廃線になった鉄道の線路は、道路やサイクリングロードに生まれ変わったり、はたまたそのまま放置され自然に還ったりと、各地でさまざまな対応がなされていますが、レールをそのまま残して活用する、という方法も、最近ではだんだんと増えてきています。
そんな場所のひとつ、岐阜県飛騨市にあるGattan Go!! (ガッタンゴー)では、自転車を横に2台並べて固定してレールを走れる車輪を付けた「レールマウンテンバイク」で廃止路線のレールの上を約3㎞にわたってサイクリングできます。
2019年8月、Gattan Go!! に乗りましたが、ただレールの上を走るサイクリングと思うなかれ、とにかく楽しい!そのときの様子をご紹介します。
- 旧 神岡鉄道の廃線を利用して2007年に運行開始
- コースは2つ まちなかコースと渓谷コース
- ガッタンゴーの予約は 乗車希望の車両を決めてから
- ガッタンゴーへのアクセス
- ガッタンゴー まちなかコースを漕ぐ
旧 神岡鉄道の廃線を利用して2007年に運行開始
神岡鉄道も営業収入の8割を占めた神岡鉱山からの貨物輸送がトラックに切り替えられて廃止になったことから経営の屋台骨を失い、とうとう2006年12月1日に路線自体も廃止となってしまい、その廃線跡の一部(全19.9㎞のうち、2.9㎞区間)を利用して2007年から実験運行を開始したのがレールマウンテンバイク Gattan Go ‼ (以下、「ガッタンゴー」と表記)です。実験運行が好評を博したことから、冬季を除く通年運行がされるようになりました。
コースは2つ まちなかコースと渓谷コース
開業以来ガッタンゴー は、旧神岡鉄道の終点から3駅間、奥飛騨温泉口駅から神岡鉱山前駅の間を往復するコースで運行されてきましたが、2018年春からは漆山駅から二ツ屋トンネルの間を往復するコースも開設されました。これにより、開業時からのコースには「まちなかコース」、新設コースは「渓谷コース」という名前がつけられました。
各コースの概要は下記のとおりです。
「まちなかコース」
区間 :旧奥飛騨温泉口駅から旧神岡鉱山前駅往復 約5.8㎞(片道約2.9㎞)
所要時間:事前説明含む全所要時間 約1時間(サイクリング時間40~50分)
車両ラインナップ:
・2人漕ぎ 2人乗り ハイブリット車
・2人漕ぎ 2~5人乗り 2階建てシートセット
・2人漕ぎ 2~3人乗り 観覧シートセット
・4人漕ぎ 4人乗り タンデム車
・1人漕ぎ 1~3人乗り サイドカー
・2人漕ぎ 2~3人乗り 車いす特等席つき おくひだ2号
・1人~6人乗り スタッフがバイクで牽引 木製トロッコ
「渓谷コース」
区間 :旧漆山駅から旧二ツ屋トンネル往復 約6.6㎞(片道3.3㎞)
所要時間:事前説明含む全所要時間 約75分(サイクリング時間40~55分)
車両ラインナップ:
2人漕ぎ+1人用補助いす 観覧シート車両のみ。(定員2~3名)
その他:安全上の理由により未就学児は渓谷コースへの乗車不可(補助いすの乗車でも不可)
ガッタンゴーの予約は 乗車希望の車両を決めてから
インターネット予約の場合は、各コースごとに用意された予約ページからすすみますが、
2階建てシート車の料金は、2021年7月現在 ¥5,700/1台(税込)です。(2019年8月当時は¥5,500)
ガッタンゴーへのアクセス
<バス利用>
・高山濃飛バスセンターから
濃飛バス神岡営業所まで 濃飛バス 約1時間20分
「まちなかコース」 神岡営業所から旧奥飛騨温泉口駅まで 濃飛バス 約12分
「渓谷コース」 神岡営業所からガッタンゴー漆山駅まで 濃飛バス 約25分
・JR高山本線 飛騨古川駅から
濃飛バス神岡営業所まで 濃飛バス 約45分
「まちなかコース」 神岡営業所から旧奥飛騨温泉口駅まで 濃飛バス 約12分
「渓谷コース」 神岡営業所からガッタンゴー漆山駅まで 濃飛バス 約25分
・JR高山本線 猪谷駅から
「まちなかコース」 濃飛バス神岡営業所まで 濃飛バス 約50分
神岡営業所から旧奥飛騨温泉口駅まで 濃飛バス 約12分
「渓谷コース」 ガッタンゴー漆山駅まで 濃飛バス 約20分
・松本バスターミナルから
平湯温泉まで 濃飛バス/アルピコ交通 約1時間40分
「まちなかコース」 平湯温泉から旧奥飛騨温泉口駅まで 濃飛バス 約1時間
「渓谷コース」 平湯温泉から濃飛バス神岡営業所まで 濃飛バス 約1時間15分
神岡営業所からガッタンゴー漆山駅まで 濃飛バス 約25分
上記いずれもバスの本数が少なく、スムーズに乗り継げないこともあります。その場合、乗り継ぎ地からのタクシー利用が便利かと思います。
また、濃飛バスでは高山/古川からの路線バスとタクシー、ガッタンゴー乗車がセットになったツアーも販売しているので、こちらの利用もよさそうです。
気ままなバス旅 | 濃飛バス公式サイト (nouhibus.co.jp)
<車利用>
・高山駅から
「まちなかコース」 約36㎞、約45分
「渓谷コース」 約45㎞、約1時間
・富山空港から
「まちなかコース」 約45㎞、約1時間
「渓谷コース」 約33㎞、約40分
・松本ICから
「まちなかコース」 約79㎞、約1時間45分
「渓谷コース」 約90㎞、約2時間
ガッタンゴー まちなかコースを漕ぐ
レールマウンテンバイクの乗り場は旧プラットホーム。隣には神岡鉄道の現役時代に走っていたディーゼルカーが置かれていました。(この写真は帰着時に撮影)
出発するとすぐに記念写真を撮ってくださり、希望者は帰着後に購入することができます。
旧奥飛騨温泉駅を出発
旧奥飛騨温泉口駅の構内を抜け、いよいよ本線へ。レールの継ぎ目やポイントを通過するときの音や揺れが、まるで列車になったかのようで楽しいです。
右に渓谷と赤い橋を見て走り、旧神岡大橋駅を通過。まちなかコースは、旧奥飛騨温泉口駅と旧神岡鉱山前駅の間を往復しますが、その間に2つの駅の跡があります。
視線を下に向けるとこんな感じです。電動アシスト付き自転車なので、上り坂でも安心。
コースにはトンネルや橋も
民家の裏を通りカーブを曲がるとトンネルが見えてきました。トンネルに入るワクワク感がたまらない!
