1988年4月10日に供用開始された瀬戸大橋は、3本ある本州四国連絡橋の中でも唯一鉄道が走ることができる橋で、JR四国の瀬戸大橋線(正式名称は本四備讃線)は本州と四国各地を繋ぐ鉄道の大動脈として、観光やビジネス、そして貨物輸送に不可欠なものとなっています。瀬戸内海を大きな吊り橋で渡るため、瀬戸大橋線の車窓の眺めは日本の鉄道路線の中でも唯一無二のもので、何度通ってもその美しさに目を奪われてしまいます。
この瀬戸大橋線には、春から秋の土休日を中心に運転される臨時のトロッコ列車「瀬戸大橋アンパンマントロッコ」が走っていて、これに乗れば、海を渡る風、橋を走る轟音を体いっぱいに感じながら、瀬戸内の美しい景色を眺めるという、ライブ感あふれる列車の旅を楽しむことができます。さらにこの列車は、その名前からもお分かりの通り、子供が大好きなアンパンマンが随所にあしらわれ、子供も大喜びの素敵な列車になっています。2021年10月、このトロッコ列車の旅を楽しみました。
JR四国のアンパンマン列車について
アンパンマン列車って何?
そもそもアンパンマン列車とは何なのかと言うと、アンパンマンの装飾が車体にあしらわれた車両のこと、と解釈すれば良いかと思います。とはいっても、車両によって装飾や設備、運転日もさまざまです。
まず、毎日運転される「しおかぜ」「いしづち」「南風」などの定期特急列車として運転されているアンパンマン列車があります。これらの列車は、定期運用される特急用車両のうち1~2編成にアンパンマン仕様になった編成があり、その編成が使用される列車がアンパンマン列車として運転されていますが、一般の特急列車なのでアンパンマン目的ではない一般利用客も数多く利用します。
そして、指定日のみに運転されるのが「うずしお」「剣山」の一部列車に連結される「ゆうゆうアンパンマンカー」、トロッコ車と窓付きの一般車両が2両1組で専用編成を組む「アンパンマントロッコ」です。
5車種が6つの運転系統を走る JR四国のアンパンマン列車
小さい子供が誰しも通る道、アンパンマン。そのアンパンマンの作者、やなせたかし氏の親御さんが高知県出身だったという縁で、JR四国には「アンパンマン列車」が運転されています。
アンパンマン列車は大きく分けて5車種が存在し、6つの運転系統を走っています。
予讃線 8000系アンパンマン列車:
特急しおかぜ(岡山~松山)+ 特急いしづち(高松~松山)、
特急モーニングエクスプレス松山(新居浜->松山)
「しおかぜ」と「いしづち」は一部を除き宇多津~松山で併結運転。
予讃線 2000系アンパンマン列車:
特急宇和海(松山~宇和島)
土讃線 2700系アンパンマン列車:
特急南風(なんぷう)(岡山~高知)
高徳線 185系ゆうゆうアンパンマンカー:
特急うずしお(高松->徳島)
徳島線 185系ゆうゆうアンパンマンカー:
特急剣山(つるぎさん)(徳島~阿波池田)
瀬戸大橋線 185系+32系アンパンマントロッコ:
瀬戸大橋アンパンマントロッコ(高松~岡山~琴平)
定期列車として毎日運転されているのは予讃線の「しおかぜ」「いしづち」「宇和海」、土讃線の「南風」の4列車(検査などで運用変更の場合を除く)。平日のみ運転されるのが「モーニングエクスプレス松山」です。
なお、これらのアンパンマン列車は編成すべての外装がアンパンマン仕様になっていますが、車内のシートや壁などがフルアンパンマン仕様になっているのは「アンパンマンシート」(1列車に16席ないし24席)とその近くのトイレ、洗面所だけで、その他の客室は通常仕様の内装の天井部分にだけアンパンマンのキャラクターがあしらわれているなど、ライトな仕様になっています。「いしづち」「宇和海」には基本的にアンパンマンシートはありません(いしづち101号、104号に限り曜日によりアンパンマンシートあり)。
