そこに線路があるかぎり

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【東京都】パナマ運河と同じ仕組みの船のエレベーター体験も 小さな運河から大河隅田川まで変化に富んだ景色が楽しい お座敷船でゆく東京下町の水路クルーズ 〔スカイツリー~日本橋〕(2022年)

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東京の下町には多くの運河があります。物資輸送のため、また防災のため、古くから有効に活用されてきたこれらの運河は、一部埋め立てられたり暗渠になっているところもありますが、まだまだ水を湛え、都市の景観に潤いを与えてくれています。そんな下町の水路を辿る船旅が楽しめる観光航路はいくつかありますが、2022年9月、スカイツリーから日本橋へ行く船に乗ってみました。東京の名所同士をつなぐこの航路は、細い運河と大河隅田川を経由し景色がバリエーションに富んでいるだけでなく、水位の違う水面を繋ぐ、船のエレベーターともいうべき「閘門(こうもん)」を通過するという、珍しい体験をすることができるのもポイントです。この下町水路の船旅の様子をご紹介します。

東京の水路の船旅が楽しめる「がれおん」 予約はネットで簡単に

今回利用したのは「下町探検クルーズがれおん」の「スカイツリー日本橋を結ぶ片道便」です。がれおんでは、このコース以外にも東京の下町をめぐるいくつかの航路があるようですが、それぞれ運航日が決まっているので、うまくスケジュールをあわせて乗船しましょう。Webサイトによれば、2022年10月現在、運航コースは以下のものがあるそうです。

1.スカイツリー日本橋を結ぶ片道便 所要1時間30分(片道)
  日本橋スカイツリー 
  または スカイツリー日本橋 

2.神田川周遊クルーズ 所要1時間20分
  日本橋日本橋 

3.下町ぐるっと一周舟遊び 所要2時間15分
  スカイツリースカイツリー 

4.パナマ運河体験クルーズ 所要1時間20分
  日本橋日本橋 
  または スカイツリースカイツリー 

5.隅田川ナイトクルーズ 所要1時間10分 
  スカイツリー(ミズマチ)⇒日本橋  

6.東京港大パノラマクルーズ 所要1時間20分
  豊洲豊洲 

このうち、水位が上下する船のエレベーターを体験することができるのが1.、3.、4.のコース(1.、4.が「扇橋閘門」、3.が「荒川ロックゲート」)です。
上記航路以外にも春のお花見航路や、貸切運航なども行っているそうです。

運航コース | ガレオンで東京のクルーズを満喫 (galleon.jp)

予約はインターネットで簡単に行うことができます。ウェブサイトの予約ページにカレンダーと運航ルート、空席状況が表示されるので、希望の日、コースに空きがあればそこをクリックして申し込みます。予約の確定は受付確認メールを受信してからになりますが、空席確認や申し込みはいつでもできるのが便利です。また、受付時間は限られますが、電話での申し込みも可とのこと。

運航スケジュール | ガレオンで東京のクルーズを満喫 (galleon.jp)

スカイツリーの足元 おしなり公園船着き場から乗船

私たちが予約したスカイツリーから日本橋へ便は、スカイツリーを14:00に出航します。乗船予約受付メールには出航10分前までに乗船場所に来るようにと書かれていたので、スカイツリー下の商業施設、東京ソラマチのフードコートでお昼ごはんを食べて時間が来るのを待ちました。これから乗る船にはトイレがないので、今のうちにトイレに行っておくことも大切です。
時間が近づいてきたので船着き場に向かいましたが、なかなか思うように出たい方向の出口が見つからず少し迷いました。外に出たいのに出口がみつからないというのは、大型商業施設あるあるです。

ソラマチひろばから外に出て道路を渡ると、そこに北十間川があります。頭上にそびえる大迫力のスカイツリーを見上げつつ、「クルーズ」の案内看板がある「おしなり橋」から川を見るとすぐ目の前が船着き場で、すでに船は停まっていました。この時点で出航の15分ほど前で、乗船もすでに始まっているようでした。

おしなりというのは、この橋が結ぶ両岸の地名、押上と業平(なりひら)に由来します。東武鉄道とうきょうスカイツリー駅も、以前は業平橋という駅名でした。

船場所はスカイツリーのすぐ足元のところですが、スカイツリーの背が高すぎて、て船と一緒に写真を撮ろうとしても画面にぜんぜん入りません。スカイツリーの大きさを実感します。