ひんやりとした空気が気持ちいいまっくらなトンネルの出口の光がだんだん大きくなってきて、ぱっと景色が開けたと思うと、橋の上に躍り出ます。橋からは神岡の街並みが見下ろせました。
この橋の上には2つめの駅、旧飛騨神岡駅があり、ここを通過すると再びトンネルに入ります。
2つめのトンネルはさきほどのトンネルよりも長く、線路もカーブしているので出口が見えず、より冒険気分が高まります。
ポイントを渡り折り返し点の旧神岡鉱山前駅へ
そんな2つ目のトンネルを抜け、緑の中をしばらく走ると、折り返し点の旧神岡鉱山前駅が見えてきました。目の前に迫るポイントが、右方向に進路が開通しているのがわかります。ここまでおよそ15分ほどのサイクリングでしたが、楽しくてあっという間でした。
ガタガタと揺れながらポイントを通過し、車体は右方向へ進んで行きます。
右側の線路に合流したと思ったらさらに次のポイントで再び右へ。ポイントをいくつも渡ってクネクネと進んで行くのは楽しいです。
旧神岡鉱山前駅ではいったんバイクから降りて、同じ時刻に出発したグループのすべてのバイクが到着するのを待ちます。
順次到着するバイクを係の方が手際よく線路から取り外し、線路際に並べていきました。
折り返し待ちのごちそうは 湧き水で冷やした野菜
鉱山前駅の線路際にはドボドボと勢いよく湧き水が注ぐシンクがあり、トマトときゅうりが浮かんでいます。折り返し待ちの間にどちらかひとつどうぞ、ということだったので、有難くトマトを頂きました。夏の午後、自転車を漕いだ後の火照った体に、良く冷えたトマトがおいしい!傍らには塩も置いてありました。
鉱山前駅からは鉱山の工場と街並みを一望
神岡鉱山は2001年に採掘中止になるまで130年間にわたって亜鉛、鉛、銀といった鉱物を産出してきました。長い歴史の中には公害病のイタイイタイ病という暗いできごともありましたが、ここで産出された鉱物が日本の近代化を支えてきたことは間違いありません。そして現在では、鉱山内の地下に造られたスーパーカミオカンデという装置を使ってニュートリノを観測し、2002年の小柴教授、2015年の梶田教授のノーベル物理学賞受賞に寄与した地として、輝かしい歴史を持っています。
そんな神岡鉱山は、鉱石の採掘こそ終了していますが、資源加工やリサイクルなどを行うため、現在も工場が稼働してます。神岡鉱山前駅からは、高原川を挟んだ対岸に位置する工場と、川沿いに続く街並みを一望することができました。
帰り道は上り勾配 でも電動アシスト付きなのでラクラク
鉱山前駅でトマトをたべたり景色を見たりしているうちに、いつの間にかバイクが奥飛騨温泉口方面を向いてレールにセットされていました。往路と同様、係の方の合図に従って順番に出発していきます。
ふたたびポイントをクネクネ渡って、本線へ。
神岡鉱山前から奥飛騨温泉口へ向かう復路は上り勾配が続きますが、バイクは電動アシスト付きなのでスイスイ走って行けます。往路に走ったところを引き返すだけですが、進行方向が逆なので景色の見え方も違い、飽きません。
復路の最初に通るトンネルではレールにイルミネーションの演出が!これは美しいです。
ふたたび旧飛騨神岡駅を通過。ここは国鉄時代は飛騨船津という名前の駅で、終点の奥飛騨温泉口駅が神岡駅を名乗っていました。第3セクターへの転換時に、飛騨神岡、奥飛騨温泉口に改称されました。
駅の下には川が流れています。
廃線になった線路は普通はすぐに錆びて茶色くなってしまいますが、ここの線路は銀色に輝き、まだまだ元気に活躍しているんだぞ、と主張しているようでうれしくなります。
旧奥飛騨温泉口駅に戻って来ました。赤い手旗に従っていったん停止。
勢いをつけて一段高くなった乗降場へのスロープをあがると、レールマウンテンバイクの旅も終了です。
到着するとすぐに係の方がバイクの向きを回転させ、次回グループの出発に備えていました。
引退したディーゼルカーは休憩所として開放されていました。車内には囲炉裏があり、特徴的な車両でした。
運転席から前を覗けば、いまも現役の路線のよう。
線路の間に湧き水を引き込んだ足湯ならぬ足水は、暑い時期にはひんやりとして気持ちがよさそう。
2019年8月