土休日を中心とした指定日にだけ定期列車に連結されるのが「うずしお」「剣山」のゆうゆうアンパンマンカーで、ゆうゆうアンパンマンカー車両以外は通常仕様の外観、内装で、アンパンマンの装飾などはありません。
そして、春から秋にかけての土休日を中心に運転される臨時列車が「瀬戸大橋アンパンマントロッコ」です。
なお、これらアンパンマン列車では、始発駅を発車したときと終着駅に着く前に、アンパンマンの歌のチャイムと、アンパンマンによる車内放送が流れます。(流れない場合もあり)
アンパンマン列車に乗るには
アンパンマントロッコを除くアンパンマン列車は「しおかぜ9号」「南風14号」など、通常の特急列車として運転されているので、該当する列車の乗車券と特急券を購入すれば乗車できます。どの列車にアンパンマン列車が充当されているかは、市販の時刻表やJR四国のホームページなどで簡単に調べられます。指定席や自由席、列車によってはグリーン車もあるので、ニーズに合わせて席を選ぶことができますが、アンパンマンシートに座りたい場合は、切符購入時にアンパンマンシートを指定する必要があります。アンパンマンシートの料金は、その列車の通常の指定席料金と同額です。きっぷはJR西日本のネット予約システムe5489や、日本全国のみどりの窓口で購入できます。
瀬戸大橋アンパンマントロッコについて
アンパンマン列車ファミリーの中で唯一の普通列車でありグリーン車であり、また唯一の季節運行(冬季の運転なし)の臨時列車なのがアンパンマントロッコです。トロッコ車両の製造は2003年で、当初は「瀬戸大橋トロッコ」号として活躍していましたが、2006年にアンパンマン仕様に改装され、アンパンマン列車に仲間入りしました。
全席グリーン車指定席の2両編成 1列車の乗客はわずか48名
瀬戸大橋アンパンマントロッコは、岡山側1号車が窓のないトロッコ車両、四国側2号車が窓のある一般車両(控車)の2両編成です。1号車のトロッコ車両に乗車できるのは瀬戸大橋を中心とした限られた区間だけのため、座席指定券は2号車分しか発売されず、基本的には2号車の指定された席に乗車しつつ、トロッコが開放される区間では、持っている2号車指定席と同じ番号のトロッコ車両の席が利用できますよ、ということになっています。
列車の種別は時刻表には特に記載はないので普通列車ということなのでしょうが、通過駅があるので実質的に快速列車と言えそうです。2号車の控車はグリーン車指定席なので、乗車するには乗車券のほかに普通列車用グリーン券で座席指定を受ける必要があります。グリーン券の座席指定なしで乗ることはできません。
冬季を除く土休日を中心に1日2往復運転 運転区間と運転時刻
瀬戸大橋アンパンマントロッコは、土休日を中心とした指定日に運転されます。トロッコと言う性質から、冬季(12月~2月)の運転はありません。
運転される日の運用は、まず高松から岡山へ行き、そして岡山から琴平を1往復したのち、岡山から高松に戻るという、変則の2往復が設定されています。
2号: 高松 9:13発 - 端岡 9:24発 - 鴨川 9:36発 - 坂出 9:43発 - <瀬戸大橋> - 児島 10:05着/10:15発 - 岡山 10:44着
トロッコ乗車可能区間は坂出-->児島(22分間)
1号: 岡山11:18発 - 児島 11:50着/12:10発 - <瀬戸大橋> - 宇多津 12:30発 - 丸亀 12:34発 - 多度津 12:41発 - 善通寺 12:50着/13:01発 - 琴平 13:09着
トロッコ乗車可能区間は児島-->琴平(59分間)
