カリブ海と大西洋に挟まれた島国 トリニダード・トバゴ
カリブ海と大西洋の境界となる西インド諸島を構成する小アンティル諸島の中でいちばん南に位置し、南米大陸のベネズエラからわずか15㎞ほど沖に位置するトリニダード島と、トリニダード島から北東に34㎞のところに浮かぶトバゴ島の2つの主な島からなる国がトリニダード・トバゴです。面積は5,130㎞2(2018年世銀)で千葉県よりやや大きいくらい、人口は139.5万人(2019年世銀)で埼玉県さいたま市(132万人 2020年度)よりやや多いレベルで、石油や天然ガスの地下資源に恵まれ、エネルギー産業が盛んな国です。
首都はトリニダード島にあるポートオブスペイン。町の名前に port という語が入っているので、ポートオブスペイン港のことを英語で言うと Port of Port Of Spain と、ちょっとややこしい感じになります。
トリニダード・トバゴは毎年2月から3月にかけてのシーズンに実施されるカーニバルが有名で、ブラジル・リオのカーニバル、イタリア・ヴェネツィアのカーニバルとともに、世界3大カーニバルの1つに数えられています。また、20世紀中盤にトリニダード・トバゴで発明されたスチールパンというドラム缶から作られた打楽器は、「20世紀最後にして最大のアコースティック楽器の発明」とも称され、その美しい音色は世界中で愛されています。
アスファルト湖 ピッチレイク
ピッチレイクは、1595年にイングランド人のウォルター・ローリー卿によって発見されました。広さ約0.4㎞2と小さな湖ですが、天然アスファルト湖としては世界最大のもので、最深部の深さは76m、湖に溜まるアスファルトの量は1000万トンとも言われています。ここに湧く良質なアスファルトは工業用に採掘もされていて、輸出されて世界の高速道路や空港の滑走路、橋などの舗装にも使われているそうです。
トリニダード島の近辺ではカリブプレートの下に南米プレートが沈み込んでいますが、それらのプレートと関連する断層がピッチレイクの成立に影響を及ぼしていると考えられています。
ピッチレイクに行く
ピッチレイクは、トリニダード島北部にある首都ポートオブスペインからパリア湾に沿って南下したラ・ブレアという町にあります。ポートオブスペインからの直線距離では50㎞ほどですが、湾に沿って弓なりに陸を辿るので道路での距離はおよそ70-80㎞、車で1時間半ほどの道のりです。公共交通機関があるかどうかは不明ですが、トリニダードトバゴはあいにく治安があまり良いとは言えないため、あったとしても公共交通機関の利用は避けたほうがよさそうです。私は仕事の関係で車をアレンジしてもらいましたが、ポートオブスペインからの日帰りツアーなどもあるようなので、それらの利用が手軽かと思います。
ポートオブスペインから40㎞ほどのところにあるサンフェルナンドはトリニダードトバゴでいちばん人口が多い町です。この先しばらくは高規格の道路が整備されていましたが、やがて道幅が狭まると対面通行となり、カーブを繰り返し、丘を登ったり下りたりしながら、小さな町をたどって進みます。
やがて道路が波打ち、電柱などの構造物が傾いた、時空が歪んだ世界に迷い込んだかのような景色になってきました。ピッチレイクはもうすぐそこです。
仮にもここはこのあたりの幹線道路。ここまで来る間の道も多少舗装が剥がれたり小さな穴が開いていたりするところもありましたが、ここに来てのこの歪みっぷりは明らかに今までの路面状態と異なります。ピッチレイクのアスファルトは湧き続けているということなので、湖に近いこのあたりでは地面の下をアスファルトがニュルニュルと動いているのでしょう。その地中の動きが地表にも影響して、道路もこのような状態になってしまうのではないかと思われます。
自然のままのアスファルトの道をたどって湖へ
駐車場で車から降り、湖のほうへ続く小道を進むと、茂みの向こうに水面が見えてきました。湖というよりは、湿地帯という印象です。
足元を見ると、しわと凹凸のある舗装道路のできそこないのような道です。表面は固まっていますが、その奥のほうにわずかに弾力性があるような、そんな不思議な感触を靴底に感じます。南国の太陽に熱せられた地面が放つ香りは、舗装工事したばかりの道路の匂い。ここは舗装工事などしておらず未舗装の道のはずですが、アスファルト感がいっぱいの、なんとも不思議な、自然のままのアスファルトの道です。
地面から染み出す水は、油を含んでギラギラと輝いて流れています。
ふと前を見ると、水着姿の家族連れが。この油ぎった水が溜まった湖で泳ぐの!?と思いましたが、湖の水は硫黄分を含み、温泉のように肌にいいのだとか。実は地元では人気の水浴びスポットのようです。
せっかくなら私も泳いでみたいと思いましたがあいにく水着は持ってきておらず、せめて水の中をジャバジャバ歩ければよかったのですが、スニーカーに長ズボンを履いてきてしまっていたのでそれも叶わず。よくピッチレイクの写真で、地面を長い棒でほじくって黒いネバネバしたものを持ち上げている光景を見ますが、短パンにサンダルで来ていればもっと湖の中央まで歩き、私も地面をほじくってみることができたかもしれず、服装を失敗しました。
もっとも、そうしたネバネバした足元のところでは、下手なところを歩くと自分がアスファルトの中にズブズブと沈んでしまう事故もあるそうなので、ガイドさんに同行してもらうのが一番いいようです。現地のガイドさんらしき人が駐車場のあたりにいましたし、実際ガイドさんの案内を聞いている欧米人のグループもいました。私はそれほど時間に余裕がなかったのでガイドツアーは頼めなかったのが残念です。
駐車場に戻り、そこにある小さなミュージアムを見学。
アスファルトの対流に乗って、昔沈んだものが何年も経って湖面に浮かび上がってくるそうです。アスファルトには防腐効果があります。
ピッチレイクの湖岸を歩く
ミュージアムを出て、ふたたび湖岸を少し歩くことにします。
注意書きの主の「レイクアスファルト」は、ここでアスファルトを採掘している会社の名前です。
向こう岸にそのレイクアスファルト社の工場と、湖から続くコンベヤが見えました。
少し歩くとピンクや紫の睡蓮が咲くところや、イグサのような小さな竹のような植物が群生するところがありました。小さな湖ながら場所によって違った表情を見ることができ、景色もなかなか変化に富んでいます。
少し高くなった湖岸から湖を見下ろします。
湖に向かってなだらかな斜面が続いています。青空と雲と、木や草の緑、輝く湖面が美しい景色です。
湖面は湿地帯にうっすら水が溜まっているような感じに見え、それほどしっかりと水に満たされた湖という感じではありません。深さ76mというプロフィールは、おそらく水の深さではなく、アスファルトの深さのことなのでしょう。
青い空に白い雲、それを映すピッチレイク。
時間のない中での見学だったのが残念ですが、普通の湿地とは明らかに違う、アスファルト感あふれる不思議な湖の湖岸散歩は、自然の凄さ、面白さを感じさせてくれる、楽しい時間でした。
観光でピッチレイクを訪れる際は、ゆっくり時間をとりガイドさんを頼んで、硫黄分を含む湖水で泳いだり、棒でアスファルトをほじくったり、というピッチレイクらしいアクティビティをしてみることをおすすめします。
2018年8月