2016年3月の北海道新幹線開業とともに、青函トンネルを走る旅客列車は新幹線だけとなり、それまで走っていた在来線旅客列車はすべて廃止されました。急行はまなすも、そんな新幹線にバトンタッチして廃止された列車の1つですが、この列車はJRで最後の「ブルートレイン」の寝台列車、最後の定期急行列車という存在でもありました。旅情を感じるブルートレインの旅を楽しめるのもこれが最後、と、2016年2月、急行はまなすの旅を楽しみました。
急行はまなすについて
急行はまなすは1988年3月の青函トンネル開業とともに設定された夜行急行列車で、青森と札幌の間に1日1往復が設定されました。座席車と寝台車が連結され、座席車には自由席も設定され、指定席にはシートがグレードアップされたドリームカーや、絨毯敷きで横になることができるカーペットカーもあり、幅広い旅のニーズに応えていました。
種別は急行で、特急への格上げや快速への格下げなどで数を減らしてきた急行列車として、定期運転する最後の列車となっていました。
札幌駅からはまなすに乗る
せっかくなので、最後のブルートレインである寝台車に乗りたいと思っていたのですが、廃止前とあって、週末のはまなすの寝台券は予約が難しくなっていました。2月の土曜日の上りの上段寝台をなんとか予約することができ、いざ札幌へと向かいました。
はまなすの札幌発は22:00、終着青森には5:39に着きます。冬ではほぼ全区間で暗く、外の景色が楽しめないのが残念です。
向かいのホームから、はまなすの入線風景を見ます。手前に停車するのはキハ40。はまなすの車両とともに、国鉄時代から活躍する車両が並びます。
はまなすを牽引するディーゼル機関車DD51は、青函トンネル開業とともに登場した北斗星に合わせ、ブルーにゴールドの帯が巻かれた塗装。
ブルーの機関車にブルーの客車、そして雪が積もった線路が、北海道の夜行列車という雰囲気を盛り上げます。
機関車の後ろには座席車が1両、そして寝台車が3両続きます。
寝台車は1号車と2号車の間に増21号車という奇妙な号車番号の車両が連結されています。これは、もともとの号車番号をずらすことなく増結車両を入れるためですが、よくあるパターンでは、4号車の次に増4号車というように、前の号車番号に増を入れたものが多く、増21号車とは珍しいです。
寝台車の後ろにはふたたび座席車が続きます。客車の外板はかなりくたびれた印象です。
キハ40の札幌乗り入れは、この頃すでにだいぶ少なくなっていました。
カーペット敷きののびのびカーペット車両には、ユニークな案内サインが。
発車する4番ホームへ。
上段寝台へははしごでアクセス。
ハシゴの上部は、屋根の丸みに沿ってカーテンレールがあり、スピーカー、手すりが設置されています。
上段寝台には窓がありませんが、この列車は運転時間が短いのでさほど気になりません。転落防止のストラップもあるので、寝相が悪くても下に落ちる心配もありません。通路の上の屋根裏には荷物置き場が設置されています。
揺れとジョイント音、大きな窓に一瞬で過ぎ去る灯り、踏切の音、これぞ寝台車という風情。この風情も、はまなすの廃止と共に過去のものとなってしまいます。


壁には非常用ハンマーという珍しい設備も。固定式窓の車両ならではでしょう。


深夜の函館駅で機関車交換
はまなすは函館駅で進行方向が変わります。いままで牽引してきた青いディーゼル機関車を外し、反対側に赤い電気機関車が連結されます。
切り離された機関車は、隣の機回し線を通って車両基地へ。函館駅は行き止まり式のホームですが、いちばん端の8番線だけは機回し線があったため、機関車牽引の客車列車はこの8番線発着が定番でした。
函館の発車は3:56。
いままで最後尾だった側には、青函トンネル用の赤いED79型電気機関車が連結されていました。


ヘッドマークは客車と連結されている側にも取り付けられていました。もしかすると、下りの札幌行きはまなすを牽いてきた機関車が、折り返し上り青森行きはまなすを牽引するため、両側にヘッドマークを取り付けているのかもしれません。
客車の貫通路からヘッドマークが良く見えます。北国の列車ながら、どこか南国感を感じる色合いのマークです。
寝台車のデッキから車内への扉は引き戸になっています。
寝台車の前に1両だけ連結されていた座席車は、電源車扱いの車両で、乗車はできませんでした。


進行方向を変えて函館を出発、一路青森を目指します。
私が初めて寝台列車に乗ったのは小学生の頃、家族旅行で行った北海道の帰り道の「カートレイン北海道」でした。あのときも函館で進行方向が変わると、青函トンネルが今か今かと、こうして寝台車からワクワクしながら外を眺めていたなあ、と思い出されます。私にとってのブルートレイン体験は、奇しくも始まりも終わりも北海道発本州行きの列車となり、なんとも感慨深いです。
早朝の青森駅で最後のブルートレインとお別れ
函館からしばしまどろむうちに、終着の青森に到着しました。あたりは少し明るくなっています。最後尾では、入換用の機関車の連結作業が始まっていました。


入換用のディーゼル機関車が連結されます。
雪の中の青森駅にたたずむブルーの車体は、なんともいえぬ風情を感じます。
のびのびカーペットカーは、少し変わった窓配置。
屋根の高い寝台車と、普通の屋根の座席車のデコボコ編成は、急行列車らしいものでした。
客車11両という長編成でした。
函館からけん引してきたED79が休んでいます。


はまなすの去った青森駅には普通列車が集い、青森の日常生活が始まっていました。


はまなすの廃止と共に、もう2度と味わえなくなってしまった、なつかしいブルートレインの旅は、いつまでも心の中に思い出として残っています。
2016年2月
冬のブルートレインの旅