4号: 琴平 13:16発 - 善通寺 13:25発 - 多度津 13:34発 - 丸亀 13:40発 - 宇多津 13:45発 - <瀬戸大橋> - 児島 14:04着/14:23発 - 岡山 14:54着
トロッコ乗車可能区間は琴平-->児島(48分間)
3号: 岡山 15:21 - 児島 16:02着/16:11発 -<瀬戸大橋>- 坂出 16:33着/16:35発 - 鴨川 16:56発 - 端岡 17:14発 - 高松 17:23着
トロッコ乗車可能区間は児島-->坂出(22分間)
このように、琴平発着の1号、4号のほうが高松発着の2号、3号よりもトロッコ乗車可能区間が長くなります。朝夕の便は高松、昼間の便は琴平と、四国側の発着駅が1往復ごとに異なるのは、この列車の車庫が高松にあるということと、昼間の便は、宇多津駅の瀬戸大橋タワーや四国水族館、丸亀駅の丸亀城、善通寺駅の善通寺、琴平駅の金毘羅山など、琴平行きとしたほうが観光地が多いからということでしょうか。なお、運転順序どおり1号、2号…ではなく、2号、1号、4号、3号の順で号数が降られているのは、下り列車が奇数、上り列車が偶数という決まりのためです。
グリーン券は大人も子供も同額
普通列車用グリーン券の値段は距離によって異なり、利用距離が50㎞までは 780円、100kmまでが1000円となっています。瀬戸大橋アンパンマントロッコを全区間乗る場合、岡山~琴平は64.0㎞、岡山~高松は71.8㎞なのでグリーン料金は1000円ですが、児島~琴平 36.2km、児島~高松 44.0km、岡山~宇多津 45.9km など、50㎞以内の区間で利用すれば780円で済みます。
なお、乗車券は子供は大人の半額ですが、グリーン券は大人も子供も同額です。
ボックス席は狭め 3人以下の利用では相席もあり 4人単位での乗車がおすすめ
瀬戸大橋アンパンマントロッコはグリーン車とはいえ、4人掛けのボックス席です。特に2号車の窓付き車両ではシートピッチもシート幅も狭く、席の間にテーブルもあるので、家族4人で座ったならば、楽しく団らんのひと時を過ごすことができます。逆に、知らない人との相席になった場合、座席の距離感の近さゆえ、少々の気まずさも感じそう。実際に私が乗車したときも、並び席が取れなかったと思われる若いカップルが、3人利用の別々のボックス席の1席ずつに肩身が狭そうに座っているのを見かけました。3人で座っていた家族連れは子供にせかされテーブルにアンパンマン弁当を広げたり、せっかくの乗車に記念撮影をしたりと、家族水入らずの時間…のはずが、通路側に1人座る見知らぬ人への気も遣いつつ、そんなことはお構いなしの子供の相手もしつつで、どこか窮屈そうでした。我が家では未就学児の子供の分のグリーン券と乗車券も購入し、家族4人で1ボックスを使えていたので気楽に過ごすことができましたが、この列車への乗車は1ボックスを使える4人単位とするか、もし4人に満たない場合は車内の人口密度が減るトロッコ車開放区間だけの利用とするなどを強くお勧めします。
なお、未就学児が1席を使う場合は、グリーン券(おとなと同額)のほか、子供の乗車券(おとなの半額)も必要です。
グリーン車指定券は全国のみどりの窓口で JR西日本のネット予約 e5489でも
瀬戸大橋アンパンマントロッコのグリーン券は、全国のみどりの窓口や、JR西日本のネット予約、e5489 (イーゴヨヤク)で購入することができます。e5489で予約した場合、きっぷの受け取り箇所は基本的にJR西日本、JR四国、JR九州の駅の指定券販売機やみどりの窓口になりますが、JR東日本でも東京都区内の駅や成田空港駅、空港第2ビル駅、北陸新幹線の駅なら引き取り可能です。私はe5489で予約し、東京都区内の駅のみどりの窓口で引き取りましたが、最初は「e5489の引き取りは北陸新幹線のきっぷだけです」と言われたのですが、そんなはずはないんですが…と確認してもらったところ、「すみません、だいじょうぶでした」と、予約済のアンパンマントロッコのグリーン券を発行してもらえました。東京でe5489を利用する人もまだ少ないのかもしれません。
