日本を代表する古都、京都と奈良の間には、近鉄とJRの2つの鉄道路線が通っています。京都、奈良の各ターミナル間の移動は、近鉄は特急でおよそ35分、JRは快速でおよそ45分という近さで、多くの観光客が京都と奈良の間を行き来していますが、2022年4月、その移動がより一層楽しくなる列車が登場しました。近鉄の観光列車「あをによし」です。
近鉄特急 あをによしについて
「あをによし」は近鉄の観光列車で、2021年に引退した特急車両12200系を改造して誕生した19200系車両により運転されています。「あをによし」という名は19200系の車両の愛称かつ、その車両により運転される特急列車名で、由来は奈良にかかる枕詞から。奈良の都の美しさをイメージし、奈良を象徴する観光特急になって欲しいとの願いから名づけられました。
運転区間は大阪難波~近鉄奈良~京都
2023年5月現在、「あをによし」は、大阪、奈良、京都の3都市を結んでいます。朝、大阪難波から近鉄奈良に向かった「あをによし」は近鉄奈良を経由して京都へ、その後、京都~近鉄奈良を3往復した後、京都から近鉄奈良経由大阪難波行きとして大阪に戻ります。途中停車駅も多く設定されていて、どの停車駅間でも乗車することができます。
各列車の停車駅、運転時刻は下記のとおりです。
運転日は原則として木曜以外の毎日
「あをによし」は原則として毎週木曜日の運転がありません。「あをによし」の車両は4両編成が1本しかないため、検査や整備などのため完全に毎日運転とは出来ないのだと思われます。ただ、木曜日でも祝日や学校の長期休みの期間などに運転される日もありますし、大掛かりな検査を行う場合など長期の運休があることも考えられますので、乗車希望日に運転されているか、念のため運転日をウェブサイトなどで事前に確認しておくと良いかと思います。
乗車には事前に特急券と特別車両券の購入が必要
「あをによし」は全席が指定席で、自由席はありません。事前に特急券と特別車両券を予約、購入して座席を確保しておく必要があります。なお、特急券と特別車両券は常にセットで販売されるので、「あをによしの特急券」と言えば、特急券と特別車両券が合算された料金が提示されます。
近鉄の特急券は、近鉄の主な駅、近畿日本ツーリストなどの旅行会社でも発売していますが、インターネット予約が断然便利です。インターネット予約では座席表を見ながら席を選ぶことができます。
近畿日本鉄道|特急券のインターネット予約・発売について (kintetsu.co.jp)
「あをによし」の乗車料金
「あをによし」に乗車するには、乗車券+特急券+特別車両券が必要です。
2人以上で利用する場合の主な駅間の1人あたりの乗車料金は下記のとおり。
1人で乗車する場合は次項のとおり別途追加料金がかかります。
「あをによし」に1人で乗車場合 特急券の買い方に注意
「あをによし」の座席は、2人掛けの「ツインシート」と4人掛けの「サロンシート」の2種類です。基本的にグループ利用が想定されているのか、1人用の席が用意されていないというのが特徴です。
ツインシート(72席):通路の片側は2席が向かい合わせになる形で、もう片側は窓側を向いて2席が90度の角度でペアになるように配置されています。
サロンシート(12席):通路とパーテーションで区切られたセミコンパートメント式の区画に、4つのソファが並んでいます。
ツインシートは2人での利用を前提としており、1人で乗車した乗客が、また別に1人で乗車した乗客と、1つのツインシートで相席になることはありません。つまり、1人で乗車してもツインシート1組分、すなわち座席2席を1人で使用することになるため、自分の分の特急券(特別車両券含む)のほか、子供1人分の特急券(特別車両券含む)を購入すればツインシートを1人で利用できるという、「あをによし」専用特別ルールがあります。
また、サロンシートは4人用の1区画を3人以上で利用する場合に発売され、3人なら3人分、4人なら4人分の特急券(特別車両券含む)を購入すれば利用できます。ただし、サロンシートは数が非常に少なく、1つの列車に3区画(4人席x3区画=12席)しかないため、満席になっていることも多いです。3人または4人で利用の場合で、サロンシートが満席だったら、ツインシートを2区画予約しましょう。
「あをによし」乗車人数と座席の選択肢
※この項で言う「特急券」は「特別車両券」も含んだものとします。
1人で乗車する場合:
ツインシート 1人分の特急券+子供1人分の特急券
2人で乗車する場合:
ツインシート 2人分の特急券
3人で乗車する場合:
サロンシート1区画 または ツインシート2区画
サロンシート利用の場合は3人分の特急券
ツインシート利用の場合は3人分の特急券+1人分の子供特急券
4人で乗車する場合:
サロンシート1区画 または ツインシート2区画
どちらを利用の場合も、4人分の特急券
「あをによし」の外観
標準型の近鉄特急がオレンジを基調とした塗装であるのに対し、「あをによし」は光沢のある深い紫色に、金のアクセントがあしらわれた塗装で、他の特急車両とは一線を画した車両であることが一目でわかります。
