JR四国のアンパンマン列車の1つ、ゆうゆうアンパンマンカーは、アンパンマンのキャラクターたちが一面に描かれた車内にプレイルームを備え、特急列車の車内なのに思い切りはしゃいで遊ぶことができるという、元気いっぱいの小さな子供にとっては最高に楽しい列車です。
アンパンマンに2021年11月、このゆうゆうアンパンマンカーに乗って徳島県の阿波池田から徳島まで列車の旅を楽しみました。
ゆうゆうアンパンマンカーについて
アンパンマン列車ファミリーの中で唯一、「プレイルーム」があるのがゆうゆうアンパンマンカーの最大の特徴です。1両の車両の半分が座席がある指定席区画、もう半分がプレイルームになっています。
週末を中心とした特定日に定期特急列車に連結される
ゆうゆうアンパンマンカーは週末や子供の長期休み期間を中心とした特定日に、定期列車であるうずしお号と剣山(つるぎさん)号の一部列車に連結されます。ゆうゆうアンパンマンカーが営業するのは、下記3本の列車です。
特急うずしお9号 高松 10:10 ⇒ 徳島11:25
特急剣山5号 徳島 12:00 ⇒ 阿波池田13:17
特急剣山8号 阿波池田 14:30 ⇒ 徳島15:44
このほか、車庫のある高松に戻るために特急うずしお32号 徳島 22:02 ⇒ 高松23:20 にも車両自体は連結されていますが、この運転時間帯では子供の利用は想定しづらいためでしょう、ゆうゆうアンパンマンカーの営業はありません。
ゆうゆうアンパンマンカーは中間車両で運転台がないため、前後を運転台付きの先頭車両に挟まれた、3両編成として運転されます。上記の列車は定期列車なので列車自体は毎日運転されており、ゆうゆうアンパンマンカーが連結されない日は基本的に2両編成での運転になりますが、間にゆうゆうアンパンマンカーを挟むことを想定してか、2両編成にもかかわらず1号車と3号車という号車番号が振られているのが面白いところです。
利用にはゆうゆうアンパンマンカーの指定席券が必要
ゆうゆうアンパンマンカーの利用には、ゆうゆうアンパンマンカーの指定席券が必要です。通常車両である、前後の1号車と3号車の自由席利用の場合や、1号車の一部にある指定席利用の場合では、ゆうゆうアンパンマンカーの利用はできません。必ず、ゆうゆうアンパンマンカー(2号車)の指定席券をとってください。指定席券売機やネット予約では、列車選択画面で「剣山8号」「剣山8号(アンパンマン)」のような形で通常の指定席とゆうゆうアンパンマンカーの指定席が別列車のように表示されたので、アンパンマンと書いてあるほうを選択してください。アンパンマンと書いていないほうを選ぶと普通の指定席になってしまい、ゆうゆうアンパンマンカーを利用することはできません。
ゆうゆうアンパンマンカー指定席券は通常の特急列車指定席料金
ゆうゆうアンパンマンカーの指定席は普通車指定席の扱いなので、通常の特急列車指定席料金が適用されます。全国のみどりの窓口等、通常の特急列車の指定席券を買うことができる場所ならどこでも購入できます。
主な区間の大人の料金、運賃は下記の通りです。
高松~徳島 片道 指定席特急券1730円+乗車券1470円 計3200円
徳島~阿波池田 片道 指定席特急券 1730円+乗車券1660円 計3390円
(子供はそれぞれ半額)
通常の指定席と同様、どの停車駅間での利用もできるので、旅程にあわせて利用区間を選ぶことができます。
ゆうゆうアンパンマンカー指定席は1列車わずか20席
ゆうゆうアンパンマンカーの指定席は1列車に20席しかありません。1車両の半分にしか座席がないので、必然的に座席数も少なくなっています。満席になってしまう列車もあるので、乗車することが決まったら早めに指定席券を購入することをお勧めします。
なお、空席状況はJR四国のウェブサイトで確認することができますが、完全にリアルタイムの情報ではないことに注意が必要です。また、始発から終点まで乗りとおす場合の空席情報のようなので、もしかするとここが満席の表示になっていても、一部区間だけの利用ならば空席がある可能性もあります。
空席状況|ゆうゆうアンパンマンカー YuYu Anpanman car:JR四国 (jr-shikoku.co.jp)
グリーン車の座席に普通車指定席料金で乗れる 実は乗りドク車両
ゆうゆうアンパンマンカーの車両は、もともと1つの車両の半分がグリーン車、半分が普通車というつくりの特急用車両でした。その普通車だった区画の座席を取り払ってプレイルームが造られ、グリーン車だった区画を普通車指定席として使っています。座席シートはアンパンマンが描かれたモケットに張り替えられていますが、シート自体はグリーン車時代のままなので、ゆうゆうアンパンマンカーは普通車指定席料金でグリーン車のシートに座れる、乗りドク列車なのです。
ゆうゆうアンパンマンカーのプレイルームは小さな子供も楽しめる?
