そこに線路があるかぎり

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【フランス】地下水路から船のエレベーターを昇り 旋回橋や昇降橋を越えて 変化に富んだ景色が楽しいサンマルタン運河クルーズ 〔パリ/フランス〕(2013年)

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パリの観光船と言えば、何といってもセーヌ川の遊覧船が有名です。エッフェル塔ルーブル美術館自由の女神ノートルダム大聖堂など、パリの有名な観光名所を船に乗ったまま川面から眺めることができるので、セーヌの遊覧船は観光客にとって非常に便利ですが、パリには他にも少々特徴的な旅が楽しめる遊覧船があります。サン・マルタン運河の遊覧船です。
パリの地下に続く水路を抜けると、船のエレベーター「閘門」で高い水面に昇り、旋回橋や昇降橋など、船が通るときだけ開く可動橋が動くのを待って開通した水路を進む、といった、いかにも運河らしいイベントが続くサン・マルタン運河の遊覧船。2013年4月、この船に乗ってみました。

サン・マルタン運河クルーズの魅力

サン・マルタン運河は、ウルク運河、サン・ドニ運河が交わるラ・ヴィレット貯水池とセーヌを結ぶ全長4.55㎞の運河です。ナポレオンによって造られたというこの運河は、1825年開通という古い歴史を持ちます。もともとはパリ市民の飲料水を確保するために造られましたが、やがて舟運にも利用されるようになったそうです。
サン・マルタン運河の最大の特徴は、セーヌとラ・ヴィレットの高低差が25mもあるため、船がそれを克服するために船のエレベーターとでもいえる「閘門(こうもん)」が9カ所も設けられていることです。また、水面が町の地面の高さとほぼ同じところが多く、水面すれすれに橋が架けられているところもあり、船が来ると道路の通行を止めて、橋が旋回したり上昇したりして船の進路を確保する、ということが行われています。そしてパリの街の地下を長いトンネルで抜ける区間もあり、トンネル内の明かり取りの天窓から光が降り注ぐ幻想的な風景を眺めることができます。このように、町の中を貫く運河らしい施設を通過しながら、町の日常の表情を船に乗りながら間近に見ることができるのが、サン・マルタン運河クルーズの魅力と言えます。

サン・マルタン運河の遊覧船は複数の会社により運航されており、オルセー美術館からセーヌを通りサン・マルタンに入ってラ・ヴィレット貯水池までの航路を運航する Paris Canal や、アルセナル港からラ・ヴィレット貯水池までを運行する CANAUXRAMA などの運航会社があります。

パリの船溜まり アルセナル

バスティーユにあるアルセナル港は、セーヌから閘門を一段上がったところにあります。南フランス方面へのTGVなどが発着するパリ・リヨン駅からも歩いて10分ほど。
サン・マルタン運河の遊覧船CANAUXRAMAは、このアルセナル港から出航します。

アルセナル港から閘門をひとつ下れば、すぐセーヌです。

小さなボートがたむろする船溜まり、アルセナル港。

細長い港の北側には、バスティーユ広場に建つ青緑色の7月革命記念柱が見えます。

船溜まりのいちばん北端、バスティーユ寄りのところに目指す遊覧船の乗り場がありました。チケットカウンターでチケットを購入し、乗船開始を待ちます。

 

パリの地下水路を探検

船内は自由席で、2階デッキの最前列が空いていたので、そこに座りました。前方が良く見える特等席です。

アルセナル港からのサン・マルタン運河遊覧船の所要時間は2時間30分。パリ市内だけのコースですが、時間としてはなかなかの長旅です。

出航するとまず、バスティーユ広場の地下へと続くトンネルに入ります。トンネル入口の上のガラス張りの部分はメトロ1号線のバスティーユ駅のホームです。

開口部は大きく見えたトンネル入り口も、メトロの駅の橋梁部分を過ぎると船1隻がやっと通れるくらいの細いトンネルになります。アルセナル港は、南は閘門、北はトンネルに挟まれているので大きな船の出入りはできません。