紫色の車体に、金のエンブレムといういでたちの「あをによし」。紫は天平時代に高貴な色とされました。エンブレムは、めでたいことが起こる前兆とされる鳥、瑞鳥(ずいちょう)が花枝などをくわえたあしらいの「吉祥文様 花喰鳥(きっしょうもんよう はなくいどり)」。
近鉄奈良側の先頭車が1号車。車内はツインシートです。
2号車にはサロンシートと販売カウンターがあります。サロンシート部分は窓がとても大きく、目を引きます。
2号車 サロンシートの隣の販売カウンター部分には窓がなく、大きな柄があしらわれています。
2号車 販売カウンター部分の通路側は縦長の窓が並びます。
3号車車内はツインシートですが、車椅子対応の座席やトイレがあります。
3号車の反対側。車椅子対応トイレ部分の外装には大きなイラストが。
4号車が京都、大阪側の先頭車。車内はツインシートです。
「あをによし」の車内
「あをによし」は4両編成で、座席は1、3、4号車の3両がツインシート、2号車がサロンシートになっています。
「あをによし」のスタンダードな座席、ツインシート。通路を挟んで、窓向きのペア席と、向かい合わせのペア席が並んでいます。窓向きの席は、近鉄奈良に向かって走っているときの進行左側です。
3号車のサロンシート。3人連れ、または4人連れで利用できます。3区画、計12席しかないので、競争率の高い座席と言えます。
通路とはパーテーションで仕切られているだけですが、半個室感があります。
2号車には販売カウンターもあります。
あをによしオリジナルのバターサンドや、奈良名物大仏プリン、各種ドリンクなどが売られています。
販売カウンターでは乗車記念証を頂くことができます。
3号車は車椅子対応車両。窓2つ分が車椅子スペースになっており、広々とした空間が広がっています。
車椅子スペース側の仕切り扉も幅が広い両開き仕様。
デッキには多目的トイレがあります。
洗面所の洗面鉢は焼き物。
4号車の運転台寄りデッキの手前にはライブラリーがあります。この部分のソファーは座席指定ではないフリースペースで、ここに座ってゆっくり本を読むことができます。もっとも、乗車時間が短いので、ここでゆっくりしてしまうのももったいないですが。
「あをによし」に乗る
京都 15:00 ===> 近鉄奈良 15:34 特急あをによし
京都から近鉄奈良まで、あをによしに乗ってみました。近鉄の京都駅はJRの京都駅に隣接しており、新幹線やJR各線からの乗り換えも便利です。なお、駅の表示は「近鉄京都駅」となっていますが、近鉄の京都駅は駅名としてはあくまでも「京都」で、「近鉄」も含んだ駅名の「近鉄奈良」とは違います。
乗車するのは15:00発の近鉄奈良行き。駅名は「近鉄奈良」が正しいですが、表示は省略されて「奈良」だけになっています。
14:25に京都行きとして到着したあをによしは、車内整備ののち、14:40頃には乗車できるようになっていました。運転時間がわずか30分少々なので、早めに乗車して車内をじっくり見ることができるのは有難いです。
隣のホームに停車する特急を横目に、京都を出発。
京都を発車するとすぐに新幹線が見えました。
京都市内を見渡す高架橋の上を走ります。
鴨川を渡ります。
伏見付近では小高い山の上にそびえる伏見桃山城の模擬天守がちらりと見えましたが、残念ながら写真に収めることはできませんでした。
伏見、桃山あたりはどことなく歴史を感じる街並みを車窓から見ることができます。
宇治川を渡ります。この鉄橋はとても大きく、迫力を感じるものですが、残念ながら列車の車内からでは橋の迫力は感じきれません。
車窓には田畑もみえるようになってきました。販売スペースのカウンターは正倉院をイメージしたデザイン。
木津川を渡ります。これまで渡った鴨川、宇治川、木津川は1本に合流して淀川になります。
あいにくの雨ですが、窓向きのゆったりとした座席に座って、車窓に広がる広々とした景色を楽しむのは良いものです。
ため池のほとりを走ります。
木々の多い景色になったと思ったら再び町の風景となり、大和西大寺に到着しました。大和西大寺は、大阪方面、京都方面、奈良方面、橿原神宮前方面の4方向のレールが交わるターミナル駅です。
大和西大寺を発車。多くの線路が分かれて行きます。
大和西大寺を出ると、列車は広い野原の真ん中を走ります。ここは世界遺産の平城京跡です。遺跡のど真ん中を突っ切って線路が敷かれているのも珍しいですが、この線路が敷かれたころ、遺跡を避けて通ったつもりが、その後の調査で実は線路が通っている部分も遺跡であると分かったのだとか。この区間は、大和西大寺駅の高架化とともに、平城京跡を回り込んだルートに線路を付け替える計画があります。
復元された建物もありますが、あいにく雨で見づらいのが残念。
平城京跡を通過すると程なくして線路は地下に入り、終点の近鉄奈良駅に到着しました。京都から34分、あっという間の旅でした。
到着した列車はあわただしく整備が進められ、折り返し京都行きとなって新たな乗客を迎えます。
到着から16分で折り返し京都行きとして発車していきました。
乗車時間は34分という短さながら、ゆったりとしたシートに身をゆだねて楽しむ「あをによし」の旅はとても良いものでした。京都と奈良、大阪という有名観光地を結び、観光地から観光地への移動も観光にした観光列車「あをによし」は、何度も乗ってみたくなる魅力的な列車でした。
2023年4月