引退迫る特急車両でアクセス 多彩な列車で楽しむ伊豆急行線の旅 【静岡県】(2019年)

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風光明媚な景色と温泉、そしてうまいもの。旅の醍醐味の代表格が3拍子揃っていて、東京から列車で2~3時間と旅らしさを感じるにも程よい距離の伊豆は、言わずと知れた人気の観光地です。

伊豆半島には、熱海から半島東部の海岸線をたどり、伊東を経て下田へ至るJR伊東線伊豆急行線と、三島から半島中央部をたどり伊豆市修善寺に至る伊豆箱根鉄道駿豆(すんず)線の2本の鉄道ルートがあります。この2本のルートのうち歴史が古いのは半島中央部ルートで、1898年(明治31年)に開業した豆相鉄道をルーツとした当時の駿豆鉄道が、1924年大正13年)に修善寺までの路線を開業させています。一方の東海岸ルートはというと、1935年(昭和10年)の部分開業から1938年(昭和13年)に伊東までの全線が開業した国鉄伊東線に始まり、伊東から先、下田までの伊豆急行線が開業したのは1961年(昭和36年)のことでした。 

中央部ルートより30年以上も遅れて開通した東海岸ルートの鉄道ですが、海岸線を走る絶景の車窓が楽しめる区間や、網代、伊東、熱川、稲取などの有名温泉地、大室山や城ケ崎海岸といった自然美、河津桜や下田の水仙などの花、数々の観光施設など、魅力あふれる観光スポットを沿線に多く抱えて伊豆観光のメインルートとなり、観光客を意識した車両の導入も積極的に行われています。

そんな観光客向けの人気列車の1つ、特急スーパービュー踊り子が2020年3月に引退することが発表されました。また、普通の踊り子号に使われている緑のストライプの185系車両も遠くない将来後継車両に置き換えられることがアナウンスされており、伊豆アクセスの特急列車は変革の時を迎えています。そこで、これらの特急列車に乗り、合わせて他の多彩で魅力的な伊豆の列車たちを楽しもうと、2019年12月、1泊2日の伊豆旅行に出かけました。

 グリーンのストライプが印象的な185系特急踊り子号

新宿 8:30 ---> 伊東 10:16  JR東海道本線伊東線 特急踊り子161号

 旅のはじまりは新宿 8:30発 特急踊り子161号 伊豆急下田行き。土曜・休日に運転されるこの時刻の列車は、基本的にはスーパービュー踊り子1号として運転されていますが、スーパービューに使われる251系車両が検査など使えないときは、同じ停車駅、同じ時刻で、一般の踊り子号用車両185系を使用した踊り子161号として運転されます。2019年12月は中旬までが185系、下旬が251系での運転予定になっていました。f:id:nikonikotrain:20191207082941j:plainf:id:nikonikotrain:20191207082524j:plain

1981年に登場したこの185系は、緑の斜めストライプの塗装が印象的で、画一的な塗装ばかりだった当時の国鉄車両の中でこの斬新な塗装は驚きをもって迎えられました。一方、車内の設備はというと、座席はリクライニングせず、座面の中心を軸に背もたれを反対側に倒して向きを変える転換クロスシートであり座り心地が悪いこと、保温性と遮音性に優れた固定窓ではなく窓が開く構造であることなどから、特急車両としては格の落ちるものと認識されていました。なぜ居住性を犠牲にしてこのような設備になったのかと言えば、この185系が特急列車としての設備を持ちながらも通勤列車としても使えるようにという相反する使命を盛り込んで開発されたためで、持てる資源を余すことなく活用しようという当時の国鉄の懐事情をうかがい知ることができます。なお、座席はその後換装され、現在はリクライニングでき、座席をまるごと回転させて向きを変える仕組みの回転クロスシートになっています。

車内は40年前の国鉄の雰囲気を残していて懐かしさを覚えます。現代においても居住性が特に悪いとも感じず、まだまだ活躍できそうに思いますが、目に見えないところでは老朽化が進んでいるのかもしれません。