乗船料はPayPayでも支払い可 船は定員12名の小型お座敷船

乗船料は乗船時に支払います。現金かPayPayが使えます。
船は、舳先側3分の1程度が屋外デッキ、後ろ3分の2程度が屋根付きのお座敷仕様になっていました。デッキにはクッションや座布団が置かれ、半分程度にテント屋根がかかっています。(写真は下船時に撮影)

屋内には座布団と箱形の椅子があります。エアコンや扇子など、自動、手動の空調設備も完備されていました。左に見えるハンドルのついた黒い箱が操船台で、その後ろの看板がある席に船長が座り操船します。(写真は下船時に撮影)

船の上から見た北十間川。両岸に遊歩道が整備されています。

14時に離岸。いよいよ水路クルーズが始まりました。

ここから北十間川を東に600m少々進み、横十間川を南に折れて亀戸方向に向かいます。

工場や住宅が建ち並ぶ町並みを眺めながら、北十間川を東へ。

逆さスカイツリーの撮影名所 十間橋から横十間川に入る

北十間川横十間川がぶつかるところにある十間橋は、北十間川の流れの正面にスカイツリーがそびえたち、風がなく波がないときには、水面にきれいに映った逆さスカイツリーの写真を撮ることができるスポットとして有名です。
今回の航路はスカイツリーが出発点なので、どうしてもスカイツリーを背に走ることになってしまい、この船の構造上、後ろの景色が見にくいのが残念ですが、十間橋をくぐったところで船長は船をくるりとターンさせ、今来た水路を少し引き返してスカイツリーが前方に見えるようにしてくれました。この時は残念ながら水面が波立っていて、逆さスカイツリーがきれいに映ることはありませんでしたが、それでも水路の真正面にスカイツリーがそびえる景色は見事なものです。

しばらくスカイツリーを眺めたら、船はバックして横十間川との曲がり角へ。この橋の下に続いているのがこれから進む横十間川です。

この先も北十間川をまっすぐ進むと、1.6㎞ほどで旧中川にぶつかります。

曲がり角には川の名を記した案内が。

横十間川は南北に流れる川で、北を上にした地図では縦方向に流れているので、「横」の名がつくのには違和感がありますが、おそらく江戸城から見て左右方向、つまり横方向に流れているから、ということで横十間川になったのではないかと思います。十間川の名は、川幅が10間であることに由来しているそうです。
これらの川は江戸の舟運のためのみならず、町の区画の間に距離を空けることで、大火の際の延焼を防ぐという役割もあったそうです。

錦糸橋をくぐると次はJR総武線の鉄橋です。

総武緩行線総武快速線それぞれ複線で計4本の線路があり、列車の運行頻度もそれなりに高いはずなのでずっとカメラをスタンバイしていましたが、残念ながらタイミングよく列車は姿を現さず、橋を渡る列車の写真を撮ることはできませんでした。

岸辺にはサギの姿もよく見かけます。川に餌になる小魚などが多いのでしょう。

横十間川を2.5㎞ほど走ると、小名木川クローバー橋の下で右に曲がり、小名木川を西に向かいます。

かつては「塩の道」だった小名木川

小名木川荒川放水路に近い旧中川と隅田川を結ぶ、東西方向に走る運河です。江戸時代、現在の千葉県市川市の行徳に塩田があり、そこで作られた塩を東京湾を通って船で江戸に運んでいたのですが、東京湾岸は浅瀬が多く座礁しやすいため沖合を通らねばならず、しかし沖合を通れば遠回りになるうえ波が高く転覆の危険があり、という状況でした。この状況下、船を安全に航行させ、塩を江戸に安定して届けるために造られたのが小名木川です。小名木川の東端は旧中川ですが、その横の荒川放水路を超えたところから江戸川を結ぶ新川(船堀川)もあわせて整備され、行徳から江戸までの安全な「塩の道」がつくられたというわけです。その後、塩だけでなく近郊の農村でとれる野菜や旅客などの輸送が始まり、やがて利根川を経由し東北地方でとれた米なども運ばれるようになるなど、小名木川は江戸の舟運の重要な大動脈として活躍したそうです。なお、荒川放水路は昭和に入ってから造られたので、江戸時代は小名木川と新川は中川を介して連絡していました。