お受け取り方法│e5489ご利用ガイド:JRおでかけネット (jr-odekake.net)
旅のはじまり岡山駅で ハローキティ新幹線を見学
さて、それではアンパンマントロッコに乗車したときの様子をご紹介しましょう。予約した列車は岡山から琴平に向かう1号です。羽田から飛行機で到着した岡山空港のターンテーブルでは桃太郎がお出迎え。空港からバスで到着した岡山駅でも、犬、サル、キジを従えた桃太郎の銅像が。(この銅像があるのは、空港連絡バスが到着する西口から駅の反対側に出た東口です)
アンパンマントロッコの出発までまだまだ時間がありますが、まずは駅の入場券を買い、新幹線ホームへ。やって来たのはピンク色の見慣れない塗装の500系こだま号。
この車両はハローキティ新幹線で、こだま840号~851号として、博多と新大阪の間を1日1往復しています。(検査などで、他の通常の車両で運転される場合もあり)
博多を朝6:32に出たこだま840号は、岡山駅に9:40に着き、9:53までの13分間停車します。これを見るためにホームに来たというわけです。
車体にはピンク色のリボンがデザインされています。リボンは、キティちゃんのシンボルであるとともに、沿線の地域を「つなぐ」「結ぶ」という意味がこめられているとのこと。
500系の精悍な顔つきに、ピンク色の塗装も意外と似合っています。
先頭の運転席のドア横には制服を着たキティちゃんが。
各車両の乗降ドア横には、リボンの結び目の中に沿線の県のご当地キティちゃんがあしらわれていて、1両1両見て回るのも楽しいです。
入場券では車内に入ることはできませんので外から眺めるだけでしたが、記念写真を撮ったりご当地キティに描かれている各地の名物をチェックしたり、子供もキティちゃん新幹線見学を楽しんでくれたようです。
新大阪に向けて旅を続けるキティちゃん新幹線をお見送り。
ハローキティ新幹線 HelloKitty Shinkansen | JR西日本 (jr-hellokittyshinkansen.jp)
アンパンマントロッコの発車まであと1時間半ほどありますが、観光に出かけるには少し慌ただしくなりそうなので、駅のカフェでゆっくり待つことにしました。
瀬戸大橋アンパンマントロッコに乗る
岡山 11:18 --> 琴平13:09 JR瀬戸大橋線 瀬戸大橋アンパンマントロッコ1号
出発は岡山駅の外れ 7番線ホームから
瀬戸大橋アンパンマントロッコ1号が出発するのは岡山駅の7番線ホーム。この7番線ホームは岡山駅の広島寄りの外れに位置しているので、コンコースからホーム中央あたりに出てしまうと、片側のホームが6番線、反対側のホームは8番線となっていて、7番線がない!と焦ってしまいそうなので要注意です。この写真の発車案内表示でも、左が6番線で右が8番線、前方30mに7番線があることがわかります。そして5番線は後方170mに。岡山駅のJR乗り場はなかなか複雑です。
6、8番線ホームを先に進むと、大きなアンパンマンと虹があしらわれたアンパンマントロッコの車両が見えてきました。7番線ホームは切り欠き型のホームのため、線路は手前側で行き止まりになっています。
手前側1号車のトロッコ車両に乗れるのは途中の児島から。岡山では前寄りの2号車に乗車します。
