そこに線路があるかぎり

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【静岡県】伊豆の観光輸送を支えて30年 引退を迎えた花形列車 スーパービュー踊り子号の旅〔伊東~伊豆急下田/伊豆急行線〕(2019年)

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登場以来30年に渡って東京から伊豆へのアクセスの花形車両として活躍してきたスーパービュー踊り子号が2020年3月をもって引退するというニュースを聞き、2019年12月に出かけた1泊2日の伊豆旅行。昨日は185系特急踊り子号、普通列車リゾート21の黒船電車とキンメ電車、651系快速伊豆クレイル号と、多彩な伊豆の列車たちを楽しみました。今日はいよいよスーパービュー踊り子号での列車旅を満喫したいと思います。 

スーパービュー踊り子号は1990年に運転を開始した東京と伊豆を結ぶ特急列車で、「乗ったらそこは伊豆」をコンセプトに開発された251系がこの列車の専用車両として活躍しており、スーパービューの名のとおり運転席の後ろの展望席や大きな側面窓から眺望が楽しめることが自慢です。10両編成のうち下田側の1号車と2号車、東京側先頭の10号車の計3両が2階建て構造で、下田側2両の2階はグリーン席(かつてはそのうち1両が喫煙車両)、1号車の1階がサロン室と売店、2号車の1階がグリーン個室になっています。3号車から10号車は普通車ですが、9号車と、10号車2階はグループ利用を想定したボックス席(のちに他の普通車と同じ2人掛け回転クロスシートに改装)、10号車の1階には子供が遊べるスペースが備えられており、幅広い客層のニーズに応え、乗ること自体を楽しんでもらおうという意欲的に開発された車両と言えましょう。
せっかくなので今日はそのスーパービュー踊り子号のさまざまな設備をできる限り楽しんでみたいと思います。

あいにくの雨模様だった昨日とはうって変わって青空が広がり、温暖な伊豆のあたたかな冬の、気持ちのいい朝を迎えました。伊豆高原は、伊豆急行の本社や車庫のある拠点駅。駅前広場には足湯があり、駅を出た瞬間から温泉気分を高めてくれます。足湯の前からは一段低くなったところにある伊豆高原駅のホームとその向こうに広がる車両基地、そしてさらにその先には冬のやわらかな陽の光に輝く林と海も見通すことができます。基地には紺色のロイヤルエクスプレスが止まっていました。この車両はもともとリゾート21の最終編成として製造された車両が改装されたもので、横浜と伊豆急下田を結び、車内では豪華な食事を楽しむことができます。

【公式】THE ROYAL EXPRESS (the-royalexpress.jp)

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伊豆高原伊豆急行線の開業時に観光開発のイメージアップを狙ってつけられた駅名ですが、今ではこの周辺地域の呼び名として広くその名が知られるようになりました。海に近く、海抜高度も駅舎部分でおよそ70mほどしかない低い場所にもかかわらず「高原」とは、よくよく考えてみれば変な気もしますが、広々として見通しが良く、爽快な空気が漂うこのあたりには確かに高原の空気感があります。水色のアクセントカラーがさわやかな8000系普通列車も、この高原らしい風景によく似合います。

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 駅前の足湯に入り、駅に出入りする列車や車庫に停まる列車をしばらく眺めていると、乗車する列車の時間が近づいたので、改札口を入り3番線ホームに向かいました。
 

 

