そこに線路があるかぎり

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【ブルネイ】首都に輝くオールドモスクと都心のサル そして郊外でうなずくロバたち バンダルスリブガワンとセリア(2011年)

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東南アジアの小国、ブルネイダルサラーム国。
ボルネオ島の北岸に位置するこの国は、三重県とほぼ同じくらいの面積で、人口はおよそ40万人、北側の南シナ海に面した海岸線以外、陸地はすべてマレーシアに囲まれていて、さらに東側4分の1程度の国土は、細く海まで伸びるマレーシア領によって分断されていて、とにかくマレーシアの中で肩身が狭そうにしている印象がありますが、石油、天然ガスといった地下資源が豊富で経済は潤っており、国王は世界一の金持ちとも言われています。
公用語はマレー語で、国教はイスラム教、このあたりはマレーシアと同じで、地理的立地からもあたりまえとも思えますが、経済的にはシンガポールとの結び付きも強く、通貨のブルネイドルはシンガポールドルと為替レートが固定されているので、1ブルネイドルが1シンガポールドルとして、それぞれの国でも相互に通用します。ブルネイからシンガポールまでは、飛行機で2時間ほどの距離です。

そんなブルネイを2011年5月に訪れたときのことをご紹介します。

首都 バンダルスリブガワン

そんなブルネイの首都はバンダルスリブガワン。長い名前の首都として、スリランカスリジャヤワルダナプラコッテとともに、小学生の頃、どこにあるのかもわからぬまま、面白がって名前だけを覚えた記憶がありますが、まさか20数年後にそこに訪れることになるとは思ってもみませんでした。

バンダルスリブガワンとはいかにも長いので、地元ではバンダール、BSBなどと略して呼ばれます。BSBという略し方からもわかるように、言葉としては、バンダル・スリ・ブガワンという切り方をします。「バンダル」は港、「スリ」はMr.のような敬称、「ブガワン」は神という意味で、退位した国王がブガワンと呼ばれるのだそうです。

バンダールの町は高層ビルや人込みもなく、都心の目抜き通りも短くて、なんとものんびりとした首都でした。銀行やロイヤルブルネイ航空の本社などが立ち並び、辛うじて都心らしさを醸し出している短い目抜き通りが突き当たったところにブルネイ川があり、幅の広い川の対岸には有名な水上集落があります。この水上集落は世界一の規模と言われており、バンダール最大の見どころです。


川には小さなモーターボートが何艘も走りまわっており、これが水上集落と都心を結ぶ、住民の重要な足となっているボートタクシーなのですが、水面をバシバシ叩きながらすごいスピードで爆走しており、なかなかスリルがありそうです。

都心側の船着き場から出るボートはタクシーのように使われています。

都心に輝くオールドモスク

ボートには後日乗ってみることにして、川に沿って歩いてゆくと巨大なショッピングセンターがあり、その建物と建物の間に、スルターン・オマール・アリ・サイフディーン・モスクが見えました。ここから2-3km離れたところに新しいモスクが建てられたため、こちらは「オールドモスク」と通称されています。水辺に鎮座する白亜のこのモスクは1958年に完成したそうで、もう50年以上も前の建物ですが、古さは全く感じさせず、大理石の壁、金色の屋根が青空に映え、その美しさに目を見はります。新しいモスクが出来てからも現役で使われています。

モスク前の池の水はブルネイ川から引き込まれているようで、海から近いためか、潮が引いて一部が干潟のようになっています。清掃をしているのか漁をしているのか、数人の男たちがこの水に入って何やら作業をしていました。
この池には16世紀の王室の御座船を模した建物があり、モスクとは橋でつながっていますが、この御座船型建造物の役割はイマイチわかりませんが、東屋のようにも見えるので、夕涼みをしたら気持ちがよさそうです。

池に沿ってモスクを回り込んでみると、すぐ脇の湿地帯には水上集落が広がっていて、豪華絢爛なモスクとの対比に貧と富の格差をまざまざと見せつけられる感じがしますが、聞くところによるとブルネイの水上集落の住民は決して貧しい人々というわけではなく、住居は水道や、エアコン、テレビなどの電化製品も完備した近代的な家になっており、政府は無料で用意した陸のアパートへの移住を勧めているものの、頑として引っ越しを拒み、住民は水上に住み続けているのだそうです。