新宿を出た列車は武蔵小杉、横浜と停車して乗客を拾い、我々の乗車している自由席の9号車は半分少々の入りとなりました。横浜を出ると次は熱海まで止まりません。

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小田原を通過し箱根の山から流れてくる早川を渡ると家並みも少なくなり、ミカン畑と相模湾の風景が広がります。今日はあいにくの雨模様ですが、それでもやはり海が見えると子供も喜ぶもので、新宿を出て1時間少々が経過してそろそろ飽きだした頃にこの海の景色は有難いです。
熱海で東海道線から伊東線に入ると単線区間になり、スピードもゆっくりになりました。引き続き海の見える車窓ですが子供の退屈は限界に達し、「もう降りたいー」とぐずり出した頃、下車駅の伊東に到着しました。子供の退屈タイマーとぴったり合った伊東下車の選択は、我ながら良いプランだったと思います。

↓ 伊豆急下田へ向けて伊東を発車する踊り子161号f:id:nikonikotrain:20201210013830j:plain

リゾート21黒船電車で湯けむりの駅へ

伊東  10:57 ---> 伊豆熱川 11:29  伊豆急行線 普通列車リゾート21

伊東は鉄道会社の境界駅です。路線図を見ると1本の路線に見える熱海と下田を結ぶ路線ですが、熱海から伊東までがJR伊東線、伊東から伊豆急下田までが伊豆急行線と別の会社の運営で、運賃や料金も伊東を境に別計算になります。ただ、多くの列車がJRと伊豆急を直通運転しているので、利便性は高いです。

伊豆急行線普通列車にはリゾート21という名物車両があります。運転席うしろには雛壇状に前向きに並んだ座席があり前面の展望が楽しめ、また先頭車のうしろ半分と中間車両には海側を向いたシートもあり、窓いっぱいに広がる海の眺めを楽しめるようになっています。このような観光客が楽しめる設備の車両ながら特別料金は不要、普通乗車券だけで乗ることができる普通列車として運転されています。

リゾート21は、真っ黒い「黒船電車」と赤い「キンメ電車」の2本があります。どちらがどの日にどの列車に充当するかが伊豆急行のウェブサイトで公開されており、この日は踊り子161号のおよそ40分後に走る普通列車が黒船電車で運転されることになっていたので、踊り子から乗り換えることにします。乗り換える普通列車は熱海始発、全車自由席なので始発の熱海で乗り換えたほうが良い座席を確保できる可能性が高まりますが、伊東乗り換えにしたのは翌日乗車するスーパービュー踊り子号のグリーン車指定席を買うため。踊り子号、スーパービュー踊り子号の指定席券はJRのみどりの窓口やネット予約で買うことができますが、JR区間を含まない、伊豆急行線内だけの利用の場合は伊豆急行線内でしか買えず、ネット予約もできません。明日の伊東から伊豆急下田までの伊豆急行線内利用の指定券を買いたかったので、伊東駅でまず明日の指定席を確保しつつ、リゾート21に乗りかえるというプランになりました。

無事希望の指定券が買えたので、駅構内のカフェでコーヒーブレイクをして乗車する普通列車がやってくるまでの時間を過ごします。頃合いを見てホームに出ると、ほどなくして真っ黒なリゾート21黒船電車がやってきました。黒い電車とは珍しいですが、まさに黒船襲来というような迫力。

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乗車すると運よく先頭部展望室の最前列の席が空いていたので、ここから前方の展望を楽しむことにします。運転士さんのすぐ後ろの特等席です。伊豆急行線は全線が単線なので、途中の駅で反対列車と待ち合わせをしますが、どんな列車と行違うのかを楽しむには、やはり最前部が一番。あと3か月ほどで引退予定のスーパービュー踊り子号や、もう1本のリゾート21、キンメ電車など、カラフルな列車たちと行き違いながら伊豆半島を南下して行きます。

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伊東から30分少々の伊豆熱川で下車。ここは海に向かって落ちる細い谷の上にある、トンネルに挟まれた高架駅です。なんといっても圧巻なのが、あちこちで噴き出す温泉の湯けむり。ホームに降りた瞬間から温泉気分満点です。

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電車に乗ってばかりでも飽きそうなので、これから熱川バナナワニ園を見学することにしています。駅を出て歩いていると、ちょうど駅で185系と251系が行き違いしているのが見えました。湯けむりを背に出発する251系スーパービュー踊り子号、芋虫のようなユニークなフォルムが横から見るとひときわ目立ちます。

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熱川バナナワニ園で南国気分のお散歩を

熱川バナナワニ園は駅から徒歩1分、こんなに駅近で便利な観光施設はなかなかありません。さらに、施設の性質上屋根がある部分も多く、今日のような雨模様の日でも見学しやすいのも有難いところ。