カラフルなクッションの子供室は揺れる車内でも安心な遊び場

 伊豆高原  10:42 ---> 伊東 11:03 伊豆急行線 特急スーパービュー踊り子2号

 本日最初に乗るのは上り東京行きスーパービュー踊り子2号。この列車は始発の伊豆急下田を10:04 に出て終着の東京には12:41に着くというダイヤで、宿泊施設をチェックアウトしてすぐ東京に帰りたいという人にはちょうど良い時間帯に運転されていますが、我々は東京に帰るわけではなく、わずか19分の乗車で次の停車駅伊東で下車する予定です。なぜこのように短い区間で利用することにしたかというと、伊豆急行線内の特急料金がJR線内に比べてリーズナブルに設定されており気軽に利用できること、東京方面からだと熱海や伊東など途中駅までの利用の需要もあるため伊東より先の伊豆急行線内に入ったほうが乗客が少なく、車内設備を落ち着いて利用できる可能性があること、そして伊豆急行線内の景色がいいことから、せっかくなので短距離でもスーパービュー踊り子号の車内設備を楽しもうと計画したわけです。伊豆高原から伊東までのスーパービュー踊り子特急券は520円、JR線内でほぼ同じくらいの所要時間の熱海から伊東だと特急券は1290円なので、伊豆急線内だとだいぶリーズナブルに利用できます。

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伊豆高原から乗り込んだのは先頭の10号車。客室に入ると上る階段と下る階段がありますが、この下り階段の先が子供室になっています。階段部分は狭いスペースながら大きな窓とあいまって広々とした空間に感じますが、下りたところで振り返ってみると、せまっこさを感じる階段にちょっとした隠れ家的な気分になります。

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 子供室はカラフルですが少しくたびれた感のあるクッションで囲まれていて、時代を感じるモニターが乗っている台も角が養生されているので、揺れる列車内でも安心して遊べそうです。このカラフルな空間の持つわくわく感と、普段は静かにしなさいと言われている列車内で思いっきり飛び跳ねて遊んでいいぞ、と言われていることに子供も大喜びです。それほど広くないスペースなので他の利用客がいたら遊べないかと思っていたのですが、この時間の列車ならば小さい子供連れの利用も少ないのではという狙いも当たり、幸いこのとき他の利用客はいませんでした。何か遊具があるわけでもありませんが、靴を脱いで飛び跳ねたり、クッションの上に立って窓際の赤いバーにつかまりながら景色を眺めたり、普通の列車内ではできない貴重な経験に、子供も大いに楽しんでいました。今回は20分ほどの短時間の利用でしたが、特に1時間を超える乗車などで子供が退屈してぐずりだしたとき、こういう設備があるのは非常に助かると思います。なお、この子供室の隣にはアコーディオンカーテンで仕切られた授乳室もありました。

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なお、この子供室のある10号車の先頭部分は、雛壇状の普通車前面展望席になっています。f:id:nikonikotrain:20191208105503j:plain

迫力ある前面展望のグリーン席とくつろぎのサロン室

伊東 11:18 ---> 伊豆急下田 12:12 伊豆急行線 特急スーパービュー踊り子3号

伊東でスーパービュー踊り子2号を降りたら、15分後に発車するスーパービュー踊り子3号に乗って今来た道を引き返し、終着の伊豆急下田に向かいます。今度乗るのはグリーン車の先頭車最前列、前面展望が楽しめる席です。
スーパービュー踊り子に乗るからにはやはりこの席に乗っておきたいと思いましたが、やはり人気がありますし、下り列車でしか先頭にならないので、特に土日1泊2日旅行の往路となる土曜の午前中の便でこの席を予約するのは困難でした。そこで日曜の列車の伊豆急線内だけの利用ならば予約もいくらか取りやすいのではないかと、ネット予約のえきねっとのサイトで見てみると、日曜の3号、伊東から伊豆急下田の最前列に空席が!ところが、えきねっとでは空席の確認はできるものの、伊豆急線内だけの利用にっついてはネット予約はおろか、JRの駅のみどりの窓口での発売も不可で(JRだけの区間、またはJRと伊豆急にまたがった区間ならばネットでもみどりの窓口でも購入可)、購入できるのは伊東~伊豆急下田伊豆急線内で窓口がある駅だけです(伊東はJRが管理している駅ですが、伊東は伊豆急の始発駅なので伊豆急の端末があるようです)。
そこで昨日、先に買われてしまいはしないだろうかとドキドキしながら踊り子号を伊東で降り、指定券を購入したのでした。日曜といえど人気の最前列のシートがずっと空いていたとは考えにくいので、先客は熱海か伊東で降りられたのだと思います。