車体にはアンパンマンのキャラクターがたくさん描かれているので、見ているだけでも楽しい気分に。
アンパンマントロッコ車内 2号車デッキにトイレと多目的室
手元のグリーン券で座席が指定されている先頭の2号車には、前と後ろの2か所にドアがあります。後ろ寄り(1号車寄り)のドアから乗車。ドア部を入ると1段のステップを上がる形となり、段差があるので小さな子供連れやベビーカー利用の際は注意が必要です。
車内に入ると、右手には多目的室とトイレがあり、そしてその向こうにまだ立ち入れないトロッコ車両が。
貫通扉越しにトロッコ車両の中が見えます。
木のベンチ、骨組みの見える天井と丸い照明がトロッコらしい無骨さを醸していますが、そこかしこに施されたアンパンマンの装飾に、この列車がただのトロッコ列車ではないことを感じさせられます。
トイレは洋式。子供用のアタッチ便座もあります。トイレは列車内にこの1か所だけです。
多目的ルームには1人掛けのシート、大きな鏡、小さな流し、そして壁には跳ね上げ式のおむつ交換ベッドが。使用中は大きなカーテンで廊下から目隠しすることができます。
アンパンマントロッコ車内 客席は4人掛けボックスシート 売店やベビーカー置場も
(2号車車内の写真は、トロッコ車両が開放されて2号車の乗客が少なくなってから撮影したものです)
2号車の客室にはボックスシートが並んでいます。背もたれでアンパンマンとバイキンマンがほほ笑むかわいらしいシートはビニール張りで食べ物や飲み物をこぼしても掃除がしやすそう。乳幼児が多く乗ることが考慮されているのかもしれません。
日除けのカーテンを引いてみると、ここにもキャラクターが。
ひとつの窓に4人掛けボックス席が1つという割付です。ボックス席はシートピッチも横幅も狭く、間にテーブルがあることもあいまって、大人がみっちり4人で座ると窮屈かもしれません。3人以下での利用だと同じボックスに知らない人が相席になることもあるので、4人単位での利用がおすすめです。
運転台寄りのデッキ扉の手前には、少しの隙間がありました。大型のスーツケースなどはここに置けそうです。
先頭右側の席をとれば、デッキ越しにはなりますが、席に座りながら前面展望を楽しむことができます。
天井にもキャラクターたちがいっぱい。
2号車客室の1号車よりデッキ手前には売店と、その向かいにベビーカー置き場があります。
アンパンマン列車に乗ったら食べたいアンパンマン弁当は、大人気のようで早々に売り切れに。予約ができるので、確実に入手したい方は予約がおすすめです。
岡山を出発 9割以上が子連れのにぎやかな車内
11:18、岡山駅7番線を発車した瀬戸大橋アンパンマントロッコは、黄色の電車たちが休む車両基地を見下ろしながら、単線の線路を進みます。
車内は9割が子連れの車内はまるで保育園か幼稚園のようで、唯一(と思われる)大人だけで乗車していた若いカップルは、並びの席がとれなかったのか、1人1人別のボックス席の、3人連れ家族(と思われる)の中に座っていて、肩身が狭そう。
この列車の先頭デッキに立てば前方が良く見えるので、そこに行ってしばし前面展望を楽しみます。岡山から2駅目の備前西市で運転停車(旅客案内上は通過扱いながら、実際は行き違いなどのために停車すること。ドアは開かず、乗降はできない)。やってきた対向列車は、昔ながらのオレンジと緑の湘南カラーの電車。岡山地区の電車は基本的に黄色一色に塗られていますが、3両編成が2本だけ、懐かしのカラーとしてこの湘南色のまま残されています。
行き違いの様子をみて席に戻ると、先頭部には入れ替わりに別の親子がやってきて前方の眺めを楽しんでいました。
岡山を発車しておよそ30分で児島に到着。瀬戸大橋線の開通とともに開業したこの駅は、2面のホームに4本の線路がある高架駅です。
