そこに線路があるかぎり

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イタリアとスイスの国境 アルプスを貫くシンプロントンネルを車に乗りながら列車旅 【イタリア、スイス】(2005年)

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イタリアとスイスの国境に連なるアルプス山脈は、その険しさゆえに交通の難所となっていますが、イタリアとスイスを結ぶ鉄道の幹線は、この山々の下を長いトンネルで抜けて行きます。イタリアのミラノとスイスのベルン方面、あるいはローザンヌジュネーヴ方面へとつながる路線がくぐるのがシンプロントンネルで、ここには自動車に乗ったまま列車に乗ることができる、カートレインが運行されています。2005年7月、この列車に乗ってイタリアからスイスへと往復したときのことをご紹介します。

上越新幹線開通までは世界最長の鉄道トンネル

シンプロントンネルは単線トンネルが2本あり、1本目のトンネルの開業は1906年(貫通は1905年)、2本目の開業は1921年にとのことですから、およそ100年の歴史を持つたいへん古いトンネルです。全長は19.8㎞、世界最長の鉄道トンネルとして知られていましたが、1982年に日本の上越新幹線の大清水トンネル上毛高原ー越後湯沢間)22.2㎞が開通したことにより、世界一の座を大清水トンネルに譲りました。

イタリアの経済の中心地、ミラノから列車に乗っておよそ1時間半程度のところにあるシンプロントンネルを通る線路は、イタリアとスイスの2国を結ぶだけではなく、スイス国内を経てドイツやフランス方面にもつながっています。シンプロントンネルはこれらの国を結ぶ旅客、貨物輸送の国際列車が走る重要な路線にあるのです。

アルプスをくぐる国境越えカートレイン

このシンプロントンネルには、車を鉄道貨車に積んでドライバーとともに輸送する、いわゆるカートレインが走っています。このあたりでアルプスを越える幹線道路はシンプロン峠という峠を越えてイタリアとスイスを結んでいますが、このシンプロン峠の道路は、昔よりだいぶ改良されたとはいえ、カーブと勾配の多い峠道なのだそうです。高速道路なども走っていませんので、このルートを車で走るのはそれなりに時間もかかり、できれば敬遠したいというドライバーがそれなりにいるのか、シンプロントンネルの鉄道線路を活用してのカートレインの需要があるようです。このカートレインは1959年から運転が始まり、1993年にいったん運転終了となったものの、2004年に復活したものだとか。運転区間はシンプロントンネルを挟んだ2駅間、イタリアのイゼッレ Iselle (イゼッレ・ディ・トラスクエーラ)とスイスのブリーグ Brig の間です。

カートレインに乗ってイタリアからスイスへ

ミラノからの高速道路を走っていると、ミラノを代表する国際空港であるマルペンサ空港の近くを通り、リゾート地として人気のマッジョーレ湖の湖畔を過ぎ、いつの間にか周囲を走る車の数も少なくなったかと思うと、一般道に合流し、渓流に沿った谷あいを進むようになりました。ほどなくして山間の小駅、イゼッレに到着します。
旅客用の駅舎から線路を挟んで反対側がカートレインの乗り場になっていて、乗車を待つ車の列ができていました。
ちょうどスイスから来た列車が到着したようで、列車から降りた車も列をなしています。2005年当時、スイスはシェンゲン条約に入っておらず、イタリアとスイスの国境では国境審査が行われていました。到着した列車から降りた人たちは、まさにいまイタリアに入国しようとしているわけで、パスポートチェックなどが行われているようでした。

右の水色の車は警察車両。ここは山の中の小さな駅ではありますが、国境らしい、ちょっとした緊張感があります。

カートレインを牽引するのは2枚窓の赤いスイス鉄道の機関車。

到着した車がはけると、乗車する車が案内されます。出国審査があったのか、ここで料金を払ったのかは覚えていませんが、スムーズに進んだような記憶はあります。
前の車に続いて駅構内を進んでいくと列車の後部にランプウェイがあり、そこから貨車に乗りこみました。貨車の中はそのまま車で走れるようになっており、前の車が停車しているすぐ後ろまで進んだら車を停め、エンジンを切ります。

貨車の中から見たイゼッレ駅。旅客用の駅舎のすぐ前には切り立った岩が。

旅客駅舎と反対側はカートレインのアプローチ道路が見えます。ここを向こうから手前に向かって走り、ぐるりとまわって貨車に乗りこんできました。機関車の次位には旅客車両が1両だけつながれていて、もしかするとこの列車に乗車中はその車両で過ごしてもいいのかもしれませんが、まわりの乗客たちを見るとみな車に乗ったままですし、先頭まで少し距離があるので、私も車の運転席に戻ることにしました。