カマボコ型の天井の地下水路を進みます。

少し進むと天井のアーチのカーブはゆるやかになり、水路の幅も少し広がりました。

地下水路と言っても地上から浅い部分に掘られているようで、天井に開けられた丸い明り取りの窓から陽の光が降り注いでいます。光と陰が作り出す模様が水面に映り、船の前方にはなんとも幻想的な空間が広がっていました。

2階席に座っていると、地下水路の天井は手が届きそうなほどの距離です。歴史を感じるレンガ造りのアーチは、とても味わいがあります。

タイムマシンにでも乗っているかのような不思議な空間。

閘門を通って一段高い水面へ

パリの地下を進むことおよそ10分少々、トンネルを出ていよいよパリのまちなかの運河を…と思いきや、前方には壁。

ここが閘門です。前方の壁は閉じられた水門で、その向こうには一段高い水面が広がっています。船が「閘室」というエレベーター部分に入ると、後方のトンネル出口のすぐ手前にある水門が閉じられます。

閘室に入った船は、石の壁に囲まれたくぼみにすっぽりと入っているようで、およそ船の上とは思えない光景です。

前方の閉じられた水門から勢いよく水が注がれます。船の後ろの水門は閉じられているので、船がとまっている閘室部分の水位があがり、前方の水面と同じ水位になったら水門が開いて前に進むことができます。

さきほどは目線の高さくらいにあった横の壁が眼下に見えるようになり、船が高く上がったことがわかります。前方の水門が開き、先へ進むことができるようになりました。

ですが、その先にもすぐまた水門がありました。さきほどよりは小さな高低差ですが、もう一度昇るようです。大きな高低差を一気に上ろうとすると、高いほうの水を押さえる水門にかかる圧も大きくなり、水門をより頑丈なものにしなければならないからでしょうか、ここでは2連続閘門で2回に分けて高低差を昇るようになっていました。

注水の儀。

閘室と前方の水面が同じ高さになり、いざ前進。

旋回橋が回って水路が開通 橋がなくなり道路は分断

2段式閘門を通過すると、前方に水面すれすれに架けられている橋が見えました。
橋の下は水面までの空間がほとんどなく、とても船が下をくぐれるようなものではありません。

このままでは船が進めない…と思いきや、橋が動き始めました。橋は旋回式の可動橋になっているのでした。

90度回転し、川岸にぴったりと収まった橋。これで船も通ることができます。

橋が消えた道路では、車が船の通過を待っていました。いわば船の踏切のようなものですが、橋が回転し船が通過、再び橋がもとに戻るまでには結構な時間がかかるはずですが、ドライバーたちももう慣れっこなのか、ただおとなしく船の通過を待っています。なお、旋回橋の隣に架けられた歩行者用のアーチ橋は固定式なので、旋回橋が作動中でも歩行者は問題なく向こう岸に渡ることができます。

旋回橋を通過すると、前方にまた次の旋回橋が見えてきました。

運河の河岸は市民の憩いの場。

ふたたび旋回橋と閘門を抜けて

先ほどの旋回橋からすぐのところに、2つ目の旋回橋がありました。その先はまた閘門が見えます。

橋が橋収納スペースに収まると、船は前進。橋があったところでは、まっすぐ橋に続いていたはずの道が、紅白の遮断棒と、なぜか90度向きを変えた橋の欄干で行き止まりになっている珍しい光景が。

