリアながら4つもの路線があります。
やや過剰にも思えるこれらの路線は、もともと2つの私鉄がこぞって一大レジャーエリア、多摩湖狭山湖へのアクセス路線を敷設してしのぎを削っていたところ、やがて併合されて現在は同じ西武鉄道の路線になっているという歴史があるそうです。それだけこのエリアが古くから人気のリゾート地であったことがうかがえます。

西武多摩湖線多摩湖

多摩湖へ向かうために、高田馬場から西武新宿線の急行で20分少々の小平で拝島行の列車に乗り換え、ひとつめの萩山で下車。多摩湖畔の多摩湖駅は、この当時は西武遊園地という駅名で、2021年3月に多摩湖に改称されました。西武遊園地という駅名も1979年に改称されたことにより誕生したものですが、西武遊園地になる前も多摩湖という駅名だったので、2021年に元の名前に戻ったということになります。
萩山は小平方面、国分寺方面、拝島方面、そして西武遊園地多摩湖)方面と、4方向から路線が集まる要衝です。ちょうどホームにやってきた国分寺行の列車は、昔の西武の標準カラーであったピンクとベージュの塗り分け、通称「赤電」塗装を復刻した新101系でした。

萩山から多摩湖線西武遊園地行きの列車に乗ると、萩山駅外れの留置線に停まっている白地に青い線の車両が見えました。これは静岡県の三島と修善寺を結ぶ伊豆箱根鉄道の車両のカラーで、この車両が伊豆箱根鉄道に譲渡されて活躍していることから、西武に残っている同型車の一部にもこの伊豆箱根カラーが施されました。さきほどの赤電塗装といい、カラーバリエーションがいろいろあるのは、見ていて楽しいものです。

多摩湖線の最後の1駅、武蔵大和から西武遊園地(当時)の間は、木々に囲まれた狭山公園に沿って走り、車窓からも芽吹いたばかりの新緑が楽しめました。

西武遊園地駅(現・多摩湖駅)は都県境にある駅

西武遊園地駅(当時)の北口を出ると、西武園ゆうえんちのゲートに向かう長い登り階段がありますが、その階段の両側には満開の桜が。振り返ると、桜の木の間に西武遊園地駅(当時)のホームが見えました。

駅前の階段を登ると正面に西武園ゆうえんちの入口がありましたが、遊園地に入らず左に折れて信号を渡ると狭山公園の入り口です。西武遊園地駅(当時)は東京都東村山市西武園ゆうえんちは埼玉県所沢市なので、駅前がすぐ東京と埼玉の都県境になっているのです。

狭山公園に入るとほどなく、多摩湖の水面が見えました。駅から5分ほどで湖畔に立てるとは、アクセスも良好です。地図を見てわかるように、現・多摩湖駅(当時の西武遊園地駅)は、北に西武園ゆうえんち、西に多摩湖と狭山公園、東に多摩湖町の住宅街が広がり、レジャーと日常生活、どちらにも利用できる駅です。
なお、多摩湖自体はすべて東京都東大和市に属しているので、この湖畔のあたりに東村山市東大和市の境界もあります。

水を貯めるために造られた堤体がまっすぐ伸びています。

多摩湖といえば、この丸い屋根のレトロな取水塔が有名です。愛らしい姿ながら漂う風格が、実にいい味を出しています。

堤体から湖の反対側を見下ろせば、狭山公園の桜が満開でした。芽吹いたばかりの木々の緑とのコントラストがまた美しいです。

西武多摩湖線の電車が彩を添える狭山公園の風景

西武多摩湖線は狭山公園に沿って走っているので、多摩湖堤体からも走る電車が見えました。ちょうどやって来たのは赤電復刻塗装の車両。この色と、この色の次に西武の標準塗装になった黄色は、沿線の緑によく合うと思います。

次にやってきた電車は白い塗装。この当時、この新101系はこの白が標準的な塗装でしたが、あまり景色に映える色ではない気がします。

ふたたびやって来た赤電。

西武園の観覧車が見えます。幼き頃この観覧車に乗ったときに見た、復刻塗装ではない現役の赤電塗装だった西武多摩湖線の古い車両が、カーブを曲がって西武遊園地駅に近づいてくる光景をワクワクしながら眺めたことを、なぜだか今も鮮明に覚えています。観覧車からではありませんが、今こうして多摩湖線の赤電が西武遊園地駅に向かう光景を見られるとは、感動もひとしおです。

びっしり並ぶ住宅と新緑の丘陵、そこを走る赤電。西武っぽい風景だと思います。

堤体を下り 桜を間近に

西武線が行き来する風景をしばらく眺めたら、堤体をおりて桜の木の下へ。多摩湖は、水面はすべて東大和市ですが、堤体から下の狭山公園は東村山市になるようです。
夕方の光を浴びる桜の花もまた美しいものです。

堤体はゆるやかな斜面になっていて、段ボールなどで斜面を滑ったら面白そうですが、ところどころに付けられた階段以外の部分には入ることはできません。
この斜面のすぐ向こうには湖が満々と水を湛えていると思うと不思議な気がします。

桜の季節にいちだんと美しさを増す多摩湖畔は、都心から1時間ほどで訪れることができる手軽さながら、季節を感じ景色を楽しみのんびりと過ごすことができる、休日のおすすめおでかけスポットです。


2019年4月 

 

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