床に線路が描かれていて、穴の開いた壁をトンネルのようにくぐったり、大きなブロックを積んで遊んだりできるゆうゆうアンパンマンカーのプレイルームは、小さな子供から楽しむことができると思います。
ただ、これは完全な運になってしまいますが、そのときに一緒に遊んでいるおともだちが元気いっぱいの少し大きな子供だったりすると、たとえ保護者がついていたとしても、ヨチヨチ歩きの小さな子供を遊ばせるのには少々心配な状況もあるかもしれません。そうした場合には、プレイルームの様子を見ながらタイミングを計って遊ばせたり、先に遊んでいた子供が疲れて座席に戻る可能性がある、列車の終点が近づいた頃に遊ばせるなど、臨機応変に対応するしかありません。
特急剣山8号 ゆうゆうアンパンマンカーに乗る
徳島線を走る特急剣山
徳島市の佐古と三好市の佃の間67.5㎞を結ぶJR四国徳島線は、徳島県内を東西に結ぶ路線です。日本3大暴れ川のひとつ、四国三郎と呼ばれる吉野川に沿って走り、また、沿線が藍の産地として有名で、「よしの川ブルーライン」という愛称がつけられています。佐古を通る列車は徳島までの1駅を高徳線、佃を通る列車は阿波池田までの1駅を土讃線に乗り入れていて、路線としての起終点である佐古と佃を始発、終着とする列車は1本もありません。
徳島~阿波池田には特急剣山(つるぎさん)が1日6往復運転されており、徳島線が徳島県内の都市間輸送を担う重要な役割を果たしていることがうかがえます。名前の由来となった剣山は西日本で2番目の高さを誇る標高1955mの山で、徳島線の貞光駅や穴吹駅、阿波池田駅などからタクシーやバスで登山口にアクセスすることができます。
また、徳島線には吉野川に沿った風光明媚な車窓が楽しめるトロッコ列車「藍よしのがわトロッコ」も春から秋の週末を中心に運転されており、観光路線としての顔もあります。
阿波池田から特急剣山8号に乗車
特急剣山8号の始発駅、阿波池田は香川県や愛媛県の県境にも近い、徳島県西部に位置する町で、甲子園の強豪校として知られる池田高校があることでも知られています。
鉄道路線としても、香川と高知を結ぶ土讃線と徳島線が交わる要衝です。
剣山8号は3両編成。2両目の黄色い車両が「ゆうゆうアンパンマンカー」です。
中央部に大きく描かれたアンパンマンの顔がありますが、そこから向こう側が座席の区画、手前側がプレイルームの区画になっています。
なお、ゆうゆうアンパンマンカーの歴史は意外と古く、登場したのは2002年10月のこと。2007年10月に1度目のリニューアル、2017年10月に2度目のリニューアルが行われています。現在の黄色い外観になるまえは、青い外観でした。(2016年に撮影)
剣山8号は阿波池田の3番線から発車します。向かいのホームには岡山発高知行きの特急南風(なんぷう)11号が到着。南風11号から剣山8号への乗り継ぎも便利です。
ゆうゆうアンパンマンカーが連結される列車は、ヘッドマークもアンパンマン仕様のもの。
揺れる列車内でも安心のプレイルーム
乗車するやいなや、子供はプレイルームに一目散。その点はどの子供も同じようで、プレイルームには発車前からすでに遊んでいる子供がいました。
プレイルームは、土足で歩くことができる通路と、靴を脱いで遊ぶプレイスペースが壁で仕切られています。プレイスペースの壁や床、置かれている大きなブロックは柔らかいクッション素材で、ぶつかったり転んだりしても安全なつくりになっています。
プレイルームには見守りの係の方も常駐していらっしゃいますが、必ず保護者同伴で利用しなければならないルールになっています。
仕切り扉からの通路は片側の窓側に寄せられ、プレイスペースの幅が広くとられています。大きなアンパンマンの顔がある柱がプレイスペースの入り口で、くつを脱いでここにある靴箱に入れます。
小さなおこさまの親御さんは靴を脱いでプレイスペースで、一人で遊んでも問題ないくらいのおこさまの親御さんは靴をはいたまま通路から仕切り壁に肘をついて、という感じで見守っていました。
ここは、BGMでアンパンマンの音楽が流れています。
プレイルームから座席区画を見るとこんな感じです。
ゆったりしたグリーン車用シートが並ぶ座席区画
座席はアンパンマン柄に張り替えられてはいるものの、もともとグリーン車として使われていたときの座席がそのまま使われているので、前の座席との間隔も広く、リクライニングも深めです。せっかくの快適シートですが、子供がプレイルームで過ごす時間が長ければ長いほど、このシートの座り心地を楽しむ時間は少なくなるのが残念なところ。
日除けのカーテンにもキャラクターが。