都心の市場でサルを見る

モスクの周りを一周してから目抜き通りに戻り、今度は通りの反対側にある市場に向かってみることにしました。

ブルネイ川につながる水路を渡ると小規模ながらアジア的な露店市場が広がっていて、すでに夕方という時間帯もあってか、並んでいる品物も訪れる買い物客も少ないですが、アジアの市場らしい潮なまぐさい香りに包まれながら乾物やら野菜やらが並ぶ店を見て歩くのは楽しいものです。

それほど広くない市場の中をひとしきり歩いて、市場の裏手の林に出ると、木の幹に何やら動く物が。猫かな?と思いつつよく見てみると、長い尾が・・・。サルでした。
見回してみればサルは他にも何匹かいて、繋がれているわけでもなく、林の中に走りサルものもいるので、恐らく野生なのだと思いますが、仮にもここは一国の首都、その都心の目抜き通りから歩いて5分とかからない場所です。そんなところで野生のサルに出会えるとは驚きです。

歩き始めたのが夕方だったので、気がついてみればすでに日もだいぶ傾いてきました。サルをしばらく眺めて市場を後にし、小さな中国寺院などを見ながら再びショッピングセンターのほうに戻ってみると、先ほど見たオールドモスクがライトアップされ、昼間とは違う美しさを見せていました。

石油をくみ上げる「うなずきロバ」が見られるセリア

ブルネイは石油、天然ガスと言った地下資源に経済のほとんどを依存している国ですが、その牽引役となっているのが「ブルネイシェル」という有名なシェル石油ブルネイ法人の会社で、首都バンダールの空港のボーディングブリッジやターミナル内の広告などでもこの会社の名前を見かけるので、ブルネイに到着した旅行者が最初に認識するブルネイの企業です。

ブルネイ第3の都市セリアは、そのブルネイシェルの企業城下町で、シェルの石油タンク、工場、社宅をはじめ、海外との物資輸送や洋上油田との行き来に使用するヘリポート、また、シェルの社員を主なターゲットにしていると思われる、輸入食材を扱うスーパーマーケットなどもありますが、聞けばブルネイで初めて発見された内陸油田がこのセリアだったそうで、以来、この街はブルネイの石油産業とともに発展してきたというわけです。

ブルネイシェルの施設の他に、この街で良く見かける石油の街を象徴するものがものが「うなずきロバ」です。石油を汲み上げポンプのアームが上下するさまが、ロバがうなずいているように見えるので、「nodding donkey=うなずきロバ」と言われていますが、スーパーの前の街角や住宅の裏手の空き地でロバたちがうなずくのを見ていると、いかにこの街と石油の結びつきが強いかを実感します。

海に近いこの街の外れの海岸線に、石油100億バレル産出記念モニュメントがあり、その周りにうなずきロバたちが数体、せっせと石油を汲み上げているところがありました。

 

入口から通路をどんどん歩いて行くと、アーチを組み合わせたデザインのモニュメントがあります。銘板に1991という数字があるので、1991年に達成したのだと思われますが、100億バレルと言ってもどのくらいの量なのかイメージがわきません。

モニュメントのすぐうしろは海です。海からタコの怪物が上陸してきたみたいにも見えるモニュメント。

モニュメントのまわりの草原には働くロバたちの姿が。

遠めから見ると平原を歩くキリンにも見えてきますが、そういえば平原を歩くキリンの姿を実際に見たことなどないことに気がつきました。

ロバのまわりには柵がしてありますが、結構近くまで立ち寄れます。

 

近くで見るロバは思いのほか小さく、こんな小さな機械でどれほどの石油を汲めるのだろうか、と思いますが、24時間休みなく稼働していればやはりそれなりの量になるのでしょう。

辺りには東京都内の温泉の湯のような香りが漂っていますが、都内の温泉はおおかた古代の化石海水、すなわち石油のなりそこないのようなものですので、同じ匂いがするのも納得です。

ロバは、ガッチャン、ガッチャン、とメカニカルな音を響かせて一心不乱にうなずいているのかと思いきや、機械自体はわりと近代的なようで、ヒュイーン、ヒュイーンと、近頃の電車のような軽やかな音で、どういうシステムになっているのか、首振り速度は一定ではなく、ゆっくりになったかと思うと停止して、少し経つとまた動き出す、というような塩梅でした。あちらこちらでせっせと石油を汲み続けるロバたちを見ていると、確かにこの機械が生き物のように見えてきます。

ブルネイの人いわく、「セリアの街の地中は、スパゲッティだって言われているんだ」とのことでした。要は、無数のパイプが絡み合っている、という意味ですが、確かにこれだけのロバや石油施設が立地しているのを見ると、地面の下は複雑なことになっているだろうな、と思います。

 


2011年5月