旋回橋を通過するとすぐ閘門です。

船の係の人が岸のボラートにロープを掛けます。

注水の儀。

歩行者用の橋の上には、閘門を昇る船を見る見物客がたくさん。

さきほど係の人の胸の高さほどだったボラートも、すっかり見下ろせるように。

ここも2段式の閘門で、前方の水門が開くとその先にもうひとつの水門がありました。

運河横の公園には卓球台が。

閘門を降りてくる対向船と行き違い

2か所目の2段式閘門を通過。

ゆるやかに右へカーブする広い水面が広がっています。地図を見るとこのあたりはパリ東駅に近いエリアのようです。

カーブを曲がると前方にまた閘門が。

振り返ってみると、河岸は水面より低いところにあるようでした。水が溢れやしないかと心配になります。

運河に沿って建つ建物の1階部分はカラフルに塗られています。

乗っていた船はこのあたりで少し停止していて、どうしたのかと思っていると、前方の閘室に向こうからやってきた船の姿が見えました。

さきほどは1階の客席が見えていた対向船も、すっかり1階部分が見えなくなりました。

やがて水門が開き、船が閘室から出てきました。

入れ替わりにこちらの船が閘室に入ります。

いままでの閘門もそうでしたが、注水開始前でも門扉の隙間から常に水が漏れだしています。そして注水。

ここも2段式閘門になっていました。

頭上を走る地下鉄を見て 最後の閘門を昇る

3か所目の閘門を通過すると、前方には頭上を走る地下鉄の姿が。

昔からありそうな高架橋を、地下鉄が走って行きます。その下の運河にはまたトンネルが。

ここはコース最初のトンネルとは違い、道路の下をくぐる短いものでしたが、出口の先に閘門が待ち構えるという構成は、最初にくぐったトンネルと同じです。

ここも2段式閘門でした。結局、通過した4か所の閘門すべてが2段式になっていました。

最後の閘門を過ぎて進入する水面はラ・ヴィレット貯水池。この遊覧船の終点の港があるところです。

ラ・ヴィレットの広い水面を進んでいきます。

振り返ると、先ほど通ってきた閘門がどんどん遠くなって行きます。

前方の水路はまた細くなるうようです。

水辺で憩う人たち。ここまで、運河べりはおろか、高低差のある閘門まで、水際まで誰でも自由に立ち入ることができるようになっていました。岸辺からこんなにすぐに水になっていると、落ちる人も少なくないのではないかと心配になりますが、やはり自己責任の文化なのでしょうか、柵などは一切設置されていませんでした。

昇降橋をくぐりラ・ヴィレット公園へ

前方の幅が狭くなった部分には、水面ぎりぎりに架けられた橋が。また旋回するのかと思いきや、ここは昇降式でした。

橋が上昇し、船がくぐれるようになります。

昇降橋をくぐるとき、橋につながっていた道路の断面が見えます。

少し町の雰囲気が下町の工業地帯のような雰囲気になって来ました。

鉄道用の鉄橋のような橋をくぐります。

運河沿いに高い建物がなくなり、広々とした風景が広がってきました。このあたりはこのラ・ヴィレット貯水池を挟んで両側がラ・ヴィレット公園になっていて、公園内には博物館や映画館、コンサートホールなどがあります。

横を見れば小さな水路が分岐していますが、ここの橋も旋回橋のようです。

土砂運搬船のような船とすれ違い。観光船ではなく商業船とすれ違うのを見て、この運河が観光だけでなく、実用的に使われているのだなということが感じられました。

公園内でひときわ目を引く銀色の球は、ラ・ジェオードというオムニマックスシアターだそうです。

ラ・ヴィレット公園でUターン ラ・ヴィレットの船着き場へ

公園の奥まで来ると船は方向転換し、元来た方向に戻ります。

先ほど通った昇降橋まで戻って来ました。再び橋が上昇するのを待ちます。

先ほど通過した4カ所目の閘門の横が船の終点です。

アーセナル港から2時間30分、サン・マルタン運河を満喫した船旅が終わりました。

陸から閘門を見てみる

せっかく船着き場のすぐそばに閘門があったので、見てみることにしました。

つい先ほどさんざん通った閘門ですが、こうして陸上から見てみると、船が通過するところを見てみたくなります。あいにくすぐには船は来なさそうだったので、地下鉄に乗って帰路につきました。

水辺を楽しんだ一日の締めくくりに、夕食はシーフードレストランへ。

パリの水運を支えた運河が閘門や可動橋などの施設とともに現役であり、トンネル、まちなか、公園と移り変わる町の風景を船に乗って楽しめるサン・マルタン運河の遊覧船の旅は、パリの歴史と生活を感じることができる、とても楽しい旅でした。
閘門通過や可動橋の開通待ちなど、進んでいるよりも待っている時間が長いようにも感じますが、その待ち時間にゆっくりと、河岸の景色や街角を行き交う人たちを眺めることができるのもまたこのクルーズの魅力のひとつかと思います。
パリ観光の半日、このサン・マルタン運河の遊覧船でのんびりと過ごすプランはいかがでしょうか。

 

2013年5月

 

閘門通過の運河クルーズは東京でも楽しむことができます。

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