JR西日本とJR四国の境界駅 児島からはいよいよトロッコ車両に乗車可能
児島では11:50から12:10まで20分間停車します。この駅からトロッコ車両が開放されますが、駅に停車してすぐにトロッコに乗れるようになるわけではないので、しばらくはそわそわしながら2号車で待機です。少したつと乗務員さんからの案内があり、いよいよトロッコ車両に乗車できました。
トロッコ車両は、木製ベンチの4人掛けボックスシート。座席番号が振ってあり、2号車の指定席と同じ座席番号に座ることができます。シートの座面のひざの高さあたりにも窓があります。
ベンチシートの背もたれや、ひざ横の窓の中にもキャラクターがいます。
最後尾(上り列車では最前部)の運転台は半室構造なので、右側は線路を臨む窓ギリギリのところに立って後方展望(上り列車では前面展望)を楽しむことができます。
車内運転席寄りには、ぴらぴらのビニールでできた葉っぱをめくるとキャラクターが隠れている仕掛けや、アンパンマンとならんで写真が撮れる記念写真スポットがあります。
2号車寄りの壁には大きなイラストが。向こうに見える2号車のデッキや客室扉の装飾と相まって、アンパンマンの世界が奥に続いているように見え、なんだかワクワクします。
トロッコ車は窓がないのが特徴ですが、開口部の下半分にはアクリル板が取り付けられていて、実質的に開口しているのは上半分だけです。これも小さな子供が乗る列車ならではの安全の配慮でしょうか。開口部の下にも小さなまどがならんでいるのがわかります。
トロッコ車の顔は四角四面で、車体自体はデザイン性がまったくないような味気ないものですが、逆に四角四面ゆえにイラストが映える気がします。
列車の前後のヘッドマーク。
2号車前寄りのデッキも、壁いっぱいにイラストが描かれています。ホームからドアを入ると、段差があるので乗車時には注意が必要です。
児島駅のホームからは海が見えます。反対側のホームの駅名板の向こうに見えるのはコジマ電気…ではなく、ヤマダ電機でした。
駅名板には「JEANS STATION」と書かれていますが、児島は国産ジーンズの生産で有名な町です。ジーンズショップが軒を連ねるジーンズストリートというところもあります。
特急しおかぜ松山行きと、その後にやって来た快速マリンライナー高松行きに道を譲ると、アンパンマントロッコもいよいよ出発。
トンネルを抜けて瀬戸大橋へ
児島を出ると左側に漁港と街並みが見えてきます。そしてその先でボートレース場が見えると列車はトンネルへ。
トンネルに響く走行音と車内を吹き荒れる風、そして仄かな明かりを灯す丸い照明に、冒険心を掻き立てられる感じがします。
トンネルを抜けるといよいよ瀬戸大橋へ!鉄骨のトラス越しではありますが、瀬戸内の海と島々の景色が良く見えます。そして車内を吹き抜ける風と迫力ある走行音が、トロッコ列車ならではの楽しさを味わわせてくれます。
瀬戸大橋というのは、小さな島々をつなぐいくつかの橋の集合体のことで、本州側からまず最初に渡るのは下津井瀬戸大橋という名前の吊り橋です。
瀬戸大橋は、上段が高速道路、下段が鉄道の2段構造になっています。鉄道が下なのは、車に比べて鉄道のほうが格段に重いので、重心が低くなり安定するため。
島の上を通過するときには山の隙間から海が見えたり、海上とはまた違った美しい眺めを楽しむことができます。
瀬戸大橋アンパンマントロッコの魅力の一つが、足元の窓。車内の2か所の床に窓がしつらえられており、海面を見下ろすことができるのです。こんな車窓は、日本でもこの列車でしか楽しむことはできません。