昔、バナナワニ園と聞いて、バナナワニというワニがいるのかと思いましたが、バナナ・ワニ園の意味です。なぜこの地で亜熱帯や熱帯地方の動植物を見せる観光施設ができたのかと言えば、豊富な温泉を利用して温水や温室をつくることができるからでしょう。

熱川バナナワニ園は1958年(昭和33年)開園、すでに60年以上の歴史のある施設で、そこかしこに昭和レトロな懐かしさを感じますが、入園券購入にクレジットカードが使えないところまでレトロなのは残念。

入口を入ると水槽とコンクリートの小さな池がいくつも並び、さまざまな種類のワニたちが思い思いに過ごしていました。寒い季節だからか、はたまた昼という時間帯のせいか、ほぼ動かないですが、いろいろな種類のワニたちを次々に眺めることができるのは楽しいです。

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ワニだけではなく、レッサーパンダやフラミンゴ、ゾウガメやマナティなどもいます。

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フラミンゴ足細いなー、と思いながら温室に入ると、フトモモ。f:id:nikonikotrain:20191207125106j:plain

バナナが緑色で鈴なりになっているところとか、カカオの実が幹からぶらさがっているところとか、普段黄色いバナナやチョコレートという最終形として目にする機会が多いものをオリジナルの姿で見ることができるのは面白いです。

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バナナワニ園は本園と分園に分かれていて、シャトルバスで3分ほどで移動することができます。本園を見て分園へ、また本園に戻って見ていない残りの部分を、と思っていたら次に乗る列車の時間が迫っていたので、残りを大急ぎで見学して駅に向かいました。こういうときにも、駅近のロケーションというのは助かります。最後は慌ただしくなってしまいましたが、南国の動植物をたくさん見ることができ、子供も大満足でした。我が家は1時間半少々の滞在でしたが、ゆっくり見るには2時間くらい時間をとったほうがよさそうです。

 熱川バナナワニ園 (bananawani.jp)

リゾート21キンメ電車 車窓に広がる大海原の絶景

伊豆熱川  13:26 ---> 伊豆急下田 13:57  伊豆急行線 普通列車リゾート21

 熱川バナナワニ園を楽しんだ後はふたたびリゾート21に乗って伊豆急行線の終点、伊豆急下田を目指します。先ほどと同じリゾート21ですが、今度乗るのはキンメ電車。基本的に黒船電車と同じ造りですが、製造時期が違うので細かな仕様が違っていたりもします。

海を見渡す片瀬白田では185系踊り子と交換。ここからは海岸線を走るので、海向きのシートに移動して窓いっぱいに広がる海の景色を楽しもうと思います。f:id:nikonikotrain:20191207133234j:plain

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あいにくの空模様が残念ですが、雄大な海の眺めは心躍るものです。

河津桜で有名な河津を過ぎ、伊豆急行線でいちばん長い谷津トンネル(2796m)をくぐった先にある稲梓は山の中の風情の小さな駅。ここでふたたび185系踊り子号と行き違います。展望室の大きな窓に映る緑ストライプは印象的。
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海向きシートの部分の車内はこのようなつくりになっています。海側は大きな連続窓、山側は座席に合わせた個別の窓、車両の左右で窓の形が違うのがリゾート21の特徴。外観の塗装も、かつては海側が赤、山側が青と、違った色でした。リゾート21の最初の車両が登場したのは1985年。とにかく当時の既成概念を打ち破ろうという気概を持って作られた意欲的な車両であることがわかります。

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 伊豆熱川からおよそ30分で終点の伊豆急下田に到着です。隣のホームと奥の留置線に251系が並んでいました。いまではもう見られなくなってしまった貴重なシーン。f:id:nikonikotrain:20201210014631j:plain

リゾート21|伊豆急-おすすめ電車旅<観光・海・リゾート・温泉> (izukyu.co.jp)

 伊豆急下田では、駅構内にある居酒屋で遅いランチ。キンメ電車を降りたら、やっぱりキンメでしょう。

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 食事を終えてホームを見ると、並んでいる列車の顔ぶれがすっかり変わっていました。1番線には185系踊り子号、2番線に8000系普通列車、そして3番線に651系伊豆クレイル。この時からわずか1か月半後の2020年1月30日、伊豆クレイルが2020年6月をもって引退することが発表されてびっくりです。