前の座席の背もたれに設置された折り畳み式のテーブルを降ろすと、そこにもキャラクターがいました。
座席区画の車端部には、ちいさな売店とスタンプコーナー、ベビーカー置き場があります。
スタンプ台よこの壁には、アンパンマンの作者、やなせたかしさん直筆のイラストが。
イラストを保護するアクリル板の反射でイラストが見えにくかったので、比較的映り込みが少なかった2016年に撮影した写真も載せておきます。
天井にはゆうゆうアンパンマンカーが連結される「うずしお」~「剣山」の停車駅名がひらがなで書かれています。
デッキにはベビールームもありました。
ゆうゆうアンパンマンカーに入る仕切り扉には注意事項が書かれています。
・アンパンマンプレイルームは2号車(ゆうゆうアンパンマンカー)の指定券を持っている人専用
・ゆうゆうアンパンマンルーム内では飲食禁止。特に遊び場への飲食物持ち込みは注意
・ゆうゆうアンパンマンルームは保護者同伴で利用すること
・万一の事故の際はJRとしては責任を負いかねる
など。
「ゆうゆうアンパンマンルーム」というのが「アンパンマンプレイルーム」のことで、「遊び場」は靴を脱いで上がるプレイスペースのことなのだと思いますが、表現がややわかりにくいです。
1号車と3号車は普通の特急列車の車内設備になっています。1号車の座席の枕カバーが青い席は指定席ですが、この指定席に座っている人はゆうゆうアンパンマンカーを利用することはできません。ゆうゆうアンパンマンカーに乗りたいときには必ず、2号車ゆうゆうアンパンマンカーの指定席を予約しましょう。
吉野川に沿って走る
徳島線はところどころで吉野川の流れを見ることができますが、そんなことはゆうゆうアンパンマンカーの乗客にとってはどうでもいいことです。
貞光駅のあるつるぎ町には巨樹が多いそうで、ホームに「巨樹王国」と書かれた標柱が。でもそんなことはゆうゆうアンパンマンカーの乗客には関係のないことです。
吉野川の流れを見て走り、木造の駅舎が残る駅を過ぎ、剣山8号は徳島目指して走って行きます。
「うだつ」が残る古い建物が駅前に
徳島線の主要駅、穴吹では、ここ始発の普通列車徳島行きに接続します。
ホームから見える駅前の2軒の木造の建物に目を凝らしてみると、1階部分の屋根の両端に小さな壁のようなものがしつらえられているのが見えます。
この屋根の上の白い小さな壁が「うだつ」で、隣家との境につくり、万一の火事の際の延焼防止のための防火壁の役割をするものです。築造するには費用がかかったことから富の象徴とされ、「うだつが上がらない」という慣用句が生まれることとなりました。
この穴吹駅から吉野川を対岸に渡ったところにある美馬市脇町にはうだつがある家が多く残っていて、「うだつの町並み」として観光スポットになっています。
町なかを高架線で走り終点徳島へ
穴吹からも引き続き吉野川の流れや味のあるローカル駅を見て走ります。
だんだんと山並みが遠くなり、開けた景色になってきました。
阿波池田を出発して1時間少々が過ぎ、さすがに遊び疲れた子供たちが1人、また1人と座席区画へ戻って行き、プレイルームに静寂が訪れました。終点の徳島にはあと5分ほどで到着です。
線路は高架線に上がり佐古で高松から来る高徳線の線路と並び、車窓にマンションなどが多くなるとすぐに終点の徳島です。
徳島駅では、他のホームとは少し位置がずれた場所にある1番線に到着。
乗客を降ろした剣山8号は、回送列車となりホームを出て行きました。
改札口へ向かう通路にはフォトスポットが。
徳島駅には車庫が併設されていて、駅を出て少し歩いた跨線橋や踏切からも、車庫に並ぶ様々な車両を見ることができます。
普段は「静かにしなさい」「騒いじゃダメ」と言われている列車の車内で、思いっきり遊ぶことができるゆうゆうアンパンマンカーは、子供にとっても非常に魅力的な車両だと思います。乗車中に退屈してぐずるということもなく、親にとってもありがたい存在であると同時に、降りる駅までずっと立ったまま子供を見守ることになって、ゆっくり座席でくつろいだり、景色を楽しんだりする余裕が全くなくなるというリスクもあり、諸刃の剣とも言えるかもしれません。それでもやはり、他の列車では味わえない、特急列車の中で思い切り遊ぶという経験は、子供にとっても思い出深いものになるでしょう。片道をトロッコ列車に乗って片道をゆうゆうアンパンマンカーに乗ったり、他のアンパンマン列車や観光列車と組み合わせても良いでしょう。旅のバリエーションを広げ子供の笑顔をつくるゆうゆうアンパンマンカー、子供と一緒に徳島を訪れるときにはぜひ乗ってみて頂きたい、素敵な列車です。
2021年11月