後部の運転台の横から眺めた後方展望。線路は橋の中央寄りに2本が敷かれていますが、その外側にも1本ずつ線路が敷けるように作られています。これは新幹線の線路をここに敷こうと計画されて確保されているスぺース。瀬戸大橋線が開業してもう30年以上、四国新幹線の具体的な計画はまだ目にすることがありませんが、果たしていつの日か、ここに新幹線が通る日は来るのでしょうか。
瀬戸大橋が経由する島で最大の島が与島。上段の高速道路にはインターチェンジが設けられ、車なら与島に降りてみることができますが、鉄道は駅がないので通過します。
与島を過ぎると、北備讃瀬戸大橋、南備讃瀬戸大橋と言う2つの大きな吊り橋を続けて渡ります。瀬戸大橋を構成する橋の中で1番長いのが南備讃瀬戸大橋(全長1723m)、2番目に長いのが北備讃瀬戸大橋(全長1611m)で、3番目が最初に渡った下津井瀬戸大橋(1447m)で、これら3つだけが吊り橋になっています。その他の海上の橋は、櫃石島橋、岩黒島橋という2つの斜張橋(やじろべえのように、1本の塔から両側にワイヤーを張り橋を支えるもの)があり、それらの橋を島の上の高架橋などがつないで、本州側から四国側までの一連の橋になっています。
輝く海面を眼下に臨む車窓は、開放的なトロッコ列車ならでは。
四国側の橋のたもとは一大コンビナートになっています。
振り返ると、いま渡ってきた橋が見渡せ、あんなところを走って来たのか、と感慨深いものが。
後方の眺め。高松方面に向かう線路が右に分岐していきます。
いま渡ってきた瀬戸大橋が遠くまで見渡せる絶景が見えたら、まもなく列車は四国最初の停車駅、宇多津に到着します。瀬戸大橋を走っていた時間はおよそ15分ほどですが、思ったよりも長く楽しめた感じがしました。
松山へ行く予讃線から、高知へ行く土讃線が分かれる多度津は、四国の鉄道の重要な拠点で、駅の構内も広いです。留置線に休む列車を後方に見送りつつ、この列車はここから土讃線に入って行きます。
ピラミッドのような三角の山が見えました。
讃岐平野を快調に走ります。
終着琴平の1つ手前、善通寺で11分間の停車。ここでは、反対から来る上り特急との交換と、うしろから来る下り特急の追い抜き待ちがありました。
善通寺は、弘法大使空海の生誕の地として有名で、列車の向こう側にも弘法大使が描かれた看板がありました。
善通寺を出発、最後の1駅をラストスパート。青空の下に続く線路が、何とも気持ちがいいです。(後方展望)
琴平温泉のホテル群が見えてきて、高松と琴平を結ぶ私鉄「ことでん」の線路を跨いだら、終点の琴平はもうすぐ。
金毘羅山、金刀比羅宮の玄関口らしい、風格のある木造上屋がかかるホームを見て、琴平駅2番線ホームに到着。楽しいトロッコ列車の旅もこれでおしまいです。
琴平駅のホームにたなびく幟は、観光列車「四国まんなか千年ものがたり」のもの。色や仕様は異なるものの、千年ものがたりもアンパンマントロッコも、キハ185系という特急車両を改造したものなので、顔の形はおんなじです。
琴平ではわずか7分の停車時間のうちに車内清掃を行い、瀬戸大橋アンパンマントロッコ4号として岡山へ向けて折り返して行きました。
琴平からは岡山行き特急南風に乗り、丸亀というところまで行きますが、この南風号は、黄色いアンパンマン列車でした。
車両の外側は全車両アンパンマンキャラクターのフルラッピングながら、乗車した自由席車両の内装は、シートも壁も通常仕様で、天井にだけ、たくさんのアンパンマンキャラクターたちが。
巨大な吊り橋で海を渡り、絶景の車窓が楽しめるJR瀬戸大橋線。風を浴びてアンパンマントロッコでゆっくり景色を眺めるのは、他の路線、他の車両では味わえない、格別の時間でした。瀬戸大橋アンパンマントロッコは、今年の運転はまもなく終了してしまいますが、暖かくなったらまた何度でも乗ってみたい、素敵な列車です。
2021年10月