カーブを曲がってスーパービュー踊り子3号が伊東駅のホームに入って来ました。

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最前列の席に座り、発車するとさっそくアテンダントの方が飲み物のオーダーを取りに来てくださいました。グリーン車にはウェルカムドリンクがついています。
楽しみな前面展望はというと、これが残念なことに、ちょうど座席に座った目線の高さのあたりに窓の横梁があり、すこし前かがみになって視点を下げないと線路の先を見通すことができないつくりになっています。しかしながら、運転席との仕切りのガラスは下のほうが曇りガラスになっているのであまり視点をさげることもできず、少々もどかしいものがあります。このグリーン車最前列席には20年ほど前にも一度乗ったことがありますが、そのときも横梁が邪魔だなあ、という感想を持ったのを覚えています。とはいえ、多少姿勢の工夫はいるものの、やはり前方の景色が見えるのは楽しいことです。

さきほど出発した伊豆高原に戻って来ました。 

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 運転席後ろの展望席の区画には2人席+1人席の座席が2列、計6席があり、伊東を発車した時点では我々のほかには2列目の2人席にご夫婦らしき方々がお座りでしたが、その方々も伊豆高原で降りられ、ここからは展望席は我々だけになりました。

伊豆高原を出たところでは保存されている旧型の車両が見えました。
トンネルや鉄橋を越え、下田を目指して南下して行きます。

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伊豆熱川では185系踊り子号と行き違い。昨日バナナワニ園に向かう途中に見かけた交換風景です。

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 グリーン車の座席は、肉厚でゆったりとしていて快適な座り心地。

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海岸線を走る区間、昨日も雨空の下で見た景色ですがよく晴れた海の景色は昨日と印象が全然違います。
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 晴れた海の景色を楽しみ、線路が海岸を離れたところで、サロン室に行ってみることにしました。先ほど乗った子供室と同様、先頭車両の1階部分に作られていて、小さな売店があり、お菓子などを買うこともできます。

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やわらかな照明が照らす空間はとても落ち着いた雰囲気です。f:id:nikonikotrain:20201210020916j:plain

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伊東から54分、185系踊り子号に迎えられて終点の伊豆急下田に到着。快適な時間を過ごせたグリーン車の旅も終了です。伊東から伊豆急下田までのスーパービュー踊り子のグリーン券は1190円、JRだと1810円の距離なので、お得にグリーン車を楽しめました。

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木造の湯屋の風情が最高な金谷旅館千人風呂で日帰り入浴

伊豆急下田 12:22 ---> 蓮台寺 12:25 伊豆急行線 普通

伊豆急下田からは普通列車に乗って1駅戻り、蓮台寺で下車。この旅初めての普通列車の8000系に乗って、また乗車車両のバリエーションが1種類加わりました。f:id:nikonikotrain:20191208122843j:plain

蓮台寺は下田から2kmほどにある山に抱かれた温泉地です。下田の温泉はこの蓮台寺からの引湯によって栄えたという歴史があるとおり、湯量豊富な温泉が湧いています。
今回は蓮台寺駅から徒歩5分ほどの便利な場所にあり、千人風呂という大きな木造の浴場が有名な金谷旅館さんで日帰り入浴をさせて頂くことにしました。

佇まいが素敵な玄関を入ると古く美しい木造の旅館の光景が広がっていました。

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玄関に置かれている水槽に妙に大きな金魚が・・・コイ!?
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お風呂はうわさに違わず素晴らしく、大正4年に建てられたという総檜づくりの木造の湯屋に、長さ20m、幅5mという大きな湯舟がしつらえられており、木のぬくもりを感じながら自家源泉掛け流しという温泉に浸かるのは至福のひとときです。小さいながらも露天風呂もあり、内湯と露天を行ったり来たりしているとあっという間に時間が経ってしまいます。日曜の昼間ということもあってかそこそこ入浴客も多かったですが、いつかぜひ宿泊してゆっくりこの風呂を思う存分楽しみたいと思いました。