やがて列車が発車し、ゆっくりとポイントを通って本線に入って行きます。駅を出るとすぐにトンネルで、エンジンを切って車のライトもない暗闇の中を進んで行きます。トンネルを走る列車の轟音と、車のサスペンションを通した列車の揺れが独特の乗り心地で、これはなかなか面白い経験です。
およそ20分ほどかけて19.8㎞のトンネルを抜けるとそこはもうスイスのブリーグ駅の構内で、スイス鉄道の車両が沢山停まっていました。

たくさんの側線を分けながら、列車はいちばん端の線路へ向かいます。ブリーグはスイス鉄道の要衝のひとつで、大きな駅です。

カートレインの乗降場はイゼッレと同じく、旅客用の駅舎とは線路を挟んだ反対側にありました。

前の車から順番に列車を降りると、スイスのドライブが始まります。

迫力の岩壁の麓のロイカーバートで温泉入浴

ブリーグから向かうのは45㎞ほど先にある温泉地、ロイカーバート。

ジュネーブ方面に続く幹線道路から山のほうに折れると、スイス鉄道ロイク Leuk駅を見下ろせる場所がありました。

ちょうど列車がやって来ました。ブリーグ方面に向かう列車です。どうもこのあたりは線路の付け替えが行われたばかりのようで、線路も橋も駅も真新しいものでした。おそらく機関車の近くにあるグレーの屋根の建物が昔の駅舎で、線路は以前はその向こう側を通っていたのではないかと思われます。

ロイク駅に停車中の列車。左に見える紫っぽい屋根の建物が駅の貨物倉庫で、その手前側が昔の線路なのではないかと思います。

ブリーグへ向けて列車が走り去りました。

イカーバートは迫力ある岩壁の麓にありました。ここはローマ時代から続くという長い歴史を持つ温泉リゾートです。

スイスの温泉は水着着用。眼前に迫る岩壁の迫力を感じながら露天風呂入浴ができます。

温泉をゆっくり楽しんだら、再びブリーグからカートレインに乗ってイタリアに戻りたいと思います。
ブリーグ駅手前で、山肌に貼りつくように走る列車が見えました。この線路はブリーグから分岐するレッチベルク鉄道という私鉄路線で、この先レッチベルク峠を越え、リゾート地として有名なインターラーケンの入り口であるシュピーツやスイスの首都ベルンへとつながるスイスの幹線鉄道のひとつで、スイス鉄道とも直通運転をしています。この当時はこの写真の線路が幹線路線として機能していましたが、2007年に新しくレッチベルク基底トンネルが開業しそちらがメインルートとなりました。しかし新トンネル開業後も、その補完としてこの旧ルートも使われているそうです。

長い編成の列車が勾配を登って行きます。

山肌を落ちる滝を、橋で越えるところもありました。その麓には、よく手入れされた芝が美しい小さな家。こんなところに住んでみたいものです。

再びシンプロントンネルをくぐりイタリアへ

ブリーグ駅に停車するカートレイン。機関車の次位に客車がつながっているので普通の列車のように見えますが、客車の後ろには屋根のないランプウェイ車両、その後ろに屋根のある車両積載貨車が連なります。

ブリーグ駅に掲示されていた時刻表と運賃表。ドイツ語とイタリア語でしか書かれていないあたりが、このカートレインが主に地元客向けのサービスであることをうかがわせます。時刻表は、発時刻と到着時刻ではなく、それぞれの駅の発時刻だけのようです。運転頻度は1~2時間に1本といったところ。

帰りの便では、なんと先頭に乗ることができました。目の前はランプウェイ車両なので見通しが利きますが、走行区間のほとんどはトンネルなのが残念。なお、車の乗降時はこのランプウェイ車両の横の仕切りが開き、ホームに直接走って降りることができるようになります。どちら方向に走る列車でも、列車の後ろから乗って前から降りるという仕組みになっていました。

ブリーグを出発。

シンプロントンネルに入ります。トンネルポータルには貫通した年の年号、1905が。

行きと同じく、暗闇の中で独特の乗り心地を楽しむこと20分、薄暗くなったイゼッレに到着。

アルプスを貫く歴史ある長大トンネルを、車に乗りながら列車に乗るという珍しい乗り方で通過するのは、とても面白い体験でした。スイスにはこのほかにも何カ所かで山岳トンネルのカートレインが運転されているので、またいつか、それらにも乗って旅をしてみたいものです。

 

2005年7月