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角度を変えると留置線に止まっている251系や185系の姿もわずかに見えます。ここに並ぶ5本の列車のうち4本は2020年~2021年にかけて引退し、2021年4月以降も姿を見ることができるのは2番線の8000系だけになる見込みです。この8000系はもともと東急の車両でしたが伊豆急に譲渡されたもので、伊豆急のウェブサイトによれば新造は昭和45年(1970年)11月からとのこと、つまりここに見える5本の列車のうち、いちばん最後まで活躍する予定なのが一番古い車両とは、人生はわからないものです。f:id:nikonikotrain:20201212002502j:plain

駅を出て裏手に回ってみると留置線に停まる車両がよく見えました。一番右の伊豆クレイルの顔が見えないのが残念ですが、引退予定の車両たちが並んだ貴重なシーンです。

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ピンクゴールドの車体が優美な651系快速伊豆クレイル

伊豆急下田  15:20 ---> 伊豆高原 16:01  伊豆急行線 快速伊豆クレイル

本日の宿は伊豆高原にとってあります。 伊豆急下田から伊豆高原まで乗車する本日のラストランナーは、快速伊豆クレイル号小田原行き。

伊豆クレイルは2016年7月に登場した観光列車で、クレイルとは、イタリア語で大人を意味する cresciutoと、train、接尾辞 ile を組み合わせた造語 CRAILEに、クールのC、レール RAIL、エレガントのE という意味を持たせています。その名のとおりクールでエレガントな大人のリゾート列車というコンセプトで開発され、外観のピンクゴールドのアクセントカラーと、桜、海風、さざなみをイメージしたという唐草模様のような模様から、大人の女性をメインターゲットにしていることが感じられます。

4両編成で構成され、1号車は海向きシートとボックス席、2号車は売店とフリースペース、3号車はコンパートメント席、4号車が普通の特急列車のような回転式リクライニングシートと、すべての車両が違うつくりになっています。1号車と3号車は景色を見ながら食事を楽しむ 旅行商品として食事と乗車のセット販売だけですが、4号車はグリーン車指定券を取れば乗りたい区間だけ乗ることができます。  

 車両はもともと上野~いわき~仙台を結ぶ常磐線の特急スーパーひたちとして誕生した651系車両です。常磐線の特急が新型車両に置き換わったことで、余剰となった車両4両1本が改装され、伊豆クレイルとしてデビューしたわけですが、改装からまだ3年半ほどしか経っておらず、まさかもう引退とは、夢にも思いませんでした。

251系スーパービュー踊り子は1990年運転開始、651系スーパーひたちは1988年運転開始、世の中がバブルに沸き、列車名も「スーパー」がつくとおしゃれでかっこいいと思われていた時代に生まれた同世代の車両が並びます。

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 駅員さんがボードをもってお出迎えをしてくれていたり、子供が駅長さんの帽子をお借りして車両の前で記念写真を撮らせていただけたり、乗る前から楽しい気分になります。

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観光協会や駅員さんにお見送りされ、伊豆クレイル伊豆急下田を発車しました。今回は40分程度の短い乗車時間ですので、さっそく2号車の売店に向かい、営業開始と同時に買い物をします。子供はアイスクリーム、私は冷凍ミカンサワー、奥さんは赤ワイン。
売店の前はラウンジスペースで、旅館のロビーのような2人掛けの椅子が4脚置かれており、売店で買ったものを飲食できるようになっています。f:id:nikonikotrain:20191207152418j:plain

 海沿いの区間にさしかかると一時停車のサービスもあり、ゆっくり海を眺めることができます。せっかくの景色、重ね重ね、天候が残念・・・。

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このラウンジではミニコンサートが行われることになっており、海の見える区間を過ぎてしばらくすると女性シンガーの方がアコースティックギターを持って準備を始められました。普段は同じ静岡県内を中心に活躍されている方だそうです。ミニコンサートは伊豆高原を過ぎたら開始とのことでしたが、我々は伊豆高原で降りる予定なので残念です・・・、というお話をしていたら、少しスタートを早め、この時期らしくクリスマスソングを披露して下さいました。子供も手拍子をしながら喜んで聴いています。ちょうど1曲が終わったところで伊豆高原に到着、お心遣いに感謝しつつ、列車を降りました。短い区間ながら楽しいひとときを過ごせた伊豆クレイルの旅、今度は食事つきプランでゆっくり乗ってみたいな、と思いましたが、まさかの引退でそれが叶わなかったのはとても残念です。

 

2019年12月 乗車