【公式サイト】金谷旅館 -自家源泉掛け流し 千人風呂- (kanayaryokan.jp)

ロープウェイで寝姿山に登る

蓮台寺 13:54 ---> 伊豆急下田 13:57 伊豆急行線 普通

素敵な温泉を楽しんだ後は再び下田に戻ります。やってきたのはリゾート21キンメ電車。昨日も乗った電車ではありますが、やはり1駅ですぐ降りるのがもったいなく思える素敵な列車だと思いました。f:id:nikonikotrain:20201210021305j:plain

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下田ではロープウェイに乗って寝姿山に登ります。ロープウェイの乗り場は伊豆急下田駅から歩いて3分ほど。切符を買って待っていると、深い藍色に塗られたゴンドラが降りてきました。このデザインは今朝伊豆高原で見かけたロイヤルエクスプレスに合わせたもので、どちらも有名な鉄道デザイナー、水戸岡鋭二氏によるデザインです。
ロープウェイの乗車時間は短く、およそ3分ほどで山上の寝姿山駅に到着。ここには水戸岡氏デザインのレストランがあり、ロイヤルエクスプレスで下田に着いた乗客が引き続きその世界観で観光ができるようになっています。

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寝姿山の上は遊歩道があり散策ができました。展望台からの伊豆諸島が望めは絶景!f:id:nikonikotrain:20191208143718j:plain伊豆急下田駅を見下ろせる場所もあり、駅で休むスーパービュー踊り子号が見えました。f:id:nikonikotrain:20191208151105j:plain

下田ロープウェイ 寝姿山 ロープウェイ (ropeway.co.jp)

普通車でもスーパービュー 大きな窓に映る夕暮れの海

伊豆急下田 16:07 ---> 新宿 18:57 伊豆急行線、JR伊東線東海道線 特急スーパービュー踊り子10号

再びロープウェイに乗って下田に戻り、最後はスーパービュー踊り子号で東京に帰ります。できれば個室に乗って見たかったのですが3室しかない個室は人気が高く、この日も満室だったので、スタンダードな普通車を予約してあります。

発車時刻が近づいて改札が始まりホームに入ると隣のホームにはロイヤルエクスプレスが停車していました。f:id:nikonikotrain:20201210021714j:plain

 2日間にわたって行ったり来たりして楽しんだ伊豆急行線の景色は何度見ても美しく、特に海沿いの区間では夕暮れの空に浮かぶ伊豆諸島の島影が印象的な眺望が楽しめました。それにしても普通車でもこの大きさの窓、スーパービューの名に恥じぬ車両です。f:id:nikonikotrain:20191208163103j:plain 伊東を出るころには外は暗くなりましたが、少々肌寒くも感じるのは大きな窓から外の冷気が伝わってしまうからでしょうか。やがて暖房が強くなりポカポカしてきましたが、車内の温度調整にはスーパービューゆえの難しさもあるのかもしれません。

いつの間にか眠ってしまい、気がつくともうすぐ横浜に着こうかという頃でした。子供も目覚め、もう一度子供室に行きたいというので連れて行くと、子供室はすでに何組かの家族で賑わっていました。やはり有名観光地へのアクセスを担う列車においてこの設備は子連れにとって大変有難いものです。
18:57に新宿着、伊豆急下田から2時間50分の旅が終わりました。列車は池袋行きなので、少々の停車ののち最後の1駅に歩みを進めるのをホームで見送りました。登場から30年が経ち、いまもなお魅力と楽しさを感じる列車の引退はとても残念ですが、楽しい列車旅の思い出は多くの乗客の胸の中にいつまでも残っていることでしょう。

 

2019年12月