横十間川小名木川の交わるところにある小名木川クローバー橋(きょう)は各岸から伸びる橋が十字に交わる形をしています。

小名木川の東方向を見たところ。背の高いトラス橋はJRの貨物線のもの。小岩から越中島貨物駅を結ぶこの貨物線は、越中島貨物駅にあるJR東日本のレールの保管や加工を行うレールセンターから発送されるレールを運ぶ貨物列車がときどき運転されています。

小名木川の西向きの眺め。これからこちらに進んで行きます。

クローバー橋から小名木川に入って600mほど行くと、小松橋のトラスの向こうに、本日の航路のメインイベント、扇橋閘門のガラス張りのオペレーション室が見えてきました。

扇橋閘門はパナマ運河と同じ仕組みの船のエレベーター 

土地が海水面より低く、いわれる「ゼロメートル地帯」と呼ばれるエリアを流れる川(運河)は、満潮時の大雨などによる洪水の危険を常にはらんでいるため、安全確保のため水門で区切って潮の干満の影響を受けないようにし、さらにその区切られたエリア内の川の水を強制的に排水することで、水位を干潮時の海水面(中央区霊岸島で観測される最干潮時の水面高さ=A.P.)よりも1m低く保ち、川の水があふれてしまうリスクを小さくしています。
しかしながら、水門で仕切り周囲と水位が違ってしまった川は周囲の川との船の行き来ができなくなってしまうため、船がこの段差を上り下りできるように、船のエレベーターとでもいうべき「閘門(こうもん)」が2か所設けられました。それが東に位置する荒川ロックゲートと、西に位置する扇橋閘門です。これらの閘門で区切られた範囲にある、旧中川、北十間川(一部)、小名木川(一部)、横十間川が水位低下整備河川となっており、水位がA.P. -1.0m になっています。
つまり、スカイツリーを出発していままでは水位の低い川を走っていて、扇橋閘門で一段高い水位に昇って、これからは潮の干満がある自然の水位である「感潮河川」に入って行くわけです。

ちょうど向こうからやってくる船がいたようで、水門が開くと流れ落ちる水のカーテンンごしに船の姿が見えました。

入っていた船が出て行くと信号が青になり、こちらの船も水門の中へ。上がっている門扉からはまだ水が滴っているので、舳先の屋根のない部分に乗っている人は船に備え付けのビニール傘をさして水滴をしのぎます。

上がっている門扉をくぐって水門の中へ。

中に入ると前方にもう1枚の水門が閉じています。この水門の向こう側が今いる水面より高くなっているところです。これから後ろの水門が閉じられ、前後の水門で仕切られた状態になったあと、高い水面側からこの仕切られたエリア(閘室という)内に水が供給され、水位を徐々に高くしていきます。高い水面と同じ高さになったら前方の水門を開けて、いざ高い水面のほうへ出て行くというわけです。

こうした船のエレベーター、閘門というシステムは世界中の運河でも採用されていて、私もウィーンとパリの遊覧船で閘門を通過したことがありますが、やはり何といっても最もネームバリューがある閘門採用運河はパナマ運河であるだろうことは疑う余地もなく、閘門という語が一般に知られていないからか、「こうもん」という音だけを聞くとおそらく大多数の人は違う漢字を想像してしまうからか、とにかくこの扇橋閘門のことを「東京のミニパナマ運河」とか「パナマ運河式水門」とか、パナマ運河にひっかけた呼び方をしているのをよく目にします。

000005861.pdf (tokyo.lg.jp)

船が閘室に入り少しすると、後ろの水門が閉まりました。

やがて水面がモヤモヤしはじめ、下から閘室内に水流が入って来ます。

なお、以前パリの運河クルーズに乗った時通過した閘門は、扇橋閘門よりも小さなものでしたが、水門に開けられた吐水口から豪快に注水され、迫力がありました。

パリの運河クルーズで通過した閘門(2013年)

閘室の壁には目盛りが表示されています。よく水に浸かる部分はだいぶ薄くなってしまっていますが、A.P.-1mだった水位が、水が入り始めて3分ほどでA.P.+1mになり、2mも上昇しました。

船の後方の水門も、閉まった直後と注水完了後で見え方がだいぶ違います。

前方の水門が開きました。その向こうに広がるのは東京湾と同じ水位です。

流れ落ちる水が紗幕のように向こうの世界を幻想的に見せています。この水は、水門についた川の水が滴っているのかと思いましたが、洗浄用に真水を流しているのだそうです。

水門が完全に上がり、青信号になりました。

水門から滴る水滴をビニール傘に受けながら閘室を出て、小名木川の感潮水位部分に歩みを進めます。

水面が一段高くなった小名木川を西に進む

扇橋閘門を過ぎるとすぐに、大横川との交わる十字路があります。

右を見るとスカイツリーが。

大横川を過ぎてくぐる新高橋は小名木川で最も水面からの距離が低い橋なのだそうです。満潮時にはこの船も通れなくなってしまうため、ここをくぐることができる潮位のときにここを通過するように運航スケジュールが組まれているのだとか。

新高橋から4つ目の橋が高橋。右に行けば森下、左に行けば清澄白河で、この下を都営大江戸線が走っています。

小名木川水門をくぐります。ここは基本的に解放されていて、台風の時など、防災の必要があるときに閉めるのだそうです。

大河 隅田川

小名木川水門の先、萬年橋をくぐると、小名木川隅田川につきあたります。いままで通ってきた運河とは川幅が格段に違います。

大河隅田川に出ると、清洲橋の優美な姿がよく見えました。

振り返っていま通ってきた小名木川を見ます。萬年橋のアーチが美しいです。

東京消防庁の船がなにやら訓練をしていました。船長いわく、いつもここで訓練をされているそうです。市民の安全を守るため訓練をつむ消防の方々に感謝です。

清洲橋をくぐりました。なかなかこの角度から橋を見る機会も少ないですが、組み合わさった鉄骨が織りなす模様がまたいいものです。

穴の開いたデザインがユニークなDaiwaリバーゲートビル。

銀河鉄道999の作者、松本零士さんがデザインした遊覧船が川を上って行きました。

高速道路との2層構造の隅田川大橋。

振り返ると清洲橋スカイツリー

前には永代橋と佃の高層マンション群。いままでたどってきた町の中の細い運河も楽しかったですが、大河隅田川のダイナミックな景観もまた素敵です。隅田川では波で船が揺れるのではと心配していたのですが、気になるほどの揺れはなく、乗り物酔いしやすい我が子も普段通り元気にしていてひと安心。

最終コースの日本橋川 

永代橋の手前で右に折れ、隅田川から日本橋川へ。

ビルの多い都会らしい風景の川です。

やがて頭上に首都高速が。これもまた、東京都心らしい川の風景。

日本橋川から分岐する亀島川の入り口にある水門。このあたりは駅で言うと茅場町駅のあたり。日本橋が終点のこの楽しい船旅もあとすこしで終わりです。

左に東京証券取引所が見えました。

首都高の江戸橋JCT。ここから日本橋を挟んで神田橋までの区間は地下化される計画です。この高架が絡み合うJCTの風景もいずれ変わるのでしょうか。

江戸橋JCTを過ぎると江戸橋があります。昔は都営浅草線江戸橋駅がありましたが、いつの間にか日本橋駅に改称されていました。

いよいよゴールの日本橋が見えてきました。

徐々に高架の撤去工事が始まっているようです。

首都高の地下化が終われば、がらりと風景が変わるのでしょう。

日本橋を下から眺めてから船着き場へ

日本橋の船着き場には他の船が着岸していました。それが離岸するのを待たなければならないのと、扇橋閘門の通過が思いのほかスムーズだったことから時間が余っているとのことで、いったん日本橋をくぐってから船着き場に着岸してくれるとのこと。日本橋を下から見られるなんて、これはうれしいです。

麒麟像や橋の石積みを下から見ながら反対側へ。

再び橋をくぐって船着き場に着岸です。

スカイツリーから90分の船旅が終わりました。

古いものから新しいものまで、東京の町の歴史を随所に感じることができるスカイツリー日本橋の船旅は、時間があっという間に過ぎ、楽しいものでした。お座敷でゆっくりくつろぎながら町並みを見上げ、閘門通過という珍しい体験もでき、東京という町の魅力を再発見できる水路の船旅は、休日の午後の素敵な過ごし方になること間違いありません。

 

2022年9月